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購買履歴×プロファイリング情報で拓ける新たな視界
ビッグデータから「ビジネスに使える“発見”」を得るために必要なこととは?

 「ビッグデータ」という言葉が浸透してしばらく経つが、「ビジネスに使える“発見”」を得られている企業はどれだけあるだろうか。市場調査サービスを提供する側のインテージ、そしてビッグデータをビジネスに役立てる側のアサヒビール、それぞれの担当者がビッグデータ活用の現状を語る。

いま、市場調査サービス会社に求められているのは「発見の提供」

MarkeZine編集部(以下、編): 「ビッグデータ」という言葉が広まり、さまざまな取り組みが事例として紹介されるようになってきました。ビッグデータ解析をめぐる現状について、どのようにお考えでしょうか。

インテージ片桐氏(以下、片桐):われわれのような会社にとって、求められる役割が「調査によって必要なデータを集めてきて顧客企業に渡す」ことや、「データを使い仮説の検証や事象の定量化する」ことから、「データという資産を有効活用し、販売促進の改善などに“役立つ“発見へとクライアント企業を導く」ことへと変化してきたように感じます。

アサヒビール株式会社 マーケティング本部 マーケティング第二部 担当課長 元田済氏 株式会社インテージ MI本部 O2O企画部副部長 チーフアナリティックプランナー 片桐優氏
アサヒビール株式会社 マーケティング本部
マーケティング第二部 担当課長 元田済氏(左)
株式会社インテージ MI本部 O2O企画部副部長
チーフアナリティックプランナー 片桐優氏(右)

アサヒビール 元田氏(以下、元田): 確かに昔と比べて、データを集めることは簡単になっていますね。そうなると片桐さんの仰るとおり、事業会社としては「様々なデータを使って、新しい“発見を得る”」ため、データを分析する新しい切り口を教えていただきたくなります。その点、インテージさんはデータから生活者の意識を読み取り、さらに先の展開を仮説立てするところに長けています。

 当社もこれまでに、さまざまな有益な情報を提供いただいてきました。インテージさんは、いろいろと議論・相談しながらデータ分析のやり方を一緒に考えていける、信頼できるパートナーですね。それだけでなく、データ分析や仮説立ての基盤になる市場データを、自社でしっかりと保有しているところにも魅力を感じます。当社も市場シェアを把握する目的などで、インテージの全国個人消費者パネル調査「SCI-personal」を利用しています。

SCI-personalとは

 全国5万人の男女の個人モニターから、日々購入する食品・飲料・日用雑貨品・医薬品の購買データを収集した市場動向のトラッキングサービス。次の特徴がある。

  • モニターへのアンケートで調べた「健康意識」などの価値観といったプロファイリングデータと、
    購買データを組み合わせて分析できる
  • 商品バーコードレベルで購買データを保持する
  • 2011年からデータが蓄積されており、時系列でさかのぼって分析することも可能

購買データ×プロファイリングデータの分析で浮かび上がった意外な事実

編:SCI-personalの特徴として、購買データとプロファイリングデータを組み合わせて分析できる点があります。どのような活用事例が出てきているのでしょうか。

片桐:お菓子カテゴリXについてプライベートブランド(以下PB)中心に購買する消費者を、SCI-personalで分析したケースがあります。PB商品を買う人=低価格志向と考える人が多いでしょうが、実は全くそうではありませんでした。分析を進めると、PB中心の消費者は「カテゴリXの平均購入単価が全体と比較して20%ほど高い」「PBに限らず、カテゴリXの多くをスーパーでなくコンビニで買っている」ことが分かりました。そのカテゴリは、スーパーで特売品を買った方が安いため、「定価販売のコンビニでPB中心に買う人の方が、平均単価が高くなる」ということなのです。

 高いお金を払ってPBを買っているとなると、その人達は、PBにどのような魅力を感じているのか?が気になりますよね。SCI-personalでは、消費者の購買履歴とあわせて価値観、ライフスタイルなどのプロフィールデータもシングルソースでデータベース化しており、さらなる深掘りをすることが簡単にできます。

 分析を進めると、カテゴリXについてPB中心の消費者層は、「直感的に銘柄を選択する」、「気に入ったものをまとめ買いする」傾向が高いことが分かりました。つまり、PB商品は、買い物自体に、時間的なコストをかけず、すばやく気に入ったものを選び、“ストック”したいというショッパーニーズに応えていたわけです。さらに分析を進め、カテゴリXについてPB商品中心の消費者は、お菓子全体でもPBの構成比が非常に高いこともわかりました。PBのお菓子棚は、いろいろなカテゴリの商品がコンパクトに一同に介していますからね、まさに売り場として、「手早く気に入ったものを選んでまとめて買う」ニーズに応えているわけです。

