便利さと信頼は、どう両立できるか
より良い顧客体験を目指すなら、ユーザーの負担になるような「確認」の工程もすべて減らしてしまったほうがよいのだろうか。河野氏はこう語る。
「AIを活用することで、お客さまがサービス利用時に感じる摩擦は下げていきたいと思っています。ただし、敢えて残すべき摩擦としては、安全安心にかかわることです。具体的には、本人確認、真贋鑑定、規約に触れる商品の判断などはAIによる検知と人による判断を組み合わせて判断していく必要があると考えています」
たとえば、2026年7月に始まった新サービス「m department」は、メルカリアプリとは独立したECサイトだ。審査を通過した専門事業者が整備済み製品や真贋鑑定済みブランド品を扱い、人間の専門家の確認や品質保証・返品体制を設けている。
「お客さまが不安を感じる商品がマーケットプレイスに流通している状態だと、次第に参加者が減っていき、流通するアイテムが減ってしまうことに繋がる」と河野氏が話す通り、安心・安全が損なわれれば、市場への参加や流通にも影響する。
メルカリは「安全であること(Safe)」「信頼できること(Trustworthy)」「人道的であること(Humane)」の三つを柱とする「マーケットプレイスの基本原則」を策定し、法的に判断しにくい領域や社会的な混乱が生じるケースにも立ち返る判断軸としている。
さらに、一次流通企業との連携や、本人確認・保証体制への投資を強化している。たとえば最近の例では、今年、日本マクドナルドのハッピーセットの玩具付録「ちいかわ」について、発売直後の混乱を避けるため、一定期間出品を禁止したことが記憶に新しい。
河野氏はこの点について、「マーケットの健全性を維持するためには、メルカリとしてもしっかりとした投資が必要だと考えています」と述べ、本人確認、鑑定、補償などを挙げたうえで、「この安全・安心はコアな付加価値だと思っており、投資を緩めず高めていきます」と話す。さらに、次のように締めくくる。
「利用する人にとっては、市場の安全・安心が保たれないと循環市場が大きくなりません。その主たる運営事業者であるメルカリが社会から信頼されないと、市場も、そして自社の事業規模も大きくならないと思います」
CX向上とは単に「すべての摩擦(手間・手続き)をゼロにすること」ではない。ブランドや市場への信頼を守るための確認プロセスは「あえて残すべき摩擦」であり、そこに投資し続けることこそが、顧客が長期的に利用し続けるための最大の基盤となる。
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小口 裕(オグチ ユタカ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 主任研究員
多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。持...
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