「もし、ブランドが“生きた人格”を持っていたら?」Branded AI Agentの出発点
Branded AI Agentは、従来のブランドブックのような「静的なブランド定義」のアンチテーゼに当たる。
生活者とブランドの接点が限られた状態で、コミュニケーションも表現物が中心とされる形であれば、静的なブランド定義でも機能することはできた。だが、あらゆる接点で常時対話を行う時代において、その固定化された定義だけでは機能しづらくなっていく。
ブランド自身が直接生活者と対話するようになる未来では、対話のなかで「ブランドはどう行動するべきか」をその都度判断するダイナミックな定義が必要とされるのだ。
Branded AI Agentのコンセプトは、「もし、そのブランドが生きていたら」という視点に立ち、その人格をAIで実装することだ。ブランドがどのような思いを持ち、何に興味があり、生活者とどう言葉を交わすのか。それらを細かく規定してAIに“命”を吹き込んでいく。このBranded AI Agentが真ん中に立つことで、様々な接点で同じ言葉や振る舞いを届けていく。いわば「ブランドの思いを宿し、対話したくなるAI」だという。
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中央に立つBranded AI Agentは、生活者との対話を重ねるほどに発話データがたまっていく“器”でもある。生活者が喜ぶ話題や語りかけ方を学び、世の中への理解を深めることで、ブランド自身が対話を通じて成長していく。
こうした考え方は、既に実際のビジネスにも取り入れられている。博報堂グループでデジタルサービスやアプリの実装・開発を手掛けるHAKUHODO BRIDGEでは、Branded AI Agentを活用した企業紹介コンテンツを制作している。
HAKUHODO BRIDGEが持つ「ビジネスデザイン」「エンジニアリング」「クリエイティブ」という3つの強みをAIエージェントとして人格化し、この“3人”が最近のテクノロジートピックについて対話しながらブレストしたり、MVP(Minimum Viable Product)のラフを作ったりする過程を公開することで、自社の強みをアピールする強力な営業ツールになることを目指しているという。
「ブランドらしさ」をAIでどう実装するか
ブランドの“人格”を、AIにどのように実装していくのか。そして、現時点でどのくらい実現できているのか。
博報堂では2025年、同社グループが開催したフォーラム「博報堂 生活者インターフェース市場フォーラム2025」で、Branded AI Agentのプロトタイプ「tsubuchigAI(つぶちがい)」を発表した。
これは「タビビト」「テツガク」などの性格を持つ12体のAIエージェントが、それぞれ、あるいは来場者と対話をしながら新しいものの見方やアイデアを見つけ出したり、会話を楽しんだりする試みだ。問いを立てたり作業を任せたりするAIと異なり、一般的な「正解」を返すのではなく、知識や想いに基づいた「別解」を届けることが目的だという。
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このプロトタイプの開発に取り組んだのが、博報堂テクノロジーズの岸本氏だ。岸本氏は、「ブランドらしいAI」を制作する過程で、“ブランドらしさ”を支える裏側の設計「AI Engineering」と、実際に生活者に接する表側の設計である「AI Experience」の融合が不可欠だと気づいたという。
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「Branded AI Agentを開発する上で直面したのは、『ブランドらしさ』をプロンプトにどう落とし込むかという問題でした。『こんな口調で話してください』だと、うわべの話し方を取り繕うだけで、ブランドが大切にしている価値観や思いまでは実装できません」(岸本氏)
「カジュアルな感じで」「誠実に」という表面的な形容詞で指示するとブランドらしさを再現できない。試行錯誤の末にたどり着いたのは、「どんな時にどう思い、どう動くのか」といった内なる思いを“動詞”で規定するアプローチだ。これにより、AIの振る舞いに深みが出て、一貫したブランドらしさが生まれる。
たとえば旅行会社ブランドの人格が「旅人」であれば、その旅人はどんな時に喜びを感じ、どんなことに怒りを感じ、生活者にどうあってほしいのか。それを徹底的にプロンプトに落とし込んでいく。これだけで何十回もの更新を重ねたという。
知識設計についても同様の深さが求められた。単に情報を読み込ませるだけでは、知識を羅列するだけのAIになってしまう。“語れる”ように設計するのに重要なのは、そのAIエージェントが「知識を持った上でどう思うのか」、「生活者にどうしてほしいのか」という主観を織り交ぜることだった。
実装に協力した中島氏は「単にRAGを導入すればいいというわけではなく、AIに与える知識を作ること自体が非常にクリエイティブで、高い編集力が必要とされることを実感しました」と振り返る。

