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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

今こそマーケティングに“温かさ”を 会えない時代に心を打つ、紙媒体の特性を活かしたDMのシナリオ設計

 デジタル×アナログ掛け合わせの有用性を実証すべく、日本郵便が2016年から進めてきた「デジタル×アナログ振興プロジェクト」。産学連携の実証実験から得られた発見をより積極的に発信していきたいと語るのは、プロジェクトを統括する堀口浩司氏だ。本記事では、これまでの活動を振り返るとともに、マーケティングに“温かさ”をもたらすシナリオ設計のポイントについてもうかがった。

マーケターの関心はデジタル全面移行から「掛け合わせの追求」へ

――はじめに、堀口さんの現在のご担当業務について教えてください。

堀口:今年の4月から、郵便・物流営業部を統括しています。私たちの部署は郵便・物流事業の収益性向上を目指して商品企画や営業推進管理、イベントの実施といったマーケティング業務を行っています。

 近年、EC市場の成長やCtoCプラットフォームの普及で「ゆうパック」などの荷物が急増している一方で、手紙やダイレクトメール(以下、「DM」)など郵便物の量は減少しています。しかしデジタルシフトが進む世の中だからこそ、アナログなコミュニケーションの価値や魅力が活きる場面は多くあるはずです。そのような思いから、様々なプロジェクトを進めてきました。

日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 部長 堀口浩司氏
日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 部長 堀口浩司氏

 たとえば手紙の価値を見直すプロジェクト「&Post」では、コミュニケーションの本質を考えるラジオ番組を立ち上げたり、特設Webサイトにて情報を発信したりしています。デジタルとアナログの組み合わせがマーケティングにどのような成果をもたらすかを探る「デジタル×アナログ振興プロジェクト」も、こうした活動の一環です。

――「デジタル×アナログ振興プロジェクト」は今年5年目を迎えました。これまでの活動と世の中の関心事の変化をどうご覧になっていますか。

堀口:これまで様々な業種の企業様にご参加いただき、実証実験を行ってきました。早稲田大学の恩藏教授をはじめとする研究者の皆さまの協力にも支えられ、掛け合わせの相乗効果や成功パターンが見えてきています

 たとえばDMとEメールの送付順序について、DMを先に送付したほうが効果的であり、特に、若年層において「嬉しい」と感じてもらいやすいことや、ロイヤリティの高い顧客にデジタルでのアプローチを繰り返すリスクなどが明らかになりました(参考記事)。印象や肌感覚での議論に留まらず、データをもって実証できた意味はとても大きいと感じています。

 まだまだ道半ばの状態ではありますが、プロジェクトの開始時と比べると、人々のデジタル・アナログへの意識もずいぶんと変化しているようです。とにかくアナログからデジタルへ移行することを目指す企業が多かったのが、現在はデジタルとアナログそれぞれの良いところを活かし、いかに統合して顧客とのコミュニケーションを図っていくかにテーマが変わっていると感じています。

コロナ禍でDMの役割はどう変わった?

――今年は新型コロナウイルスの感染拡大にともない、生活スタイルが大きく変わりました。企業のDMの発送数や活用に関しても変化が見られましたか?

堀口:DMに関しては、営業自粛の影響で出し控えが起こりましたが、業種によっては利用が戻りつつあります。用途としては、難しくなった対面でのコミュニケーションを補完する役割エンゲージメントを高める役割、そして商品やサービスを売り込むのではなく、お客さまに対する気遣いを伝える手段として使われるケースが見受けられます。

 対して受け取り手も、デジタルでコミュニケーションをとる機会が増している中で、紙のDMに温かみを感じたり、特別な気持ちで見るようになっているのではと想像しています。また、家で過ごす時間が増えた中で、紙メディア独自の強みである一覧性の高さや特別感を活かすチャンスが生まれているでしょう。なお、DMはEメールなどのデジタル手段より開封率、行動喚起率、保存率が高いという調査結果も既に出されています。

「パーソナライズ」と「エモーショナル」がトレンド要素に

――毎年開催されている「全日本DM大賞」も今年で35回目を迎えました。近年の応募作品から見えるデジタル×アナログの発展と、クリエイティブやメッセージの傾向について教えてください。

堀口:まず、AIを活用したもの、Web閲覧データや行動データと連動したものなど、デジタルと連携したDMが一定の広がりを見せています。DMの世界でもデータ活用が可能になったことで、最適なターゲット・内容・タイミングで届ける、いわゆるパーソナライズDMが実現できるようになっているのです。

 従来のDMというと、大勢の人たちに一斉に同じ内容を送る“ばら撒き型”が大半を占めていました。いまは、技術の進歩とともに、個々の受け取り手ごとに刺さるやり方でDMを送る企業が増えていて、それによって無駄なコストをかけずに効果を出せる形に変わっています。それにはデジタル施策と同様に、受け取り手の視点に立ち、どのような体験をもたらすことができるのかを考える観点が大事です。

 もうひとつのトレンドとしては、受け取り手に寄り添うエモーショナルなDMが増えていると感じます。受賞作品を例に挙げますと、昨年グランプリを受賞した東京個別指導学院さんは、通塾している受験生の保護者を対象に「母子手帳」を模した冊子型のDMを送り、親子間のコミュニケーションに悩んでいる保護者の感情に寄り添いながら、エンゲージメントを深めています。

2020年にグランプリを受賞した「親子の会話で絆を深める『受験生の母子手帳DM』」(広告主:東京個別指導学院、制作者:フュージョン)(タップで拡大)
2020年にグランプリを受賞した「親子の会話で絆を深める『受験生の母子手帳DM』」
(広告主:東京個別指導学院、制作者:フュージョン)(タップで拡大)

