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“お客様の好みを軸に今を捉え、長く美を支える” 資生堂「ワタシプラス」の伴走型マーケティング

 資生堂「ワタシプラス」は、顧客とブランドをつなぐデジタルプラットフォーム。2012年の立ち上げから顧客との深いコミュニケーションを続けてきた。さらに2015年からは、「Salesforce Marketing Cloud」を導入。さらなるOne to Oneマーケティングを推進中だ。これまでの過程や今後の展望を、同社ダイレクトマーケティング部の徳丸健太郎氏と吉本健二氏に聞いた。

一瞬も一生も、お客様の美しさを支える

 資生堂が顧客基点のサービス実現のために構想を開始し、2012年4月に誕生した「ワタシプラス(watashi+)」。コンセプトは「お客様が中心にいるサービス」だ。

 資生堂の各種ブランド製品が購入できるEC機能を持つだけでなく店舗検索や予約ページ、化粧品や美容について顧客目線の悩みや質問に答えるコンテンツが多数用意されている。さらに、2015年からはSalesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)を活用し、顧客の「モーメント」を捉えたコミュニケーションを開始した。

 コーポレートメッセージ「一瞬も 一生も 美しく」を掲げ、顧客との関係性として、生涯にかけてのLTV(ライフタイムバリュー)を重要視する資生堂。ワタシプラスが目指す、顧客とのコミュニケーションとはどのようなものか。同プラットフォームを立ち上げた徳丸氏は次のように語る。

 「私たちダイレクトマーケティング部の事業活動は、短期的にECサイトの指標を追い求めるだけにとどまらない、お客様と資生堂がより深い関係性を築けることを目指しています。購入前後の短中期的な対応だけでは不適当で、お客様の生涯にわたっての長期的な視点が必要なのです。たとえば、化粧に興味を持った時期から、お客様のライフステージにあわせて化粧や美容のアプローチは変わります。お客様に起きた変化や機微にしっかりと対応できること。それがワタシプラスを貫くスタンスです」(徳丸氏)

資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 Web推進室長 徳丸健太郎氏
資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 Web推進室長 徳丸健太郎氏

このメールは本当に必要? 目的と相手を明確化

 ワタシプラスを通じて資生堂は、2012年当初から試行錯誤を繰り返しながら、現在進行形でOne to Oneマーケティングを追求中だ。

 「開設当初から“ワタシプラス会員”を募り、お客様のメールアドレスをお預かりして、メール配信をスタートしました。お客様との関係構築も重要ですが、部署として売上も求められるので、当時は企業の都合が先行したメールを配信していました。

 すると目に見えて売上は上がり、PVも上昇しました。徐々にメール数は増えていき、大量配信を続けた結果、待っていたのは開封率が下がり退会者が増加し、CTRも低下するという負のスパイラルでした。そこで、これで良かったんだっけ? と考え直すことにしました。お客様が離れたら意味がありませんから」

資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 Web推進室 サイト運営グループ 吉本健二氏
資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部 Web推進室 サイト運営グループ 吉本健二氏

 こうして、ダイレクトマーケティング部は根本的な改善に着手。その第一手としてメールの統廃合を行った。不要のメールが何かをA/Bテストを繰り返して探り出し、必要性の高いメール群を絞り込み、大量配信を改めたという。

 「そもそも本当にメールで効果が出ていたのか、という観点で見直しました。メール配信の有無でA/Bテストを行ったほか、“EC売上”“店頭送客”“エンゲージメント強化”といった配信目的や、“どんなお客様に送るか”ターゲティングを明確化して配信したところ、配信数を減らし、退会者を減少できました。さらにCTRや開封率も改善されました」(吉本氏)

 一連の効率化で、各懸案の改善が見られた。次に取り組んだのが、シナリオベースのメール配信への転換である。

資生堂の「伴走型マーケティング」を支えるテクノロジーとは?

 顧客のモーメントを捉え、長く関係を築こうとしている資生堂。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?

