マーケティングファネルとはなにか
消費者が商品やサービスを認知してから購入に至るまでのプロセスを図で可視化したものを「マーケティングファネル」と言い、消費者の購買行動を補足する分析の一つとして使われるフレームワークです。
マーケティングファネルは、「AIDMA(アイドマ)」というマーケティングモデルを基に発展し誕生したと言われています。一般的なファネルは、以下の4つのフェーズに分けられます。
- 認知:消費者が商品やサービスを認知するフェーズ
- 興味・関心:商品やサービスに興味を持ち、詳しい情報を調べるフェーズ
- 比較・検討:集めた情報をもとに他社の商品やサービスと比較・検討するフェーズ
- 購入(決定):最終的に商品やサービスを購入するか決断するフェーズ
ファネルは、各フェーズを進めるにつれて見込み顧客の数が減少します。
たとえば、商品やサービスの名前を知っている人が100人いた場合、興味関心を持つ人が70人、比較・検討する人が40人、最終的に購入意欲が残った見込み顧客が購入に至ります。このような消費者心理を表したものがマーケティングファネルです。
ファネルの4つのフェーズを理解することで、効果的な施策の実施や、どのフェーズで消費者が離脱してしまうかの分析を行えます。このように商品・サービスのマーケティング活動における課題発見にも役立ちます。
マーケティングファネルの重要性
マーケティングファネルの重要性は、消費者の購買行動を可視化し最適なマーケティング施策の立案ができる点にあります。
商品・サービスの売り上げを伸ばすには、フェーズごとに最適なマーケティング施策の実施が必要です。消費者が各フェーズで求める情報は異なります。各フェーズの消費者心理を理解せずに施策を実行してしまうと成果につながらず、機会損失を生んでしまうでしょう。このような機会損失のリスクを抑えるために、マーケティングファネルのフレームワークを取り入れる企業は増えています。
たとえば「認知フェーズに購入を促す訴求を出す」「認知に特化した広告の露出を多くする」など各購買フェーズの消費者心理や課題を明確にせずに施策を実行すると、的外れになってしまいます。
各フェーズの消費者心理に合致したマーケティング施策を立案するためにも、ファネルを理解しましょう。
マーケティングファネルを活用するメリット4つ
マーケティングファネルを活用するメリットは、大きく4つあります。
- ユーザーの購買プロセスを把握できる
- ユーザーが離脱するポイントを把握できる
- 適切なマーケティング戦略の構築ができる
- フェーズに合わせたマーケティング施策が実施できる
それぞれについて、詳しく紹介します。
1.ユーザーの購買プロセスを把握できる
1つ目に「ユーザーの購買プロセスを把握できる」ことです。マーケティングファネルを活用することでフェーズごとに消費者が商品・サービスを購入するまでの過程を可視化できます。フェーズごとに消費者が起こすアクションを明確にし、マーケティング施策の策定につなげられます。
「認知」から最終的な「購入」に至るまでの、フェーズごとに施策やコミュニケーション戦略を練ることができ、マーケティング活動をより効果的なものにすることができるでしょう。
2.ユーザーが離脱するポイントを把握できる
2つ目に「ユーザーが離脱するポイントを把握できる」ことです。マーケティングファネルは、購買フェーズが進むことで見込み顧客の離脱が多いポイントや理由・要因を明確にできます。
見込み顧客が、どの購買フェーズで離脱してしまっているのかを把握できれば、どこを改善すべきか優先順位を整理できます。離脱ポイントを分析して効率的な改善施策を打ちましょう。
3.適切なマーケティング戦略の構築ができる
3つ目に「適切なマーケティング戦略の構築ができる」ことです。前述した通り、ファネルを活用することで購買フェーズごとにマーケティング施策やコミュニケーション戦略を立てられます。
購買フェーズごとに目標設定もできるため、マーケティング施策を実行していく中で各フェーズの分析や評価を行えます。これにより「どのフェーズが伸ばせそうか」「どのフェーズに課題があるのか」が明確になり、一つひとつ最適な施策を考えやすくなるでしょう。
4.フェーズに合わせたマーケティング施策が実施できる
4つ目に「フェーズに合わせたマーケティング施策が実施できる」ことです。ファネルは、商品・サービスの「認知」から「購入」に至るまでの購買行動を段階的に可視化したもので、マーケティング施策も段階的に考案できます。
たとえば「認知」や「興味・関心」のフェーズにはSNSや広告を活用したアプローチを行い、「比較・検討」の段階では商品・サービスの資料や無料体験などを実施することで、購買意欲を高められるでしょう。
