消費者購買行動モデルの基本形「AIDMA」
AIDMA(アイドマ)は、消費者購買行動モデルの基本形だといえる。まずは、AIDMAが何を意味するのか、それぞれの文字が何を指すのかを見ていくところから始めよう。
AIDMAとは?
1924年、アメリカのサミュエル・ローランド・ホールの著書「Retail Advertising and Selling」の中で発表されたのが、AIDMAだ。消費者の心理にもとづく消費行動の流れを分析、体系化し、フレームワークとして提唱した。1800年代後半から1900年代初頭に数多く提唱された消費行動モデルのひとつだ。約100年が経過しているものの、日本では今も参考にされることの多いモデルとして広く知られている。
AIDMAという5文字は、消費者の心理プロセスを表す英単語の頭文字を集めたものだ。
- A:Attention(注意・注目)
- I:Interest(興味・関心)
- D:Desire(欲求)
- M:Memory(記憶)
- A:Action(行動)
この5つのプロセスは、大きく3つの段階に分けることもできる。商品やサービスを知り(認知)、興味があれば欲しいと思い、記憶に残ったものを(感情)買いに行く(行動)という流れだ。
- 第1プロセス:認知段階 「Attention(注意・注目)」
- 第2プロセス:感情段階 「Interest(興味・関心)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」
- 第3プロセス:行動段階 「Action(行動)」
では、それぞれの要素を詳しく見ていこう。
Attention:注意・注目(認識)「初めて見る」
Attentionは、注意や注目という意味で、消費者の購買行動の始まりにあたる。第1プロセスの認知段階で、認知とは商品やサービスを初めて見る、知ることだ。顧客との最初のタッチポイント(接点)でもある。
顧客が初めて商品やサービスを知るのには、近年ではさまざまな手段がある。具体的には、新聞、雑誌、ラジオ、テレビのマスコミ4媒体に加えて、プロモーションメディア広告とインターネット広告という3種類に大きくわかれる。
現在では、マスコミ4媒体よりインターネット広告のほうが広告費に占める割合は高い。インターネット広告とは、WebサイトやECモール、動画配信プラットフォーム、SNSなどだ。インフルエンサーを起用したプロモーションも少なくない。プロモーションメディア広告に該当するのは、DM、屋外広告、折込広告、フリーペーパー、POP、イベントなどだ。
商品やサービスのターゲットとなる見込み顧客や潜在顧客層に向けて、どのような媒体にどのような広告やキャンペーンなどを掲載してタッチポイントを作り出すのが効果的かということが、今の時代のマーケターには求められているといえるだろう。
Interest:興味・関心「これは何だろう」
Interestは、興味や関心を指す。認知した商品やサービスに対して興味を引くフェーズで、第2プロセスの感情段階にあたる。「これは何だろう?」「面白そうだ」「良さそうだ」などといった顧客の興味を引く、または逸らさないというフェーズともいえる。
顧客は目にした広告やプロモーションが、自分にとって興味があるものかどうかを瞬時に判断するといわれている。例えば、CMや動画などは5~6秒という世界だ。顧客にとってまったく関心のないものなら、時間はもっと短いだろう。
新聞や雑誌のような印刷媒体やラジオなどの音声媒体、テレビや配信などの動画媒体など、媒体によって表現手段は異なる。顧客が興味を持つコンテンツはもちろんのこと、飽きさせない仕掛けや見やすさに配慮したデザインも重要だといえる。
Desire:欲求「欲しい」
Desireは欲求で、「欲しい」「買いたい」と思わせることを意味する。顧客の感情に訴える第2プロセスだ。顧客が商品やサービスを知った上で興味を持ち、購入に向けた欲求を高めるフェーズで、商品の魅力や購入のベネフィットを訴求することがポイントとなる。
認知の段階で顧客に伝わっているのは、商品やサービスのイメージなので、そこから購入への欲求を高めていくには、商品やサービスについてもっと詳しく知ってもらわなければならない。具体的には、次のような方法がある。
- 直感的な好き嫌いや面白い、新しい、楽しいなどといった感情に訴える
- 効果や機能を訴える
- 購入するベネフィットを伝える
この段階では、顧客が商品やサービスを購入する価値があるのか、価格に見合っているのかなどについても検討していると考えよう。価値が十分に伝わっていないと購入につながらないため、商品やサービスの詳細な情報や効果、機能といった購入のベネフィットを顧客に伝えることが重要だ。その際には、以下の3点を考慮する必要がある。
- 顧客にとって、そもそも商品やサービスを買う必要がない
- 類似品との違いが伝わっていない
- 購入のベネフィットが顧客に十分に伝わっていない