 PBの価値というと、コストメリットと決めつけがちですので、これはクライアントにとっても非常に大きな発見でした。

元田:商品を「本当に買った」人のデータを使って、価値観、ライフスタイルなどを分析できるのがうれしいところですよね。アンケート調査ではどうしても、「買ってない/他社メーカーの製品を買ったけれど、勘違いで『買った』と選んだ」人が入ってきてしまいますからね。さきほどのPB分析の話でいうと「PB中心で購買している人」を意識からではなく、購買履歴から正確に定義できているからこそ「発見」につながっているのではないでしょうか。人間、自分自身の日常の行動を全て憶えているわけではないので、記憶に依存せず、購買の履歴から定義できるというのはアンケートにはない特長ですよね。

バーコードレベルのデータを持つことで、商品分析をより細かく

編:商品バーコードレベルでデータを持っている点について、事業会社としてはどのようなメリットがあると感じているのでしょうか。

元田:当社は総合酒類メーカーとして、ビール、焼酎、洋酒、チューハイなどを扱っています。バーコードでデータを追えると「どの製品が買われたか」だけでなく、「売れた容器は、びんか、缶か、ペットボトルか」「サイズは何mlのものか」と詳細まで落とし込んで調べられるので、その点がありがたいですね。同じビールであっても、お買い求めいただけたのがスーパードライの350ml缶か、500ml缶かで違いがあります。例えば時系列で調べていくことで、「350ml缶中心だったのが、買い始めて半年後から500ml缶中心になった」といったことが分かるかもしれません。こういった発見は、ある時点しか切り取れないアンケート調査からは得られないでしょう。

 実際、サイズに注目したことで、ビジネスに生かせそうな生活者の動向を発見できたこともあります。例えば、当社の販売しているバーボン「アーリータイムズ イエローラベル」には、200mlから1000mlまでの幅広いサイズがあります。「バーボン=円熟味を増した大人のお酒」というイメージがありますが、意外とコンビニで200mlや350mlの小さなサイズが売れていることに気付きました。分析してみると、全体に比べて若者が買っている割合が高かったんです。一方、500ml以上のサイズでは、40~50代の購入者層が好んで買っている。若者にもバーボンを売り込んでいくためには、小さなサイズの製品を前面に出していくべきだと分かりましたね。

自社が持つ膨大な“行動”データに“人格・顔”を紐付ける「Genometrics」

 インテージはSCI-personalを通して蓄えてきた「購買データとプロファイリングデータを組み合わせたデータベース」を、もっと別の形で利用できないかと考えた。そうして生まれたのが、事業会社などが保有する会員の"購買履歴や小売業の持つID付きのPOSデータ(ID-POSデータ)、ネットのアクセスログなどの“行動履歴”データに“人格・顔”を紐付け、「どんな属性の生活者がした行動なのか」と購買データ×プロファイリングデータで分析できるようにするビッグデータ連携ソリューション「Genometrics」だ。

 仕組みとしては、SCI-personalで取得したデータから、「製品Aを買った人aは、このような価値観を持つ傾向がある」という情報(=「Product DNA」)を抽出する。

 Product DNAとは、年齢・性別といった基本データだけでなく、食生活、健康志向、情報感度、商品感度、消費意識などの多岐にわたる価値観・ライルスタイルを数値化したもの。aが買った製品をすべてリストアップし、全製品のProduct DNAを加味していくことで、aの年齢・性別や価値観(=「Customer DNA」)を推測する。

 Genometricsは、製品だけでなくWebサイトにも対応。Product DNAと同じ手法で「サイトDNA」を定義し、そこからCustomer DNAを推測することも可能だ。

「Genometrics」

片桐:お客様のニーズとして、「会員データの分析を、会員の“自社の外でのこと”も含めてできるといいんだけどね」という声がありました。お客様が求める「自社の外」にある情報の1つは、生活者の詳細なプロファイリングデータ。購買データと会員の性別・年齢などの基本データ情報はあったとしても「この人は、健康意識が高いのか、価格志向は強いのか、品質を吟味する人なのか、情報感度は高いのか」といった会員の情報まで持っている企業はまずないでしょう。一方、SCI-personalで取得しているデータは5万人分しかありません。「渋谷店・新宿店・銀座店それぞれで、どんな人がどのような買物をしているのかを分析したい」といったお客様の要望には応えられません。「それなら、両者のいいとこ取りができないか」と考えて開発したソリューションが「Genometrics」なんです。

