ターゲットの思考をトレースするユーザー理解
ファンダメンタルズ領域の中核をなすユーザー理解には、深さに応じて3つの段階が存在する。第1段階は「観察」だ。ターゲット層が何を好み、何を好まないのかという表面的な「結果」を知る段階である。第2段階は「置き換え」と呼ばれる。マーケター自身がターゲット層の立場であればどのように行動するかを「想像」し、ユーザーの視点に立って考える段階だ。
そして、独自市場を創出するために不可欠なのが、第3段階の「憑依」だ。これは、単なる想像を超え、ターゲット層の思考回路や価値判断基準の根底を完全に理解し、彼らと同じ思考プロセスで物事を判断できるようになる状態を指す。
木下氏は、「美しい女性が朝に紅茶を飲んでいるイラスト」を例に、この3段階の違いを説明した。
観察レベルでは「この女性は朝に紅茶を飲んでいるから、紅茶が好きなのだ」と事象の結果だけを捉える。置き換えレベルになると、「私がこの女性なら、紅茶と一緒に美味しいスコーンが食べたい」と関連するニーズを想像する。しかし、憑依レベルまで到達すると、見えてくる世界はまったく異なるものになる。「この女性は朝の通勤列車でコーヒーの匂いを出してはいけないので、本当はコーヒーが好きなのに紅茶で我慢している」という、隠された背景要因まで洞察するのだ。
この憑依レベルの理解に基づいて新商品を企画した場合、提供すべき商品は美味しい紅茶でもスコーンでもなく、「匂いのないコーヒー」となる。「どこまでお客様を理解しているかによって、どういう商品がこの人に売れるかまったく変わってくる」と木下氏が語るように、ユーザーの深層心理を正確に把握することで、既存の紅茶メーカーやコーヒーメーカーと直接競合することなく、全く新しい市場空間を開拓できるのだ。
敵を正しく知る「3つの競合」という分析視点
ユーザー理解と並行して行うべきなのが、競合の分析だ。「戦いを避けるには敵を知ることが大事」であると木下氏は強調する。競合分析において重要なのは、単に同カテゴリーの商品を比較するだけでなく、消費者の購買行動を阻害するあらゆる要因を「競合」として認識することだ。
競合には大きく分けて3つの種類がある。
1つ目は、最も一般的な「プロダクト競合」だ。育毛剤を例に挙げれば、店頭の棚に並ぶ他社の育毛剤がこれに該当する。同じ土俵で直接的に顧客を奪い合う、わかりやすいライバル関係だ。
2つ目は、消費者の内面にある「インサイト競合」だ。これは特定の競合商品があるわけではなく、「髪を増やしたいが手間はかけたくない」「お金をかけずになんとかしたい」といった、消費者の心理的なハードルや無意識の思い込みを指す。提供する商品がいかに優れていても、このインサイト競合(心理的壁)を打破できなければ、最終的な購買には至らない。
3つ目は、同じ目的を達成するための別の手段である「メソッド競合」だ。育毛剤の目的が「髪を増やすこと」であれば、ウィッグや植毛、育毛サロン、さらには頭皮マッサージ機器などがメソッド競合となる。特にインターネット検索環境下では、「育毛剤」と検索したユーザーの画面に対して、育毛サロンやマッサージの広告も同時に提示される。プロダクト競合に勝つことだけを考えてUSP(独自の強み)を設定しても、このメソッド競合に顧客をごっそり奪われてしまうリスクがあるため、より広範な視点での競合設定が求められるのだ。
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安原 直登(編集部)(ヤスハラ ナオト)
大学卒業後、編集プロダクションに入社。サブカルチャー、趣味系を中心に、デザイン、トレーニング、ビジネスなどの広いジャンルで、実用書の企画と編集を経験。2019年、翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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