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MarkeZine20周年特別企画

広告は劇場からテーマパークへ。細田高広氏に聞く生活者とブランドの20年とこれからの「問い」

メディアからコンテンツへ、マス崩壊の時代にあえて「メジャー」を仕掛ける

──今うかがった変化の中で、細田さんご自身の最大の挑戦はなんでしたか?

細田:ブランドがメジャーコンテンツを作るという取り組みですね。

 この20年はマスメディアに加えて、デジタルによる細分化が進んだ時期でもあります。だからこそ、ここまで語ってきたようにテーマパークのような総合的な体験をデザインするようになった。一方では、マスに替わるものがあるのではないか?それは必ずしもパーソナライズではないのではないか?という課題意識もありました。

 2012年頃、私はロサンゼルスのTBWA\Chiat\Dayに在籍していました。当時の米国は日本より早くマスメディアの崩壊に直面していました。

 デジタルメディアによって生活者との接点は増えましたが、大企業はある程度の大規模なリーチを効率的に確保しなければビジネスが立ち行きません。そこで新たに、広告枠(メディア)のバイイングに頼るのではなく、ブランド自らが「メジャーコンテンツ」を生み出すという挑戦が始まっていたのです。

 その象徴がスポーツドリンクのゲータレードがChiat\Dayと実施した「REPLAY(リプレイ)」という施策です。ゲータレードの主な愛飲層は10〜20代のスポーツをしている若者です。課題はその年齢層を30歳以上にまで広げるというもの。ゲータレードが仕掛けたのは、十数年前に高校アメフトの決勝戦で引き分けに終わった、伝説の試合の「再戦」をリアルにセッティングすることでした。

 今や体型の崩れてしまった元選手たちが再び集い、ゲータレードを飲みながら本格的なトレーニングを再開し、最後はスタジアムで実際に試合を開催したのです。チケットは瞬く間に完売。試合を記録したドキュメンタリーコンテンツはオンラインで拡散され、全米で話題になりました。

 メディア環境が変わった今この時代でも、みんなが同時に体験する「メジャー」なくならない。そんな手応えを得て、私は帰国後、メジャーコンテンツで市場を突破するアプローチを日本市場でも実現しようと模索しました。

 たとえば、日産自動車では「エクストリームゴルフカップ」という、崖や川、砂漠といった過酷な秘境をゴルフコースに仕立て、エクストレイルをゴルフカートとして使用する大会を実際に開催しました。エクストレイルの走行性能を伝えるのが目的ですが、実購入層のゴルフ愛好家から大きな反響がありました。TBWA\HAKUHODOのクリエイティブスタッフ企画・制作に携わった一発撮りの音楽コンテンツ「THE FIRST TAKE」も、広告費に頼らず、コンテンツ自体の求心力でメジャーな場所をつくりあげた好例です。

「エクストリームゴルフカップ」の画像
「エクストリームゴルフカップ」(プレスリリースより)

 デジタル時代の細分化やパーソナライズはこれからも進むでしょう。けれどその反作用で、生活者は「みんなで体験する」、手触り感のあるリアルなコンテンツに焦がれるはずです。スポーツや音楽イベントの価値が高まっているのはその証でしょう。ブランドは日常に溶け込みながら、一方で特別な非日常をつくりあげるカタチで、生活者にとって意味ある存在を目指すのだと考えています。両方向の挑戦をこれからも続けるつもりです。

ファネルの圧縮と、AI時代に求められるブランドの「人格化」

──ここからは未来に目を向けていきたいと思います。リテールメディアやAI検索広告といった「仕組み」の進化は、今後のブランド体験やクリエイティブをどのように変えていくとお考えですか?

細田:現在、マーケティングの現場では認知から購入に至るファネルの「圧縮現象」が各所で起きています。SNSが購入の場になることで、出会っていいなと思った瞬間、その場で購買までが完了します。あらゆるメディアがリテールメディア化するとうことです。ブランディングとは広告ではなく、商品やパッケージなど「そのもの」が中心になるでしょう。

 変わるのはメディアだけではありません。生活者の情報行動も大きく様変わりしています。今まではユーザーが自らプラットフォームに出向いて情報を探していましたが、今では飲食店も、洋服も、旅行先も、自動車も、不動産も、広告会社選びも、AIと相談して決めるのが常識になりつつあります。ブランドとしては、自らがAIとなって生活者に頼られる存在を目指したいところです。

 あくまで妄想ですが、たとえばマクドナルドであれば、アプリの中に「自分だけのマッククルー」のようなAIキャラクターが存在し、カレンダーの空き時間や小腹が空くタイミングを見計らって「そろそろ、あのバーガーを食べに行きませんか」と適切な文脈で提案してくれるような時代が来るかもしれない。自動車でも、車両を買い換えても同じAIエージェントが新しい車に引き継がれ、常にオーナーの好みを理解し続けてくれるという世界観は実現しつつあります。

 テクノロジーが進化した先にあるのは、単なるパーソナライズを超えた、「キャラクターライズ(ブランドの人格化)」です。生活者が愛着を持てる、常にそばにいてもいいと思われる人格をどう設計していくかが、これからのブランド体験の新しい主戦場になるはずです。四角、三角、円の次は「=」(イコール)かもしれません。ブランドは生活者に欠かせない親友や相棒のような存在を目指していくことになるのではないでしょうか。

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「洗濯機労働のパラドックス」に学ぶ、カルチャー起点の未来洞察

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2026/07/06 08:00 https://markezine.jp/article/detail/50834

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