効果的なマーケティング施策を実施するために、ファネルごとに媒体(メディア)やメッセージを整理することを意識してください。

マーケティングファネル3種類
マーケティングファネルには、一般的な漏斗形のファネル図を含め以下の3つの種類があります。
- パーチェスファネル
- インフルエンスファネル
- ダブルファネル
各マーケティングファネルについて詳しく紹介します。
1.パーチェスファネル
パーチェスファネルとは、一般的なマーケティングファネルを指します。マーケティングモデルの「AIDMA」を基にしたファネルです。
消費者の購買行動を「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」の4つのフェーズに分けて可視化したものです。企業の最終目的は、商品・サービスの売り上げを伸ばすことなので、「購入」フェーズへ到達する消費者をどのように増やすのか、どのフェーズで離脱が多いのかなどを分析します。
分析した結果を基に、改善施策を練ることや上手くいっている施策は他の商品・サービスの施策に横展開するなどが可能です。
2.インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、商品・サービスを購入した後の消費者の行動を可視化したものです。図は「継続」「紹介」「発信」の順に数が増える三角形になります。SaaS・ECサイトやサブスクリプションの商品・サービスなど、購入後の継続利用を重視しているビジネスモデルで使用されます。
インフルエンスファネルが生まれた背景には、消費者の購買行動の多様化があります。従来のマーケティングファネルでは「購入」フェーズが完了すると消費者の行動はそこで終わりでした。しかしSNSの普及に伴い、消費者は満足度が高い場合にSNSに口コミを投稿します。投稿された口コミが広がり他の消費者の目に留まり、見込み顧客が生まれます。
効率的なマーケティング活動を行うためには、「購入」の先を見据え「商品・サービスに対して、どのようなイメージを持ってほしいか」「どうしたら口コミを投稿したくなるか」など消費者主体の考え方が必要です。
3.ダブルファネル(デュアルファネル)
ダブルファネル(デュアルファネル)は、先に紹介した2つのマーケティングファネルを組み合わせたものです。2つのファネルを組み合わせることで「認知」から「継続」「発信」までの顧客の全体の行動を把握できます。
従来のマーケティングファネルは、商品・サービスの購入前と購入後を分けて考えていました。しかし消費者の購買行動の多様化にともない、現在は「認知」から「拡散」までを統合して見ることが重要です。
パーチェスファネルとインフルエンスファネルの2つを組み合わせることで、新規顧客の獲得から既存顧客の囲い込みまで一貫した施策が実行でき、マーケティング効果の最大化が期待できるという考えからダブルファネルは生まれました。
マーケティングファネルの活用方法
これまでに紹介した「パーチェスファネル」「インフルエンスファネル」「ダブルファネル(デュアルファネル)」についての特徴について紹介しました。では、各マーケティングファネルをどのように活用するのかに進みましょう。
1.パーチェスファネルの活用方法
パーチェスファネルは、「認知」から「購入」の各フェーズに自社の顧客数を当てはめると、どのフェーズにどのくらいの顧客がいるのか把握できます。顧客数が大きく減少している箇所がある場合、そのフェーズに顧客が離脱してしまう原因があると考えられます。
たとえば、「比較・検討」で見込み顧客の離脱が多い場合には、競合他社の商品・サービスとの比較・検討を促すための情報量不足や、質が十分でないと言えるでしょう。見込み顧客の離脱が多いフェーズを明確にして、最適な施策を検討しましょう。

各フェーズで、どのような施策を行うのか例を挙げます。
- 認知:WebサイトやLPにリスティング広告やディスプレイ広告を活用して集客を図る。
- 興味・関心:商品・サービスの価値や情報を広告バナーやWebサイト・LPに掲載する。資料請求やホワイトペーパー・メルマガ登録を促し必要な情報を集める。
- 比較・検討:実績や導入事例を用いて、競合他社の商品・サービスとの比較を行う。セミナーや無料体験の機会を設けて実際に商品・サービスを体験してもらう。
- 購入(決定):リターゲティング広告の実施や、セミナー・無料体験後のフォロー。
このようにフェーズごとに整理をして、施策に取り組みましょう。各フェーズで目標設定を行えば進捗も確認でき、要因分析と改善を繰り返し行えます。