 現在、Marketing Cloudの製品デモ動画を公開中です。記事とあわせてぜひ、ご覧ください!動画はこちらから。

顧客基点にブランドの軸を加え、シナリオを作成

 シナリオベースのメールとは、具体的にどういうメールを指すのか。

 「大量配信を助長した背景には、キャンペーンなどの企業視点でのメールが多くなっていったことがあります。改めてお客様目線に立ったシナリオを設けて、配信タイミングや情報の出し分けを行おうと考えました」(吉本氏)

 そこで、踏み込んだ改善に舵を切るために、2015年7月からMarketing Cloudを導入。シナリオ配信を自動化した。

 「Marketing Cloudは、海外での確かな実績に加えて、LINEに対応している点が大きな決め手で採用しました。メールに限らず、状況に応じた顧客とのタッチポイントを探りやすくなります。メール、LINE双方の配信を効率化し、かつ効果の向上をはかりました」(吉本氏)

 さらに、2016年からはブランド基点で新たなチャレンジを始めている。

 「2015年までは、顧客基点をベースにしながら、延長線上にECの売上向上、実店舗への送客といった直接的な売りに関わる活動が私たちの主な業務でした。そこから、顧客基点に各ブランドという軸を加え、お客様にとって最適・最良なブランド体験を継続的に提供する方針に変わったのです。その実現には、Marketing Cloudの機能性が不可欠です」(徳丸氏)

お客様の今を捉える「モーメント」と4つの軸

 顧客目線に各ブランドの視点を加味した方向性に対して、実際に資生堂が取り入れはじめたのが「モーメント」という考え方だ。資生堂が呼ぶモーメントとは、「今、お客様が何を考えているのか」。このモーメントを捉えるために、ワタシプラスの閲覧ログのほか、サンプル申し込みなどの行動ログ、購入ログ、ワタシプラス以外の資生堂が運営するサイトでの各種ログなどを分析するという。

 「注意しているのは、直近の行動だけを見ていてもお客様を知ることは難しいということです。既に商品は使用されていて、より良い使い方を知りたいのか、初めての訪問で情報を深く見ているのか。過去と現在のデータ掛け合わせて、お客様一人ひとりの今(モーメント)を推測したいと思っています」(吉本氏)

 実現の前提として、ワタシプラス以外の資生堂のWeb会員、店頭会員のユーザーIDなどサイロ化したデータを統合し、ユーザーの好みや優先順位についての管理を実践しており、これをユーザー・プレファレンス・マネジメントと呼んでいる。ワタシプラス会員でも資生堂以外の他社ブランドや製品を比較・検討している状況までも含めて、より実状に近い状態で把握できるように、ユーザーのプレファレンス(好み)を次の4つの軸で管理しているという。

  • ユーザー属性などのデモグラフィックデータ
  • ブランドの好み
  • 美容への好みや悩み
  • 購入チャネル/利用デバイス

 「たとえば、ECサイトの詳細ページまで遷移しながら購入しなかったお客様に対して、過去の行動履歴を参照します。購入履歴があればキャンペーンAを、購入履歴はないけれど特定ブランドの好みがはっきりしていればキャンペーンBを、両者がなければキャンペーンC、もしくは無理に訴求しない等、モーメントに合った訴求を行います」(吉本氏)

資生堂の「伴走型マーケティング」を支えるテクノロジーとは?

 顧客のモーメントを捉え、長く関係を築こうとしている資生堂。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?

 現在、Marketing Cloudの製品デモ動画を公開中です。記事とあわせてぜひ、ご覧ください!動画はこちらから。

モーメントを活かしたクロスチャネルの活用

 Marketing Cloudを導入した決め手の一つであるLINEの活用について、さらに話を聞くと、取り組みを重ねてきたからこそ、LINEの特性にあわせた最適な活用方法に辿り着こうとしていた。

 「昨年まではメールの補完という立ち位置でしかLINEを活用できていませんでした。そこも今年から改めました。LINEはプッシュ配信ができて、リアルタイム性が強いツールです。現状はメールよりもパーソナル性が感じられて、メッセージ性のある内容、急を要する内容に活用しています。

 たとえば、クーポンアラートメッセージをLINEでクーポン発行当日に出しています。LINEはプッシュ性が強いので、ブロックされないように、配信回数やタイミングにも注意を払っています」(吉本氏)