 特別賞を受賞された土屋鞄製造所さんは、同社のランドセルを購入した顧客に対して、「小学生の最初の一年、よく頑張りました」のメッセージと紙のメダルを送って、特別感を出しながら、生活者の気持ちやインサイトに届く温かみのあるマーケティングシナリオを設計していました。

2020年に日本郵便特別賞(エンゲージメント部門)を受賞した「小学校の最初の1年、よく頑張りましたDM」(土屋鞄製造所、タップで拡大)
2020年に日本郵便特別賞(エンゲージメント部門)を受賞した
「小学校の最初の1年、よく頑張りましたDM」
(土屋鞄製造所、タップで拡大)

 特に今年はWithコロナの状況から、人と人との関わりが制限されています。そのような中で、手紙が本来持つ温かさをマーケティングコミュニケーションの中でも体感していただきたい。このような想いを込めて、今年のDM大賞のテーマには「マーケティングに温かさを」を掲げています。

シナリオ設計では「現場感覚」を大切に

――興味深い傾向ですね。人々の心に響くエモーショナルなシナリオを設計するにあたって、ポイントはありますか?

堀口:顧客視点を大事にする、そのための方法として「現場感覚」を忘れないことが必要だと思います。特に弊社のような組織が大きい会社ですと、どうしても現場が遠くなりがちですが、社内コミュニケーションを工夫することで現場の温度感やお客さまが求めていることに常に触れ続けることができるのではないかと思っています。

 加えて、マーケターの皆さまも苦心されていることと思いますが、企業側の都合を押し付けるのではなく、あくまでDMの受け取り手にとって良質な体験をお届けするのが理想的ですよね。DMは企業が自分の知らせたいことをプッシュ型で送る性質を持っています。だからこそ、受け取り手がDMを受け取った際の気持ちに思いを馳せた上で、受け取り手に合わせた最適なものを送ることで、DMの良さが最大限に引き出されます。

――2つのポイントに立ち返りながら、シナリオ設計を進めると良さそうですね。

堀口:はい。一方で、顧客起点の設計は簡単ではなく、想像力に頼らざるを得ない部分もあります。だからこそ「デジタル×アナログ振興プロジェクト」などを通じて、産学連携で最適解を探っていきたいと思っています。様々な業種の企業と一緒になって議論することで、多様な視点が得られたり、イノベーションが生まれるはずです。是非多くの企業の皆さまに関心を持っていただき、ご一緒していただきたいです。

 そして最近は、大手企業に限らず、比較的小規模な飲食店や商店などでも、丁寧なシナリオ設計が光るDMでお客さまとコミュニケーションをとられている例が増え始めています。おもしろい仕掛けや個性的なクリエイティブで注目を引き付けるのもひとつの方法ですが、お客さまの気持ちに寄り添い、貢献度の高い情報発信をすることも、リアルのDMがもつ可能性ではないでしょうか

デジタル×アナログの目指すべき姿とは?

――では、「デジタル×アナログ振興プロジェクト」を推進されるなかで、今後予定されている取り組みを教えてください。

堀口:これまでの実証実験で、多くのデータが蓄積されてきました。5年目となる今期は、その成果を多くの企業の皆さまに還元できるよう発信していく段階にあると考えています。

 そのために進めていきたいことが2つあります。ひとつは、広告・マーケティングに関連する企業と連携して、実証実験で得た知見をより多くの企業の皆さまに広くお役立ていただくための手法を体系化していくこと。もうひとつはDMを活用し効果的なマーケティングができるエキスパートを社内でも増やし、企業の皆さまの様々な課題を解決していくことです。弊社にも「DMマーケティングエキスパート」などDMに関する専門知識を有した社員がおりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

――最後に、マーケティングコミュニケーションにデジタル×アナログが貢献していく未来をどのように想像されているか、お話しください。

堀口:プロジェクトを見てきて、デジタルとアナログ、両方の良い部分を意識せずに享受できる世の中が目指すべき姿だと感じています。生活者としての私たちは無意識のうちにデジタルとアナログの世界を縦横無尽に行き来していて、それがどちらであるかは気にしていません。

 企業側もこの状況に対応していく必要性を感じて、いろいろな取り組みを試していますよね。近年話題となっているDXも、その捉え方は様々でしょうが、本質にあるのはそうした良質な顧客体験を提供しようという考えだと思います。

 しかしながら、一足飛びにその世界を実現するのは難しいものです。最終目標としてシームレスな世界を目指しながら、その過程としてデジタル×アナログの効果的な組み合わせを探り、成功事例を共有してブラッシュアップしていくことを、多くの企業の皆さまと連携しながら進めていければと思います。

 DMというツールは、良質な顧客体験を提供するという観点でお手伝いできることがもっとあると考えています。と言うのも、良質な体験を提供するには継続的な関係構築が欠かせませんが、リアルのDMは、個人間の手紙のやり取りなどと同様に、適度な距離感を保ちつつ、長期間、継続的にコミュニケーションをとるのに向いているからです。

 マーケターの皆さまに今以上にリアルのDMを効果的に活用していただくにあたって、できる限り多くの皆さまと一緒になって、社会全体で未来のコミュニケーションのあり方を考えていければと考えています。

――本日はありがとうございました。

デジタル×アナログの事例&研究成果をアーカイブサイトにて公開中! 閲覧はこちらから!

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/12/07 11:00 https://markezine.jp/article/detail/34896