「AIによる思考の同質化」の壁を超える、2つ目のエンジン
PSDCAでは、Planの後に、このAI Market Twin上で「Simulate(S)」を実施する。策定した戦略やプランを仮想市場に投入し、生活者の反応をシミュレートした上で計画を磨き込んでからDoへ進む。貝塚氏は「仮説検証と学習のプロセスが、Doの後からDoの前に大きくシフトする。これによってプランの成功確率が大幅に向上する」と説明した。
このシミュレーション基盤を支える「People Model」もバージョン2.0へ進化した。シミュレーション精度は相関係数80%から90%超へ向上。また、業種特化型「People Model for Vertical」と機能特化型「People Model for Horizontal」への領域拡張が図られており、シミュレーション可能なカテゴリと時間軸が大きく広がっている。

もっとも、シミュレーションの精緻化だけでは「AIによる思考の同質化」という壁を越えられないと貝塚氏は指摘する。AIが大量のデータを学習してシミュレーションを高度化するほど、その出力は「平均解」に収斂しやすくなる。競合との差別化や未知領域でのブレークスルーには、データの範囲を超えた飛躍——いわば「クリエイティブジャンプ」が必要だ。
そこで2つ目のエンジンとして位置づけられているのが「Creative Thinking Model」だ。dentsu Japan専門人財の創造的思考方法を学習したこのモデルは、既存のデータやパターンから外れた革新的なアイデアや“Never Before”なクリエイティブの発想を支援する。重要なのは、AI Market Twinによる精緻なシミュレーション環境が整っているからこそ、クリエイティブジャンプの大きさに応じたリスク評価が事前にできるという点だ。大胆な飛躍と検証可能性を両立させる——この2つのエンジンを相互に機能させることで、PSDCAを通じた事業成長を支えるという設計思想である。

専門AIプロダクト群「AI For Growth Suite」をSaaS化
続いてdentsu Japan チーフ・AI・オフィサーの並河進氏が、新プロダクト群「AI For Growth Suite」を発表した。
「AI For Growth Suite」は6つの専門AIツールと、AIエージェントプラットフォーム「AI For Growth Canvas」、データ統合・分析基盤「AI For Growth Decision Hub」で構成される。各専門エージェントやツールは、基本SaaSでの提供となる(一部例外あり)。
「汎用LLMはとても賢い。ただしマーケティングの実務は知らない。専門知見と実業務のやり方を学習させることが重要だった」と並河氏は開発方針を語った。
注目は、10種類の専門AIエージェントがチームメイトとして機能するAI For Growth Marketing Agentsだ。ここには電通のマーケター・クリエイターのメソッドや大規模調査データ、現場のナレッジが組み込まれており、戦略プランナー、商品プランナー、コピーライター、ブレストエージェントなど多様な役割を担う。また、ChatGPT Enterprise、Gemini Enterprise、Microsoft Copilotなど、クライアント企業が導入しているツールに組み込む形でも提供でき、Agent as a Service型での展開も可能だという。