買いたいという欲求を高めるためには、購入すると期待できる効果や利用することでどのような変化がもたらされるかなどの点について、できるだけ具体的に伝えるのがよいとされている。もしくは、簡潔で印象に残るキャッチフレーズなどで記憶に焼き付けるというのもひとつの方法だ。
Memory:記憶「覚えておこう」
Memoryは、記憶のことだ。顧客が商品やサービスを「覚えておこう」と記憶にとどめて、いつどのようにして買うかを検討しているフェーズだといえる。第2プロセスに3つある感情段階の最終段階だ。
顧客が商品やサービスを認知し、欲しいと思うようになってから、実際に購入するまでの間には時間があるのが普通だ。買おうと思っていたのにもかかわらず、忘れてしまうこともないとは限らない。興味が別の商品やサービスに移ってしまうこともあるだろう。そのような場合には、リマインドが有効だ。ADIMAの法則におけるリマインドには、次のようなものがある。
- TVやラジオのCM
- 新聞や雑誌の広告
- 駅などの公共施設や街頭に貼られたポスター
- 電車の中吊り広告やバスなど公共交通機関の広告
- 店頭のPOP
AIDMAの法則が提唱された1900年代初頭以降は、このような方法が主流であった。インターネットが普及した昨今では、リマインドメールやSNSの投稿、スマホアプリのプッシュ通知などが、リマインドの手段として考えられる。
Action:行動「買おう」
Actionは行動を意味する。つまり、購入という行動を起こすことだ。第2プロセスを終えて行動段階という第3プロセスへと進むAIDMAの最終局面といえる。このフェーズで、顧客は店舗へ足を運ぶなりしてお目当ての商品を購入するが、購入に至るまでの間にもいくつかの懸念があることを忘れてはいけない。記憶にとどめておいた商品を実際に買うという行動を起こすまでのハードルには、次のようなものがある。
- 店舗情報の確認
- 決済方法の確認
店頭で購入する場合、所在地やアクセス、営業時間、休日などの情報が必要だ。何か不明な点がある場合に備えて、問い合わせ先情報も必須といえる。これに加えて、どのような決済方法が受け付けられるのかも欠かせない。商品の魅力や特典はもちろんのこと、実際の購入にあたって不備がないようにしておかなければならない。
買うタイミングを先延ばしにするパターンやセールなどを待つというケースもある。このような場合には、すぐに買うことに対する特典をつけるなどして購入を促すという方法がある。
このAIDMAは、ネットが存在しない時代に提唱されたモデルだ。そこで次に、ネット時代の消費者購買行動モデルAISASについて見ていこう。
ネット時代の消費者購買行動モデル「AISAS」
AIDMAとよく比較される消費者購買行動モデルが、AISAS(アイサス)だ。ネットが普及し、消費者の商品選びや購入方法が大きく変わったことを受け、AIDMAに変更が加えられている点に注目しよう。
AISASとは?
AISASとは、2004年、大手広告代理店の電通によって提唱された購買行動モデルだ。ネット黎明期と呼ばれる1990年代に携帯電話が普及し始め、ネット回線のブロードバンド化や携帯電話の多機能化が進んだ2000年代に提唱されたモデルだ。なお、2005年6月、電通によって商標登録されている。
AIDMAとの大きな違いは、ネットを利用した購入前の検索行動や購入後の情報共有という行動といえる。AIDMAと比較すると、同じ5文字ではあるものの、D(Desire:欲求)とM(Memory:記憶)がない。
- A:Attention(注意・注目)
- I:Interest(興味・関心)
- S:Search(検索)
- A:Action(行動)
- S:Share(共有)
では、AIDMA同様に、消費者の心理プロセスを表す5文字の要素をAISASでもそれぞれ見ていこう。
Attention:注意・注目(認識)「初めて見る」
AISASでも、Aは同じくAttentionで注意・注目を意味する。商品やサービスを「初めて見る・知る」という認知の段階であり、購買行動の始まりである点に変わりはない。しかし、どのように認知するかという点には違いがある。
マスコミ4媒体やプロモーションメディア広告に加えて、インターネット広告が登場したことは先に触れた。具体的には、Web広告やSNS、動画広告、アプリ内広告などが登場している。広告の種類が増えてマスコミ4媒体の広告費がほぼ横ばいということに対し、インターネット広告は急成長を遂げている。
総務省の情報通信白書によると、インターネットの利用率は80%を超え、特に10~20代の若い世代ではインターネットを利用する時間はテレビをリアルタイムで視聴する時間よりも2~3倍も多いということが明らかになっている。スマートフォンを持ち始める年齢も低年齢化が進んでいる。
SNSやWebでの口コミや評判、動画がバズるなど、インターネットならではの行動も多く見られるようになってきている。狙ったターゲット層にリーチできるメディア選びやどのようにタッチポイントを作るかなどは、重要な課題だといえるだろう。
