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トップマーケター「マーケターがデジタルとアナログを区別する時代は終わった」

 マーケティングのデジタルシフトが進む現代において、アナログの重要性が再認識され始めている。そのような状況に切り込んだのが、2017年1月に東京と大阪で開催されたイベント「MarkeZine Day Special powered by 日本郵便 デジタルシフト時代を切り拓く『デジタル×アナログ』のあり方とは?」だ。トップマーケターと大手ベンダーたちは、デジタルとアナログを組み合わせることで生まれる新たな可能性についてどう考えているのだろうか。今回は、トップマーケターの活用法を中心にお届けする。

デジタルはマーケティングの一部でしかない

 第1部のタイトルは『Topマーケターが本気で語る、デジタルとアナログ』。大手企業のマーケターたちは、どのようにデジタルとアナログを組み合わせ、活用しているのだろうか。日本マクドナルドの足立氏は、同社におけるデジタルの活用法についてこう語る。

左から、日本マクドナルド 上級執行役員 マーケティング本部長 足立 光氏
富士フイルム e戦略推進室 eマーケティンググループ 一色 昭典氏
パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 クラブパナソニック運営部部長 中村 愼一氏

 「デジタルは主に三つのエリアで活用しています。一つ目はマスメディアの補完です。当社は幅広い層をターゲットとしているので、いまだにマスメディアが最も効率が良いんです。しかし若い年代を中心にデジタルでしか届かない層が出てきたので、そこを補完しているわけです。

 二つ目は日時を指定して訴求する場合です。たとえば朝マックは午前7時に広告を出すと効果がありますし、ランチは10時から11時に広告を出すと効果があります。三つ目は話題作りです。当社のプロモーションは4から6週間くらいの期間で展開するため、開始後に想定通りの効果が出ていなくても、期間内にあまり効果的な手が打てません。そのため、初日にどれだけ売上を上げられるかが重要になりますので、発売前の話題作りをソーシャルなどで行っています」(足立氏)

 このようにデジタルを活用している日本マクドナルドだが、本格的に活用を始めたのは2年程前からだという。実は富士フイルムもデジタルの活用を始めたのは比較的最近だと、同社の一色氏は言う。

 「私が所属しているe戦略推進室は5年ほど前にできました。私はずっと経営層にデジタルマーケティングの重要性を説き続けていたのですが、昨年、社内ICT部門を集約した組織が新設され、会社としてデジタルマーケティングを推進していく体制が整いました。ただ、デジタルと言ってはいますが、ICT化により可能になったデータドリブンマーケティングを推進しています。デジタルの利活用で得られる各種データを基に、それぞれの事業部に対しどのようにマーケティングを展開すべきかを支援するかが、重要課題になっています」(一色氏)

 このように、「デジタル」を特別視するのではなくあくまでマーケティングの一部として捉える考え方は、足立氏の口からも語られた。

 「デジタルはマーケティング全体の一部でしかないし、それで良いと思っています。当社の場合、店頭で使える割引クーポンの利用率やその中で紙の占める比率を見ても、地域によって倍以上の差があります。そのため、まだまだ紙媒体も有効な地域、ターゲットがあると理解しています。私は、マーケティングにおいてデジタルとアナログを分ける時代は過ぎたと思っています。全体の中で『このメッセージを届けるためにはこちらを使おう』と判断し、活用できるようにしなければなりません」(足立氏)

 2007年から会員サイトの「CLUB Panasonic」を運営し、デジタル活用の先進企業としても知られるパナソニックの中村氏も、この意見に同調する。

 「マーケターはデジタルとアナログを分けがちですが、その必要はありません。最も重要なのは、顧客に何を届けどのように捉えてもらい、販売に繋げるかです。デジタルもアナログもその手段でしかないので、あくまでマーケターとしてデジタルでもアナログでも迷ったらとにかくやってみて、効果検証してPDCAを回すことです。その際、アナログにおいてもしっかりと効果検証を行う必要があります」(中村氏)

紙媒体ならではの効果とは?

