オムニチャネルでもOMOでも大切なのは「データ整備」と「評価制度」
――そのオムニチャネル化の裏側では、現場との調整など「組織を動かす」ご苦労もあったかと思います。
実は、オムニチャネル化をスムーズに進められた最大の理由は、初期段階で「データの整備」を徹底的に行ったことにあります。中古業界でもいち早くPOSを導入し、商品マスタを構築しました。
通常、商品にはSKU番号がありますが、中古品は個体がユニークなので、「親コード」と「子コード」の2つを持たせるデータアーキテクチャを作ったのです。これにより、どの店舗にどの在庫があるかを正確に把握し、ECサイトに連携できるようになりました。この仕組みは、今のリユース業界のスタンダードになっています。

――データの基盤があったからこそ、新しい体験が作れたのですね。組織面での工夫はありましたか。
もう一つ重要だったのが「評価制度」です。2010年頃から、しっかりとした評価制度を作り込みました。よく「ECで売れたら店舗のスタッフの評価はどうなるのか」と揉めますよね。
私は、結果のKPI(売上)ではなく、プロセスのKPIを重視しました。お客様が欲しいものを手に取り、店舗で会話が生まれ、満足して買っていただく。そのために店舗スタッフが「取り寄せる」「接客する」というプロセスを踏んだなら、そこをきちんと評価するのです。
人間は褒められた行動を強化し、繰り返したくなる生き物です。それがビジネスの成果につながるのなら、プロセスを評価してあげるべきです。システムはお金で買えますが、人間の心はお金では買えませんから。
顧客理解の3ステップと「顧客中心の組織」へのアップデート
――その後、ユナイテッドアローズのCDOなどを経て、現在は300Bridgeの代表として様々な企業のビジネス変革を支援されています。この20年を振り返り、デジタルを活用して顧客と真につながるための最大の転換点はどこにあるとお考えですか。
根本にあるのは「顧客理解」です。圧倒的にデータが貯められるようになり、会員プログラムなどの提供を通じて「誰が何を買っているか」がデータで可視化されたことが大きな転換点です。しかし、多くの企業はまだ商品・サービス軸の思考から抜け出せていません。
たとえば、アパレル企業の会議で「シャツが何枚売れたか」は話題に出ますが、「お客様が何人増えて、月何回来店し、客単価はいくらか」という顧客目線の話はほとんど出ません。
――確かに、商品・サービス軸で議論が進んでしまう企業もまだまだ存在しそうです。そういった企業やマーケターが顧客解像度を上げるにはどうすればよいのでしょうか。
私はいつも3つのステップを推奨しています。1つ目は、自社のデータ分析。ロイヤル顧客はどんな購買傾向があるのかを把握すること。多くの会社はここで満足してしまいます。
2つ目は、マーケット全体における自社の立ち位置の調査です。お客様は他社と比較した上で自社の商品・サービスを選んでいます。そのため、市場の中でのポジショニングを知ることが大切です。
3つ目は、実際に未顧客や新規のお客様に「なぜ買わないのか・買ったのかを聞きに行く」ことです。この3ステップに取り組むことで、初めて自分たちの強みやこれから進むべき方向が見えてきます。
――マーケティングの業務もデジタルの登場で幅が広がりました。EC部門も会社によってマーケティング部や営業部など様々な部門の下に存在しています。このような組織に関して、20年でどのような変化が求められると思いますか。
組織に関しても、顧客を中心に置いて考えることがこれからは求められると思います。これまでのように「第1営業部」や「商品部」といった機能別組織のまま、組織図の端に「オムニチャネル部」などを作っても機能しません。
LTV(ライフタイムバリュー)が極めて重要になるこれからの時代は、商品部ではなく「顧客を中心にした組織図」へアップデートする必要があります。また、変化のスピードに対応するため、組織を小さくしてAIに任せ、意思決定を早めることも重要です。