Interest:興味・関心「これは何だろう」
Interestは、AIDMAと同じく興味を意味し、顧客の興味を引くという点では、何ら変わらない。前提として異なるのは、PCやタブレット、スマートフォンなど、個人で使うデバイスが広く普及しているということだ。
インターネットに接続するデバイスでは、個人が特定されない範囲でパーソナライズされた広告やキャンペーン情報などを表示させることが可能になっている。WebやSNS、動画など、興味を逸らさないようにするための仕掛けを作るツールは、確実に増えているといえる。
個人にアプローチする手段が増えている一方で、顧客は日々、数多くの広告を見ている可能性があることも忘れてはならない。興味を覚えてリンクで飛んだ先の情報が、自分には無関係のものでガッカリしたという経験は、むしろネガティブな印象を残してしまう可能性がある。
Search:検索「調べてみよう」
ここは、AIDMAと異なる点だ。Searchは、検索を意味する。興味を持った商品やサービスについて「調べてみよう」と思い立ち、スマホなどのデバイスを使って検索するというフェーズだ。気になった商品やサービスに関する情報を自ら積極的に取りに行き、納得するまで比較検討するというのが、ここでの顧客心理といえるだろう。
ネットで調べる情報は、デザインなどの外観や素材、機能、サイズ、価格など、さまざまだ。特徴的なのは、口コミだろう。Webの口コミサイト、SNS、動画などには、商品やサービスを「使ってみた」というコンテンツがあり、他のユーザーの使用感や評価を確認できる。
そのほかにもWeb上には比較サイトなどもあり、一覧で分かりやすく情報をまとめているものもある。AmazonのようなECモールでは、自社サイト内で類似品との比較を表示している。顧客の関心は自社商品やサービスだけではなく、類似品や競合他社にも向いていると考えるのが自然だ。
検索では、より多くの顧客に見てもらうことが重要となる。検索結果の上位に表示されるほうが有利とされ、多くの顧客が1ページ目までしか見ないとされている。その1ページ目の中でも上位の記事ほどよく見られる傾向があるため、SEO対策はマーケティング上の重要な課題だといえる。
Action:行動「買おう」
ActionもAIDMAと同じく購入という行動を指す。AISASでも、購入を終えるまでの作業の円滑さは大切だ。購入ボタンの位置が分かりやすいか、同じ情報を繰り返し入力させていないか、ページの遷移がスムーズかなど、購入作業そのもので顧客がつまずかないようにする配慮が必須といえる。
それに加えてインターネット上で可能な決済方法にどれだけ対応しているかもポイントだ。クレジットカードはもちろんのこと、電子マネーや銀行振込、代引きなど、顧客が好む方法で決済できるようにしておかなければならない。決済や配送など、手数料がかかるものについては、金額の明記が不可欠だ。金額によっては、顧客が購入をやめてしまう可能性もある。
このフェーズでの購買意欲を高める施策として、配送にかかる手数料を購入金額に応じて無料化するというものがよく実施されている。配送にかかる日数や配送状況の確認など、商品やサービスが顧客の手元に届くまでのプロセス全体を円滑に進むようにしておかなければならない。
Share:共有・拡散「シェアしよう」
Shareの意味は共有で、購入した商品やサービスについての使用感や感想など、どう思ったかを発信することだ。ネット時代に提唱されたAISASモデルの特徴的な部分でもある。共有する手段には、SNSや口コミサイト、動画などがあり、簡単に匿名で発信できるため、ポジティブなフィードバックだけではなくネガティブなフィードバックが含まれていることもある。
ネガティブなフィードバックは一定数あると見込んでおくことが大切だ。しかし、あまりにも目立つ場合には、ブランドイメージや企業イメージを損ねないよう評判管理をする必要がある。万人向けの商品やサービスはないが、どのような点に不満を感じたかを聞き出せれば適切な対応が可能だ。
いずれにしても、自分が感じたことに共感してもらいたいという心理が、シェアには働いているといえる。
SNSなどでハッシュタグをつけて商品やサービスについて投稿しようと呼びかけるキャンペーンが展開されるのは、珍しいことではない。プレゼントなどの特典を設けて、投稿させるパターンもマーケティング施策のひとつだ。インフルエンサーを起用して商品やサービスを狙った顧客層に宣伝させるというのも、ネット時代特有のマーケティング施策といっていいだろう。
このようにして、誰かによってシェア拡散されたフィードバックが、また別の誰かの新たなAttention(注意)やInterest(興味)につながり、検索や購入を経てまたシェアというサイクルが繰り返されている。
AIDMAとAISASの違いは何か?