 実際にパナソニックではデジタルとアナログを組み合わせた施策を行い、成果を上げている。デジタルで顧客情報をもとにリストを抽出し、郵送DMでリアルイベントに集客。DMにQRコードを仕込むことで来場情報を取得し、イベント後にデジタルで再度訴求する――といった施策を行ったという。

 「我々はOtoOtoO(Online to Offline to Online)と呼んでいるのですが、元々はCLUB Panasonic会員をデジタルでリアルでの商品体験イベントに誘導し、その際にクーポンという形でQRコードを持ってきてもらう。これにより会員情報を特定し、イベントで体験いただいた商品のキャンペーンをデジタルで訴求する、という形で活用を進めてきました。その中でイベントに誘導する手法として、郵送DMが非常に効果があることがわかってきたんです。

 ただし金額が高いので、絞込が重要になります。当社の事例ですと、会員属性はもちろんポイント数や入会時期などのロイヤリティなどで絞り込んでからDMを配信することで、配信数の10%超にイベントにご来場いただくことができました」(中村氏)

 デジタルではなくアナログな紙媒体だからこそ、配信先の本人だけでなくその家族が見る可能性もあり、より結果に繋がったのではないかと中村氏は言う。DMに対し新聞折込チラシに変わる紙媒体として興味を抱いているという足立氏も、紙媒体ならではの特性について言及した。

 「当社もDMには興味をもっています。新聞の購読率が下がるにつれ折込チラシの効果が落ち続けており、それに変わるものが必要だからです。紙とアプリのクーポンは、実はかなり異なります。アプリのクーポンは店舗に行こうと思った際に開かれます。しかし紙のクーポンは、切って財布に入れておくことの方が普通です。有効期限があるので『期限が切れる前に行こう』と来店を促す効果があるんです。このように同じクーポンでも紙のほうが効果が高いため、それを届ける手段として、DMも含めた代替手法を検討しはじめています」(足立氏)

 一方一色氏は、DM送付時に対象を絞り込んだリストを使用することの重要性を失敗例を挙げて力説。そのような経験から、現在MAツール導入を進めている点にも触れた。

 「以前、基礎化粧品『アスタリフト』という当時50代女性がメイン購買層のブランドのEC部門を統括していた際、電話・FAXからの注文顧客をWeb会員へスイッチしてもらうためにDMを送付したことがありました。EC部門の売上を急拡大させたため、上層部からコスト面でも有利なECに顧客を誘導するように指示があったんです。そこでWebで購入するとポイントを何%か追加付与するキャンペーンを訴求したリアルDMを​全会員に送付したのですが、多くの顧客はECの使い方がわからなかったのか、Web会員になっても電話でWeb操作方法を聞きながら注文するという問い合わせが増加しました。結局オペレーターのコストがかかり、当初の目的が果たせなかったんです。

 顧客それぞれの嗜好、ニーズ、ライフスタイルに合ったコミュニケーションをとらず、売り手の都合だけの施策ではコンバージョンには繋がらないのだと痛感しました。そこで現在はMAツールの『Marketo』を導入し、限りなくOne to Oneに近い形でクリエイティブやデバイスを選択しながらコミュニケーションをとり、エンゲージメントとコンバージョン両方を獲得するための戦略を構築しているところです。また、日本で得た知見や成功パターンを、グローバル展開するCOE体制も同時に構築中です」(一色氏)

クロスチャネルで顧客接点を増やすべき

 第2部に登壇したデジタルを主な領域としている印象の強いMAツールベンダーたちも、デジタルとアナログを分断するのではなくクロスチャネルでマーケティングを進めることの重要性を語る。一色氏も言及した「Marketo」を提供するマルケトの小関氏は、デジタルもアナログも顧客との接点の一つに過ぎないと語る。

左から、マルケト バイスプレジデント兼マーケティング本部長 小関 貴志氏
日本オラクル クラウドアプリケーション事業統括 マーケティングクラウド事業本部
シニア・ソリューションコンサルタント・マネージャー 中嶋 祐一氏
ブレインパッド ソリューション本部 マーケティングオートメーションサービス部 部長 東 一成氏

 「マーケティングプラットフォームの全体像をイメージする際に、常に中心にいるのは顧客です。初めに様々なデータを通じて顧客を知ることからスタートするのですが、その際にマーケティング上最も重要なのは、訴求したい自社の製品などに対して顧客がどのような気持ちを抱いているかです。

 このようなデータを貯めるための接点としては、アナログで名刺交換をしているかもしれないし、デジタルで資料請求を受け付けたのかもしれない。アウトプットとしてもアナログなDMやFAX、営業かもしれませんし、デジタルではメールやアプリかもしれません。デジタルもアナログもあくまでも顧客との接点の一つにすぎず、実際に顧客がそうあることを望んでいると思います」(小関氏)

 デジタルとアナログを組み合わせた、いわゆるクロスチャネルについて、オラクルの中嶋氏は実例を挙げて推奨する。

 「BtoCにおいてMAは、オラクルの製品でも『Oracle Cross Channel Orchestration』と名付けているように、クロスチャネルのキャンペーンマネジメントを実施するツールという位置づけです。クロスチャネルは一番の課題であり成功のポイントでもあるので、そのように呼ばれているのだと思います。当社としては、デジタル、アナログ関係なく複数のチャネルで適切なタイミングで適切なコミュニケーションしましょうと、一貫してお伝えしています。