2.インフルエンスファネルの活用方法
インフルエンスファネルは、「継続」「紹介」「発信」の順に各フェーズの顧客数を増やすことが目的になります。「発信」フェーズの顧客数を増やすには、各SNSで顧客がどのような口コミを投稿しているのか、商品・サービスにどのような評価をつけているのかを確認しましょう。
口コミの投稿数の多さで安心するのではなく、内容をしっかりと確認することが重要です。口コミの内容が商品・サービスについての不満が多い場合には、見込み顧客の離脱に影響を与えます。口コミから商品・サービスにどのような課題があるのかキャッチアップして改善を図り、顧客満足度の向上を意識しましょう。
3.ダブルファネル(デュアルファネル)の活用方法
ダブルファネル(デュアルファネル)を活用すると、パーチェスファネルとインフルエンスファネル2つのマーケティング施策の連動が可能になります。パーチェスファネルとインフルエンスファネルは、それぞれ消費者が商品・サービスを購入する前後の購買モデルですが、連動させることで施策の効果を高められます。
まずは、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの各フェーズに自社の顧客数を当てはめます。この時、ファネルの形がいびつになっている箇所があれば、そのフェーズに問題があると言えるでしょう。施策の見直しや新しい施策を検討して改善を図りましょう。
たとえば、「発信」のフェーズのファネルがいびつになっているのであれば、口コミの投稿をしてもらうための施策が必要になります。「商品購入後に口コミを投稿でクーポンプレゼント」などの施策を打ち、口コミの投稿数の増加を狙いましょう。
また定期的に施策に取り組み、ダブルファネルに顧客数を当てはめて効果検証を行うことで状況把握に役立ちます。
マーケティングファネルは古いのか?
紹介してきた従来のマーケティングファネルについては「古い」という意見もよく耳にします。なぜ「古い」と言われているのか理由は大きく2つあります。
- 購買行動の多様化
- 購入前後の顧客体験の変化
それぞれについて、詳しく紹介します。
1.購買行動の多様化
1つ目に「購買行動の多様化」です。従来のマーケティングファネルは、「顧客行動の最大公約数」「一直線型の購買モデル」と言われ「認知」から「購入」まで直線的に進むことが前提でした。
しかし、スマートフォンの普及により消費者の購買行動は多様化し、消費者の行動は「認知」から「購入」まで直線的に進むものではなくなりました。購買行動が変化したことで、従来のマーケティングファネルは「古い」と言われています。
多様化した購買行動をGoogle社は「バタフライ・サーキット」というモデルで提示しています。1つの商品・サービスを購入するまでに、様々な情報収集を行ったり来たりすることを指しています。ある消費者が旅行券の購入しようと検索をしている際に、なぜか当初と違う旅先の情報を調べる。あるいは、気晴らしに検索をしているのに、そこで見知った商品・サービスを突然ためらいもなく購入してしまう、という購買行動です。
消費者は気になる商品・サービスがあればインターネットで検索を行います。ある程度情報を集めると、次はSNSを活用して実際に使用している人の口コミを探し、また別の商品へ興味が移っていきます。このように多様化した消費者の購買行動は画一的なモデルでは捉えることが難しくなっています。
2.購入前後の顧客体験の変化
2つ目に「購入前後の顧客体験の変化」です。「モノ消費からコト消費」「所有から利用・体験」などと言われるように、消費者の購買行動の他に商品・サービスのビジネスモデルも多様化しています。
商品・サービスもサブスクリプションモデルやシェアリングモデルといったものが増え、企業はマーケティング活動におけるゴール設定を「購入」から「体験価値の提供」や「継続利用」へシフトしました。
従来のマーケティングファネルでは「購入」や「継続利用」「発信」をゴールとしており、その後の消費者の行動を追うことができないため「古い」と言われています。

最新のマーケティングファネル
スマートフォンの普及によって多様化・複雑化した顧客の購買行動を捉えるために設計された最新のマーケティングファネルが2つあります。
- マイクロモーメントファネル
- ルーピングファネル
2つの最新型のマーケティングファネルについて詳しく見ていきましょう。
1.マイクロモーメントファネル
マイクロモーメントファネルとは、Googleが提唱した考え方です。マイクロモーメントは瞬間的な要求を指し、消費者の意思や動機をフェーズに分けて可視化したものです。マイクロモーメントファネルは、以下の4つに分類されます。
