顧客一人ひとりと向き合う状態をデジタルで実現する日本KFC
2025年に創業55周年を迎え、現在は「第2創業期」として新たな戦略を推し進める日本KFCも、AI時代に対応すべく独自のブランド体験の提供に取り組んでいる。同社のデジタル戦略部を率いる平田雄己氏は、3つの注力ポイントとして、「メニューの拡大」「店舗体験の進化」「デジタル化の推進」を挙げた。
特に3つ目の「デジタル化の推進」は、フライドチキンの提供という一見するとアナログな飲食ビジネスにおいては何を意味するのだろうか。平田氏は「それぞれの地域に密着した店舗が、そこに暮らす人々にとって大切な場所であり続けるという創業以来の価値を、デジタルによってスケーラブルな形で提供できる状態をつくることに本質がある」と説明。これが同社のAI活用領域の1つでもあるとした。
その実現のため、同社では公式アプリをすべての顧客サービスの中心に据え、メニュー提示やクーポン配布、注文、情報発信まで一元化している。アプリを通じて蓄積される会員データを活用する最大の狙いは、数字としての売上を分析することではなく、顧客一人ひとりの暮らしや文脈、ブランドの立ち位置などを解像度高く理解することにある。店舗の店長が常連客の好みを把握しているように、デジタル上でもそれぞれの顧客と向き合う状態を目指しているのだ。
「今までは統計データでしか見ることができなかった状態から、AIの力で一人ひとりのお客さまと向き合えるようになってきました。この取り組みを推進していくことが、今も昔も変わらぬ、当社が目指す価値と考えています」(平田氏)
フランチャイズ形態のファストフードという一律のサービスを提供することを求められる業態において、店舗ごとに地域密着で顧客と向き合いおいしいチキンを提供し続けてきた日本KFC。人の手だけでは難しかった数千万規模の顧客とのOne to Oneの関係性を構築する基盤が、AI時代のテクノロジーによって実現可能になりつつある。
経営層から現場までをつなぐ。JTBのインナーブランディング
次に「自社ならではの価値をどう定義し、実現しているか」という質問に対し、両社が変化を乗り越えてブランドをより成長させるため現在取り組んでいることを共有した。
JTBは「旅行会社」というパーセプション認知度が高い企業だが、100年を超える歴史の中で市場の変化や顧客ニーズに合わせて事業ドメインを変化させてきた。現在は、旅行会社の枠を超え、人と人、人と地域、人と組織の出会いと共感をサステナブルにつくり続ける「交流創造事業」を事業ドメインとしている。先ほど紹介された「The JTB Way」の具現化のため、同社ではブランディングと事業構造の変革を両輪で実行しているのだ。
「The JTB Way」を単なるスローガンに終わらせず、実際の価値へと昇華させるために同社がまず注力したのが、インナーブランディング、すなわち社内への理念浸透活動である。風口氏は「まずは社内のメンバーがその意義を深く腹落ちさせる必要がある」と語った。
とはいえ、部門やレイヤーによっても「腹落ちの仕方」は異なってくる。風口氏らは、まず経営層向けの勉強会を実施し各役員が自分の言葉で理念を語れる状態をつくり、次いで現場の結節点となるミドルマネジメント層を対象としたワークショップを展開した。
さらに、全社員が身近に理念を感じられる工夫として、名刺発注時に「ブランドカード」を同梱する施策を導入。カードに記載された理念に対して自身がどのような活動で体現しているかを、QRコード経由で可視化する仕組みだ。
「社内のメンバーがきちんと納得感を持って考え、日々の行動に移すことが大切。社外にこのブランド理念を発信する前に、様々な形で社内の浸透活動を展開しました」(風口氏)
この取り組みの結果、理念は現場にも浸透し、全国150の拠点にプロジェクトを実行する「Smile委員」を配置した形でボトムアップの活動へとつながっている。実際に「地域の未利用魚を活用したサステナブルな商品開発」など、地域の顧客と共創しながら現場の社員が起点となって「The JTB Way」を具現化している。
