「広告データが新たな石油」の思想で膨らんでいった買収力学
日本国内の事業では実感がわきにくいが、グローバルでの電通グループ傘下では2010年代から世界各地で累計170~200社規模のM&Aが展開されていたと推測される(社数は筆者の推測)。
というのも、2010年代初頭、主要クライアントの事業がグローバル規模で加速する中、電通グループ(広告業界全体)には強い危機感があった。日本という限定的なエリアに留まっていては、先行するOmnicom・WPP・Publicisといった競合各社に、グローバルアカウントを一括で奪取(スイッチ)されかねない状況にあったからだ。さらに、GoogleやFacebookに代表されるビッグテックの台頭により、世界を土俵とした戦いは避けては通れない経営課題となっていた。
電通グループによる2013年の英イージスグループ買収(約4,000億円)や、2016年の米CRM大手「Merkle(マークル)」買収は、こうした切実な生存戦略だったと言える。
電通グループはイージスとMerkleの2社だけでも買収額の単純合計で5,000億円規模の「のれん(資産)」を抱えることになったが、変革はこれに留まらなかった。イージスとMerkleを軸とした世界ネットワークがさらなる買収主体となり、世界各国で次なる投資先を目利きする「連鎖的なM&A」が進んだのである。
この世界規模のM&Aの波を起こした当時の広告・マーケティング業界は「急速なデジタル化」と「データ至上主義」の渦中にあった。「データは新しい石油だ」と喧伝され、膨大な行動データを集積・分析することで広告精度を劇的に向上させようとする投資熱が最高潮に達していた。いま振り返れば、「乗り遅れてはならない」という強烈な「FOMO(Fear of missing out:チャンスを逃すな)」観念が働いていたと言えるだろう。
当時の電通グループによるM&Aの件数と投資額は、競合他社と比較しても突出していた(図3)。
相次ぐM&Aの結果、電通グループは英イージスと米Merkleを軸とした巨大なグローバル組織へと変貌した(電通グループのグローバル社員数は68,000人超で、日本国内の社員数約23,000人の約3倍)。この過程で、海外事業の売上総利益比率は50%を突破している。