 ワタシプラスの会員数が約270万人に対して、LINE公式アカウントの友だち数が約2,000万人。LINEも含めたOne to Oneメッセージが実現できれば、データドリブンなコミュニケーションの可能性が広がる。

 「LINE経由でワタシプラスに登録を誘導するのはハードルが高いながら、非会員のセグメント化に対応できています。もちろん既存会員に対して、ワタシプラスIDとLINE IDを紐づけていますので、今後もクロスチャネル活用でリアルタイムなユーザーのモーメントに対応していきたい。たとえば、お客様の外部サイトの動向を把握し、すぐにLINEで関連情報を送れるといった仕組み作りができるかもしれません」(吉本氏)

モーメント起点でCVR10倍に

 2016年にモーメントを意識した施策化を始めて得た大きな手応えを、さらに仕組み化、形にしていくことが、2017年以降のワタシプラスをはじめ資生堂の目指していることだ。

 「テストマーケティングの結果では、モーメント基点のCVRは、以前のセグメント配信よりも10倍増という成果が出ています。また、昨年までのスケジュール基点のメール配信よりも多くの売上が見込める予測も出て、課題の一つだった配信ボリューム不足が解消できそうです。

 あとは、より成果を確かなものにするシナリオ開発が必要です。現状はモーメントを捉えたシナリオが15〜20本ほどあるので、今それらをMarketing Cloudと連携させながら、細かな成果を含めて管理し、本格的な運用に向けた整備を行っています」(吉本氏)

 「これまでデジタルマーケティングと聞くと、即時的なイメージがあり、実際に結果としてそこを求められてきました。このあり方を改めて、2016年からダイレクトマーケティング部に各ブランドの担当チームがいて、ブランド側のマーケティングチームと連携を取っています。一人ひとりの顧客基点とブランド基点を掛け合わせたスタディを集めているところです。

 もともとつながっている店頭履歴を含めたデータ統合によって、よりリアルで立体的に顧客体験を把握したい。今後のミッションは、長期的なお客様とのLTVを意識しながら、ブランドごとのカスタマージャーニー作りを実現していきたいですね」(徳丸氏)

 資生堂には、一人ひとりの人生に寄り添う長期的な観点がある。Marketing Cloudを通じた「モーメントを捉えた施策」が、デジタルマーケティング業界に新たな気づきを促す取り組みになりそうだ。どれほどデジタルマーケティングの可能性が広がるのか、モーメントを巡る資生堂の挑戦に、今後も注視したい。

カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント

加藤: 資生堂様のワタシプラスの取り組みは、Paid/Owned/Earnedと分けてきたデジタルメディアの活用方法が、カスタマージャーニーという、顧客接点を長く捉える考え方により変化したことを表していると感じます。
自社のデータでは顧客の過去の行動までを含めて把握できない、という課題を外部データで補い、顧客行動の前後文脈を把握する。お客様一人ひとりの「モーメント」に最適化された資生堂様ならではの「美のジャーニー」から、マーケターは新しいアプローチを学ぶことができるでしょう。

押久保::2012年の「ワタシプラス」発表時のことをよく覚えています。日本を代表する企業がデジタル活用推進の兆しを見せた、象徴的な出来事だったと言えるのではないでしょうか。それから試行錯誤を経て、「今、お客様が何を考えているのか」。いわゆるモーメントを捉えるという発想に至った理由は、「一瞬も 一生も 美しく」というコーポーレートメッセージがあってこそだと感じます。

カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら

資生堂の「伴走型マーケティング」を支えるテクノロジーとは?

 顧客のモーメントを捉え、長く関係を築こうとしている資生堂。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?

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この記事の著者

加藤 希尊(カトウ ミコト)

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO 広告代理店と広告主、BtoCとBtoB両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。WPPグループに12年勤務し、化粧品やITなど、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、日本におけるマ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

遠藤 義浩(エンドウ ヨシヒロ)

 フリーランスの編集者/ライター。奈良県生まれ、東京都在住。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経てフリーに。Web、デジタルマーケティング分野の媒体での編集/執筆、オウンドメディアのコンテンツ制作などに携わる。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/12/01 13:52 https://markezine.jp/article/detail/25595