元田:個々の製品にDNAがあると考え、そこから利用者のDNAを推定するのはおもしろいですね。今までは利用者の属性から「どんな人が買っているから、こんな傾向のある製品だろう」と製品の属性を推測していましたから、流れが逆になるわけですね。事業会社からすると、ID-POSのような購買履歴しかもたないデータベースを基にして利用者像を探ろうとするのは難しいと考えていました。利用者に「あなたはどんな価値観を持っていますか」と尋ねても、十分な量の回答を集めるのに手間が掛かりますし、そもそも「アンケートに協力的な利用者の属性」というバイアスが掛かってしまいますから。その点、Genometricsは新たにアンケートを取らなくても、十分なプロファイリングデータが手に入るところがいいですね。

片桐:お客様が求める「自社の外」にあるもう1つ情報は、競合店舗での購買行動です。Genometricsでは、購買履歴を元に「このお客様は、他店も含め、どのようなお買い物をしているか?何にどのくらいのお金を使っているのか?」が高い精度で推定できます。例えば、ある女性がドラッグストアでファンデーションやアイシャドーなどを中心に化粧品類をそれなりの金額規模で買っているとします。そのお店の会員データ上では、その女性は優良顧客です。しかし、Genometricsを使いその女性の買っているファンデーションやアイシャドーの銘柄から推定すると、もっとたくさんのお金を化粧品に使っていて、そのドラッグストアが獲得できているのは、その一部に過ぎない、といったことがわかります。さらに、「高い確率でフレグランス商品を購買し、選好されている銘柄は何か?」まで高い精度で推定が可能です。会員データからそんな女性が多いとわかれば、「フレグランスを積極的に仕入れるようにしよう」「陳列場所をファンデーションやアイシャドーの近くに変えよう」といった改善策を考えられるようになります。Genometricsを活用すれば、考え出せる施策が格段に増えると思います。

「本当の意味」での潜在顧客を開拓できるかもしれない

片桐:私自身、Genometricsに一番期待しているのは、「本当の意味で、潜在顧客層の開拓ができるようになるかもしれない」ところです。というのも、現在主流になっている「この商品を買ってくれた人は、高い確率であの商品も買っているので、レコメンド、プッシュしてみよう」というアプローチの販促には、限界があると考えています。アサヒビールさんの商品を例にしますと、スタイルフリーやオフといった機能系商品を飲んでいる人に対して、併買している確率が高いからといって、別の機能系商品をレコメンドしたとしても、同じ商品アルコール飲料カテゴリの場合、商品間のスイッチにとどまり、消費者の飲用量、すなわち、市場そのものが劇的に拡大することはないでしょう。

 そのようなアプローチを取るのではなく、「機能性商品を飲んでいる人は、健康に対する“予防意識が高い”」というプロフィール上の特徴を把握することで、“予防”という価値の文脈で、グループ企業が販売する青汁を薦めて、これまで青汁を飲んでいなかった生活者に新たな製品との出会いを提供できるわけです。

元田:そうできるようになると、大きな意味がありますね。これまではアンケートなど、定量・定性的な調査を積み重ねて、潜在的な顧客像を探ろうとしていました。片桐さんの仰るようなことができるようになれば、潜在顧客像を発掘するための全く新しい取っ掛かりが手に入るかもしれませんね。生活者の日々の行動(買い物)の「結果」の「集積」という膨大な情報をもとに、精度高く、また迅速に、潜在的な機会を抽出できれば、革新的ですね。

目指すは、データ解析から販促のアイディア提案まで通貫したパッケージ化

:今後の計画として、そうした潜在顧客の発掘に役立つような機能をGenometricsに追加する予定はあるのでしょうか。

片桐:そうですね、検討していきたいです。現状では、お客様の持っているビッグデータをインテージが解析・加工して、レポーティングする形でGenometricsのサービスを提供しています。このやり方をシステム化して、お客様が持つビッグデータを受け取ったら自動的に判別して、潜在顧客に「このカテゴリの製品を買ったことはないようですが、買ってみたらどうですか」とメールなどでレコメンドするような仕組みを作り上げたいと考えています。一連のサービスをパッケージ化して提供できるようにしていきたいです。

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

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MarkeZine(マーケジン)
2014/04/21 11:00 https://markezine.jp/article/detail/19477