ここまで、AIDMAとAISASの消費者購買行動モデルを詳しく見てきた。ここでは、両者の違いについてまとめておきたい。大きく異なるのは、時代背景と誰が主役か、何が重視されているかという3点だ。
時代背景
AIDMA(1924年)とAISAS(2004年)は提唱された年代が大きく異なる。AIDMAはマスコミ4媒体での広告が主流で、販売は店頭を中心とし、売れ筋商品が稼ぎ頭というモデルだったといえる。現在のように、これほど物質的に豊かではなかった時代だという点も忘れてはいけないだろう。
その一方でAISASは、インターネット広告で商品やサービスを認知し、顧客がスマホで検索、ECサイトで購入し、共感を求めて感想をシェアする。売れ筋商品はあるものの、ロングセラーの定番商品やニッチなニーズまたはコアなファンによって支えられている少数販売品もあるといったところだ。
誰が主導しているか
次は、消費者購買行動モデルを主導しているのは誰なのかだ。AIDMAは、広告やキャンペーンを展開する企業や商品を製造販売する企業が、さまざまな手法によって顧客を誘導しているといえる。
それに対してAISASは、商品やサービスを知るきっかけは広告であっても、顧客が自ら商品やサービスについての情報を取得し、比較検討した上で購入を決定する。両者の違いは、主導しているのが企業側か顧客側かだ。
何を重視しているか
AISASは、購入という成果のために見込み顧客となるターゲット層をを狙って広告やキャンペーンを展開するというモデルだ。最初のターゲティングで可能性の高い見込み顧客層に絞り込んでいるため、マスコミ4媒体などと比較すると対象とする人数が限られてしまう。
その点、AIDMAでは、マスコミ4媒体など不特定多数の目にとまる広告出稿やキャンペーンを展開する。重視しているのは最初のAである認知のため、想定外の顧客に購入されたり、評価されたりということが起こりえる。
また、AISASは、比較的単価の低い商材やBtoCに向いているとされている点も両者の違いだ。住宅や自動車など、商材を認知してから購入までの期間が長いものや、単価が高く何度も検討を重ねる商材、BtoBについては、AIDMAのフレームワークが有効とされている。
AIDMAとAISASに共通するメリット
AIDMAとAISASの違いを見た後は、両者に共通するメリットを紹介しよう。いずれも消費者購買行動モデルのため、次のようなメリットがある。
- マーケティング戦略を立案できる
- 各フェーズに応じた施策を実施できる
- 販売の課題を発見しやすくなる
得意とする顧客や商材が異なっても、販売戦略の立案にはマーケティングが必須だ。EC市場は年々その規模を拡大しているが、店頭での販売がなくなるわけではない。近くのコンビニやスーパー、ショップなどは残り続けるだろう。
販売の成績が振るわないとき、フェーズごとにマーケティング施策を見直すことで課題の発見や改善のための適切な施策を実施できるという点も共通している。
ほかにもある消費者購買行動モデル
最後に、最新のモデルを含め、AIDMAやAISASのほかにどのような消費者行動モデルがあるかを簡単に紹介しておく。
- AIDA(アイダ):AIDMAの原型となったモデル
- AISCEAS(アイセアス):AISASにComparision(比較)とExamination(検討)を追加したモデル
- SIPS(シップス):Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する)、Share & Spread(共有拡散する)
- Decax(デキャックス):Discovery(発見)、Engage(関係構築)、Check(確認)、Action(行動)、Experience(体験と経験)
- RsEsPs(レップス):Recognition(認識する)、Experience(体験する)、Purchase(購買する)小文字のsは、Search、Share、Spreadを意味する
最新モデルとされているのがRsEsPsだが、いずれもAIDMAという大きな流れが根底にあることに気づくだろう。優劣をつけるのではなく、適切な場面で適切なモデルを使えるようになることを目指そう。