AIでありがちな「質の低下」、どう乗り越えた?
━━「浮世絵を動かす」という極めて難度の高い表現に対し、独自の制作フローを確立された手法について詳しくお聞かせください。
横山:実写風の生成も可能でしたが、コンテンツとしてのキャッチーさを求めて浮世絵風の表現を提案しました。しかし、いざ動画生成AIで動かそうとすると、生成するたびに浮世絵のタッチが変わってしまい、安定したタッチを維持できないという壁にぶつかりました。
そこで、自前のデータセット学習(LoRA)を採用しました。権利関係がクリアな浮世絵のデータのみを追加学習させることで、安定したタッチで生成できる仕組みを構築しました。
━━個人がSNS等でAI動画を量産できる時代だからこそ、「プロの仕事」としてクオリティが劣化しないためにこだわった点は何でしょうか。
横山:LoRAを使っても、やはりAI特有の絵の崩れは発生してしまいます。AI単体で出力して終わりにするのではなく、1カット、1コマごとに人間の手で細かく修正を加えました。
AIをあくまで素材を生成するための道具として使い、最終的なフィニッシングのクオリティ担保は人間が責任を持つというプロセスを徹底しました。映像の技術的な仕上げを行うポストプロダクションの工程も行い、テレビCM制作のクオリティと同等の目線を持ちながら、細部までこだわり磨き上げていったことが、映像美に大きく寄与しています。
大塚:また、AIクリエイティブにおいて「権利」と「倫理」の問題は非常に重要です。当社では2023年より「クリエイティブ法務」という専門組織を立ち上げ、法的リスクを抑えながらブランド価値を最大化する取り組みを行っています。クリエイティブロイヤーと呼ばれる専門性の高い弁護士と連携しながら、広告表現を法的観点で検証するだけでなく、知的財産やAI活用に関するリスク評価も包括的に実施しています。
今回も、クリエイティブ法務と企画段階から連携し、生成AI特有の権利・倫理上の論点を整理した上で、制作チーム全体で共有できる判断基準と確認フローを設けました。これにより、リスクと適切に向き合いながら、新しい表現に挑戦できています。
石渡:それに加えて、広告主の立場としては、ブランドガイドラインの遵守を強く意識しました。メルカリのロゴやアプリのUIなど、崩れることが許されない部分はAI生成ではなく、後から実物の素材をはめ込んでいただくなど、通常の制作と変わらない基準でチェックを行いました。
視聴と獲得を両立させるYouTube二面活用のメカニズム
━━動画視聴キャンペーンとアプリキャンペーンを併用し、三型のフォーマットを展開した意図を教えてください。
大塚:YouTubeを、クリエイティブによる「気づきの創出」と、データドリブンな「獲得配信」を同居させられる媒体として位置づけました。
高認知ブランドの場合、既存の固定化されたイメージによってスルーされやすい傾向があります。そのため、まずは音声と映像で世界観に没入できる動画視聴キャンペーンで価値理解の母数を広げました。しかし、興味関心だけではインストールにつながらないため、別途インストール目的のアプリキャンペーンを並行して走らせました。
また、効果的にフリークエンシーを高めるために、横・スクエア・縦の3フォーマットを展開しました。
━━今回の取り組みによって得られた成果を教えてください。
石渡:狙い通り、視聴率・視聴完了率が非常に高かったです。視聴完了率は55.9%と、同時期に配信した他動画の平均と比べても約8ポイント高い結果となりました。スキップ可能な広告枠において高い視聴率を獲得できたことは、サービスへの深い理解と利用意向の向上につながったと評価しています。
さらに驚いたのは、獲得目的の配信でも大きな成果が出たことです。これまで獲得に効くのは短尺動画が多いという認識でしたが、今回は30秒の動画でありながら、インストール単価(CPI)を従来の動画広告と比較して約40%改善することができました。
横山:従来の制作手法であれば数ヵ月を要する品質と本数ですが、AIを活用することで、企画決定後の動画制作から納品までわずか19営業日で実現できたことも、特筆すべき成果だと考えています。