- 知りたい(know):消費者が「◯◯について知りたい」と感じた瞬間。自発的に検索行動を起こす。
- 行きたい(go):消費者が「近くのカフェに行きたい」「近くのラーメン屋さんに行きたい」と感じた瞬間。多くの消費者が、お店に行く前に店舗検索を行う。
- したい(want to do):消費者が「何かをしたい・やりたい」と感じた瞬間。たとえば「公開中 映画」と検索する消費者は「公開中の作品で気になるものがあれば映画館に観に行きたい」という行動心理が考えられる。
- 買いたい(want to go):消費者が「商品・サービスを購入したい」と感じた瞬間。消費者が「店舗に足を運ぶ」という具体的な行動が考えられる。
マイクロモーメントの特徴を理解することで、各フェーズで消費者のニーズに適したコンテンツや情報を届けられます。消費者のモーメントを捉えた施策を行いPDCAを回し、マーケティング効果の最大化を図ることが今後のマーケティング活動で重要になるでしょう。
2.ルーピングファネル
ルーピングファネルとは商品・サービスの「認知」から「購入」、その先の「紹介」「発信」のフェーズまでの購買行動を円形(ループ)で表現したものです。
従来のマーケティングファネルのように最終的なゴールまでを直線的に捉えるのではなく、それぞれのフェーズに円形(ループ)があり、商品・サービスの購入を検討する様子や特定のフェーズを介さず購入するケースにも対応できます。多様化・複雑化した購買行動を捉えたマーケティングファネルです。
新しいマーケティングのフレームワーク
マーケティングファネルの他に、マーケティングのフレームワークも新しいものが設計されています。今回は以下の2つを紹介します。
- 顧客の意思決定の旅
- フライホイール
自社のマーケティング活動でも活用してみてください。
1.顧客の意思決定の旅
1つ目は「顧客の意思決定の旅」です。マッキンゼーが提唱した4つのフェーズを経るフレームワークです。4つのフェーズは以下の通りです。
- 初期段階
- 積極的な評価
- 購入の瞬間
- 購入後の体験
マーケティングファネルは、漏斗状になっているため下層に進むにつれて対象者数が減少します。一方で、「顧客の意思決定の旅」では対象者数の減少を伴いません。初期段階で認知されておらず、検討外となっていた場合でも、積極的な評価に進んだ際に検討する商品・サービスとして新たに追加される可能性が加味されています。
このフレームワークでは、企業のマーケティング活動の終点を「購入」としていません。購入した後の顧客体験からブランドや商品・サービスへのファン化や信頼を獲得し、ロイヤルティを高めて継続利用に導くことが示されています。
2.フライホイール
2つ目は「フライホイール」です。「フライホイール」はアメリカのマーケティング会社であるHubSpotが提唱した循環型のマーケティングモデルです。
「フライホイール」は日本語で「弾み車」を意味します。自動車などに利用される部品で回転エネルギーを効率的に伝えるものです。HubSpotは、一連の購買行動を一種のエネルギーとして捉え「フライホイール」を考えました。好循環により大きなエネルギーが生まれ、ビジネスが成長するというものです。
消費者の購買行動において、以下の3つを回転させて顧客の成長を促し推奨者になってもらうことで、新規顧客の獲得や継続利用につなげられるという考え方です。
- 惹きつけ(Attract)
- 信頼関係(Engage)
- 顧客満足(Delight)
「フライホイール」は顧客を中心としたフレームワークです。商品・サービスを購入したあとも、顧客との関係性が続くことで好循環が生まれビジネスが拡大します。
従来のマーケティングファネルと異なり抽象的なフレームワークなので、分析のハードルはありますが多様化・複雑化した顧客の購買行動を捉えたものと言えます。
まとめ
マーケティング活動を効率的に進める上で、マーケティングファネルの活用は重要です。ファネルに自社の顧客数を当てはめることで、顧客の購買行動を可視化し最適な施策の立案ができます。
マーケティングファネルを活用する際には、多様化した顧客の購買行動を捉えるためにダブルファネル(デュアルファネル)を用いましょう。「認知」から「継続利用」「発信」までを一気通貫で捉え、各フェーズに適したマーケティング施策の立案が可能です。
また従来のマーケティングファネルで顧客の購買行動を捉えきれない場合には、マイクロモーメントファネルやルーピングファネルといった最新のファネルを活用してみてください。ファネルを上手く使いPDCAを回して、マーケティング効果の最大化を図りましょう。