 クロスチャネルの効果を立証する例として、BtoB向けのMA製品である『Oracle Marketing Automation』を活用した事例も数多くあり、たとえば米国の金融サービスにおける休眠顧客の復旧キャンペーンの場合、メール、SMS、ダイレクトメールを組み合わせることで、反応率が約2.1倍になりました」(中嶋氏)

 ブレインパッドの東氏は、クロスチャネルでマーケティングを行う上での、MAツールの活用法を語った。

 「MAの役割は、お客様をいかに効率的かつ効果的に売り場にお連れするかだと思っています。お連れするための方法にメール、プッシュ通知、LINEといったデジタルや、電話、DM、チラシといったアナログという区別はもはや必要ありません。デジタル、アナログ関係なく顧客接点を増やしていく方が効果が高いのは明らかなので、あとは“このお客様には、このチャネルとこのチャネルを組み合わせて接点を作るのが最適だ”という解を、トライアンドエラーで見つけていけば良いのです。その際の作業負荷を減らすためにも、MAツールを活用していただければと思います」(東氏)

「MAツール×DM」で実証実験!圧倒的な結果に

 ここで実際にMAツールを活用し、アナログの活用にトライした事例を紹介しよう。第3部に登壇したのはSansanの石野氏と日本郵便の鈴木氏。両社は共同で、MAツールとDMを組み合わせた実証実験を行ったという。石野氏は実験内容をこう説明する。

 「メールだけでは商談に至らなかったが過去に名刺交換をした層をMAツールで抽出し、『メールのみ』『DMのみ』『DMとメール』という3パターンでアプローチするというテストを行いました。DMはシンプルなものを作成し、DM送付者にメールを送る際は『お手紙をご覧いただけましたでしょうか』といったように、組み合わせの効果が感じられるよう設計しました」(石野氏)

左: Sansan マーケティング部 エバンジェリスト 石野 真吾氏
右:日本郵便 担当部長 鈴木 睦夫氏

 実証実験の結果は圧倒的で、DMとメールを組み合わせるとクリック率がメールのみの場合の1.8倍、受注貢献も想定の10倍以上であったという。同氏は実証実験を通し、気づいたことがあると語る。

 「実証実験を通してまず気づいたのは、圧倒的な受注への貢献効果です。それ以外にもDMならでは効果が三つありました。一つ目はメールが届かない層にきちんとリーチできたことです。メールでアプローチしても反応が低い見込み客の、反応率が高かったんです。二つ目が反応期間の長さ。時系列で見ると、メールは送信後一瞬だけしか効果がないのに対し、DMは数ヶ月後まで効果が続きます。現物が届くと捨てずにとっておく人がいるからだと思います。三つ目はシャワー効果です。上司の方宛に送付したDMが部署内で共有され、部下の方から商談に繋がったケースもありました。これはオフラインのDMならではだと思います」(石野氏)

 アナログのDMでこれだけの結果が出せた理由について、前職でデジタルマーケティングに携わっていた日本郵便の鈴木氏はこのように解説する。

 「マーケティングは昔からデータドリブンなんです。ただし昔は時間もお金もかかる上に、得られるデータがぼんやりしていました。ところが最近は安く、早く、精緻なデータが得られます。これにより、BtoBもBtoCもダイレクトマーケティング化していると感じています。デジタルはあくまでマーケティング全体の中での一部ですので、デジタルにしてもアナログにしても、それだけに閉じてはいけないと思っています」(鈴木氏)

 様々な立場からマーケティングにおけるデジタルとアナログの活用法について議論された本イベント。どの登壇者からも、デジタルにもアナログにも傾注することなく、顧客が望む形・タイミングで接点を増やすことの重要性を訴える発言が目立った。最後に鈴木氏はこう語り、イベントを締めくくった。

 「デジタルに長けている人はアナログの知見がなかったり、逆もまた然りでそれぞれが分断されているケースが多々あります。それをなんとかしたいと思っています。私はデジタルはモーメントだと思っていて、コストの安さと拡散力という強みがあるものの、瞬間で消えていってしまうという弱点があります。

 一方アナログなDMはコストの高さが弱点ですが、情報のストックという強みがあります。それぞれの特徴をうまく掴み、活用していただければと思います。これまでに実施したことがないことを、最新のツールを導入したからといって一朝一夕でできるわけはなく、何事もやってみなければわからないのですから」(鈴木氏)

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:28 https://markezine.jp/article/detail/26043