市場成長の本質は「買い増し」ではなく「裾野の広がり」
次に注目したいのは、伸びた市場の成長が必ずしも「既存ユーザーの買い増し」だけで成り立っているわけではない点だ。
冷却商品市場における2023年〜2025年の夏場(6〜9月計)の購買動向を見ると、購入者当たり金額は2025年に前年比101%とあまり伸びていない。一方で、購入率は前年比106%と拡大している(図3)。つまり、市場を押し上げた要因は「1人ひとりの購入量の増加(奥行拡大)」よりも、「購入者数の増加(間口拡大)」にあったといえる。
出典:インテージ SCI(全国消費者パネル調査)/2023〜2025年夏場(6~9月計)
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同じ構図は化粧品市場でも見られる。スプレー・ミスト化粧水は、夏場の化粧水市場で存在感を高めており、2023〜2025年の夏場(6〜9月計)の購入率を確認すると、2023年から2024年にかけて前年比118%、2024年から2025年にかけても113%と伸長傾向が継続していた。一方で、購入者当たり金額は増えていない(図4)。このデータからも、既存ユーザーの買い増しではなく、購入層の広がり(間口拡大)こそが市場成長を支えているといえる。
出典:インテージ SLI(全国女性消費者パネル調査)/2023〜2025年夏場(6~9月計)
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この変化は、マーケティングにおいて重要な示唆を含んでいる。市場が拡大していく局面では既存ユーザーの深耕に目が向きがちだが、裾野の拡大で伸びている市場では、「カテゴリーに詳しい層により深く刺さる商品説明」よりも、「まだ買っていない層に必要性を認識させるメッセージ」が求められる。
たとえば、冷却商品なら“暑さ対策を早めに始める理由”、スプレー・ミスト化粧水なら“メイク崩れや乾燥の不快を減らす手軽な選択肢”といったように、「生活者が自分事化せざるを得ない」「家族のために対策が必要だ」と感じる文脈に翻訳することが欠かせない。これからの猛暑への対策においては、「誰により多く売るか」だけでなく、「誰に広げていくか」を設計する視点が求められるだろう。
求めたのは「冷感」だけではない。生活者が猛暑に求めた「価値の束」
猛暑の年に売れるものと聞くと、多くの人はまず「冷たい」「涼しい」といったニーズを満たすものを思い浮かべるのではなかろうか。それは間違いではないが、2025年のデータが示していたのは、生活者が実際に求めている価値は「冷感」だけではなかったという事実だ。
食品市場では、氷菓や錠菓・清涼菓子が伸びた一方で、「冷たい用途で食べる麺」も2023年から2025年にかけて継続的に伸びていた。特に生麺・ゆで麺の伸びが大きく、背景には「手軽に食べたい」「火を使う時間を短くしたい」といった簡便ニーズがあると考えられる。暑さは、食欲だけでなく「調理の仕方」にも影響していたのではないか。
化粧品市場でも、求められていたのは単純な冷感ではない。スプレー・ミスト化粧水は、汗や皮脂によるメイク崩れ、外出控えによる冷房乾燥、暑さの中での不快感といった悩みに応える“プラスオン”の役割を担っていた。日常の基礎アイテムというより、暑い季節特有のシーンで使い分けられるアイテムとして需要が広がっていた点が特徴的だ。生活者は単に「暑いから涼しくなるものを選ぶ」のではなく、「今の不快感や悩みを減らしてくれるものを選ぶ」ようになってきたといえるだろう。
同様の動きは、冷却商品市場にも表れている。冷感シートのように、持ち運びやすく外出先ですぐ使え、かつ快適さを提供するものが支持されていた。そこから浮かび上がるのは、「涼しい」という機能的価値だけでなく、「すぐ使える」「手軽」「外出先でも助かる」「家に持ち帰らず、外でも捨てられる」といった、複数のメリットが掛け合わされた「価値の束」である。
つまり、猛暑下の消費で重要なのは、単一の機能ではなく、快適・時短・身だしなみ・安心といった「価値の束」で商品を捉えることだといえるのではないか。
