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MarkeZine Day 2017 Autumn

なぜUXは「広告以前」に大切?SBI証券がグッドパッチと挑む経営ゴトとしてのデザイン


 UXの重要性が語られるようになって久しいが、その意味や背景にある考え方、実際に使われているフレームワークまで理解していると自信を持っていえるマーケターはそれほど多くないのではないだろうか。さらに、日本では「デザイン」が「制作」や「見た目を整える仕事」として捉えられがちなので、UX改善の意義も矮小化されがちだ。身軽なスタートアップではない、一定の規模と歴史を持つ企業においてUXという考え方を浸透させるにはどうすればいいのか。「MarkeZine Day Autumn」で明らかにされた、SBI証券とグッドパッチの現在進行系の取り組みに迫る。

今なぜUXなのか

阿部:SBI証券の阿部と申します。もともと制作会社にいて「デザインでどう収益を上げていくか」を追求してきた結果、「UX」という考え方にたどり着き、2015年にSBI証券に入社してからは社内にUXを浸透させていく活動も行っています。

 弊社は1999年から株式取引をネット上で開始し、現在は400万口座を達成してネット証券として最大手、証券業界全体としても野村証券に次いで第二位の証券会社です。

左から、SBI証券 マーケティング部 兼 開発推進部 課長 阿部佳明氏、グッドパッチ 代表取締役社長/CEO 土屋尚史氏、翔泳社 MarkeZine編集部 江川守彦
左から、SBI証券 マーケティング部 兼 開発推進部 課長 阿部佳明氏、
グッドパッチ 代表取締役社長/CEO 土屋尚史氏、翔泳社 MarkeZine編集部 江川守彦

土屋:グッドパッチの土屋と申します。もとはWebディレクターをしていたのですが、サンフランシスコで働いていたときに、シリコンバレーのスタートアップシーンではUXという考え方が非常に重視されていることに気づきました。

 いずれ日本でもUXが重要になると考え、7年前にグッドパッチを立ち上げ今日に至っています。半年前に、SBIインベストメントさんから資金調達をしたのと同時に、フィンテックに特化したデザインチームを組成し、SBI証券さんのチームに入り込んでお仕事させていただいています。

江川:ありがとうございます。では最初に、なぜ今UXが重要なのでしょうか。

土屋:UXという概念は海外やアカデミックな領域では古くから使われてきたものですが、日本では近年のスマホの普及をうけてWebサービス開発の現場で使われることが増えてきました。

 さらにUXが注目を浴びている背景として、2010年以降にInstagramやPinterest、Airbnbなど、デザイナーが共同設立したスタートアップが急速な成長を呈しているという事実があります。

講演資料より(以下、同)
講演資料より(以下、同)

 デザイナーが経営に深く入りこむ企業が成功を収めている最大の理由は、生活者の気分が右脳的になってきたことにあります。18世紀は農業、19世紀が工業、20世紀が情報の時代だとしたら、21世紀はコンセプトの時代で、「クリエイターが生み出す共感」が重要になっているのです。

 現代の生活者は、ただ機能だけを見て製品やサービスを選ぶのではなく、感情がいかに揺さぶられるか、共感できるかを右脳的に判断して行動しているんですね。

 しかも、ブランドとユーザーの接点がかつてなく増えているという事実が、デザインそしてUXの重要性を後押ししています。かつてユーザーはデスクトップのPCを使って朝と夜の2回しかログインしていなかったのに対して、今は1日に150回もスマホをアンロックしていると言われています。

 それだけデジタルのサービスやコミュニケーションが、ユーザーといつもそばにいる身近な存在になっているため、UXはとても重要になっているんです。

UXによる競争力強化に突き進むフィンテック業界

江川:ありがとうございます。では次に、なぜフィンテック領域でUXが注目されているのか阿部さんにうかがいたいと思います。

阿部:そもそも金融業界は保守的で時代の変化に対応していないのではないか、金融商品は難しくて初心者には手が出せないのではないか、というイメージが定着していて、自分たちの顧客を狭めてしまっているのが我々の課題です。

 その課題を解決するために、昨今はテクノロジーやビッグデータを活用して、オンラインによるセキュアな環境をお客様に提供していますが、それだけでは不足している部分を、UXのプロセスで解決していこうという流れがあります。

江川:土屋さん、いかがでしょうか。

土屋:まずおさえておきたいのは、2010年以降、世界中でデザイン会社を対象としたM&Aが頻発していることです。GoogleやFacebookや戦略コンサルティング企業が主導するこの流れのなかで、存在感を発揮しているのが金融会社なのです。

上図はザインテック企業に対するM&Aのリストで、赤い囲みが金融会社によるもの
上図はザインテック企業に対するM&Aのリストで、赤い囲みが金融会社によるもの

 もう一つ指摘しておきたいのが、フィンテックのスタートアップを中心に、「実店舗やWebサイトを持たずアプリのみで展開する」といったチャレンジングな銀行が生まれてきているということ。

 これらフィンテックは若年層を取り込むという明確な戦略を持ち、デザインにかなり力を入れています。そして既に大きな成果を出していて、会員数や調達額もかなり大きくなっているんです。

江川:ありがとうございます。一般化してみると、「特定市場で先行しているプレーヤーが別業界からのディスラプティブな参入者に対峙するためにUXに取り組んでいる」という枠組みで捉えることも可能かもしれません。では実際に、SBI証券がUX改善に取り組まれたきっかけをお聞きしたいと思います。

阿部:SBI証券は「株」「投資信託」「先物取引」「FX」などと非常に多くの金融商品を扱っていて、それぞれ専門知識が必要なので、どうしても縦割りの組織になってしまうんですね。すると、個々が自分達の商品を良くしていこうと思う反面、情報共有がされにくい。つまり組織間のコミュニケーション不足が生じていました。

 すると、アウトプットもばらばらになり、サービスごとにデザインの統一もできません。「投資信託をやっているけど、金取引もやってみようかな」などと検討されているお客様に対して、ユーザビリティの低い状態でサービスを提供してしまっている。これを解決しないと、クロスセルの妨げにもなるし、SBI証券としてブランド価値を高められないという課題がありました。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター 出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/02/15 13:37 https://markezine.jp/article/detail/27563

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