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戦略的な失策はどんなにいい実行でも挽回できない――資生堂・音部大輔氏が語る戦略の本質

2017/07/27 07:00

視点の差が思考の差、実行の差へとつながる

 音部氏は、比較して違いを探し出したり、その違いが強みになる状況を想定したりする創造的な作業を通して、思わぬ資源を見つけられることがあると話す。ホチキスの針の有無がもたらす違いを見出したことで、リプトンは新たな資源を得ることができたのだ。

音部大輔氏

 もし2人のマーケターが同じ目的、同じ材料で戦略を作ったとしても、ものの見方が違えば異なる戦略が生み出される。2人の視点が違うということは、持っている資源が違うことを意味するからだ。勝者はより多くの資源を持っている。

 そもそも優位な結果を得るためには「違うことをするか、違えてする」必要がある。同じ行動からは違う結果は生まれない。そのためには「違うことを考えるか、違えて考える」ことが必要だ。行動は、思考の結果である。

 そして、違う思考のために最も大事なのは「違うものを見るか、違えて見る」という視点の差である。視点の差が思考の差、実行の差、ひいては結果の差へとつながる。ティーバッグのホチキスしかり。

 視点を広げ、違う角度でものを見られるようになるにはどうすればいいのだろうか。音部氏から三つの手法が紹介された。

Filtering

 これはフィルターをかけてものを見ること。方法の一つとして、特定の学問領域というフィルターを通してものを見ることが挙げられる。たとえば雷は、神の怒りとして見る神話学と、静電気だと捉える物理学ではまったく見方が異なる。

 また、異なる時間軸というフィルターを通して見るのも有効だ。3分後、30分後、3時間後、3日後、3週間後、3ヵ月後、3年後、30年後と、見ているもの自体やそれを取り巻く世の中の変化を捉えてみよう。

 あるいは、時間以外の変数を変えてみてもいい。高さや体積、個数など、数字で捉えられる部分を変えてみることで新しい見方を発見できるかもしれない。

Borrowing

 直訳すれば借りること。たとえば、上司や同僚の考え方のコピーを創ることで、自分の視点を増やす方法がある。上司のコピーを創るだけで、自分が使える視点は倍になる。

 未来や過去の自分の立場で見てみることもいい方法だ。もしくは競合他社の視点を借りてみてもいい。何人もの考え方を自分のものにすることで、どんどん視点が増えていくだろう。

Imagining

 戦略はほとんどの場合、現在の状況を反映して作られる。しかし、その結果が出るのは未来。だとすれば、あらかじめプロジェクトが大失敗・大成功した未来に身を置き、その原因を未来から振り返って見直すことで、「想定外」の出来事を減らすことができる。計画段階で失敗・成功の未来を想定しておくことで、ものの見方は変化するだろう。

戦略か、実行か――マンシュタインのマトリックス

 さて、ここまで目的と資源について音部氏の解説を紹介してきた。改めて、戦略とは何なのだろうか。音部氏は戦略を「目的達成のための資源利用の指針」だと定義する。いい目的を設定し、視野を広げて多くの資源を得ることは、戦略を組み立て成功させるうえで不可欠なことなのだ。

 しかしながら、戦略は実行しなければ目的は達成されない。いい戦略といい実行が組み合わさってこそ最大の効果が発揮されることは疑いようがないものの、ダメな戦略やダメな実行を完璧に避けられるわけではない。

 音部氏はマンシュタインのマトリックスを用いて、これらの組み合わせの善し悪しについて教えてくれた。次のマトリックスのABCD欄に、いいと思う順番をつけてみてほしい。ちなみにマンシュタインはドイツの陸軍軍人として元帥まで上り詰めた人物で、第二次世界大戦中にはアメリカでも高く評価された。

  いい戦略 ダメな戦略
いい実行 A B
ダメな実行 C D

 あなたが戦略重視ならば、ACBDという順番にしただろう。実行重視ならば、ABCDだ。共通するのは、「ダメな戦略とダメな実行」のDが最低評価ということ。だが、マンシュタインのマトリックスが提示する正解はACDBだ。

 なぜなのだろうか。戦略がダメでもいい実行で挽回できるのではと考えたくなる。ダメ戦略×ダメ実行にいいところなんて一つもないのでは?

 そうではない。このマトリックスは元々が人材配置のために用いられていたもので、マンシュタインは以下のように人材を振り分けた。

  有能 無能
勤勉 参謀 解雇
怠惰 将軍 頭数

 有能で勤勉ならば参謀に。有能で怠惰ならば(怠惰を好意的に解釈して、資源の浪費を嫌うと理解し)将軍(指揮官)に。そこまではわかりやすい。ポイントは、無能で怠惰な軍人が頭数として有用だということ。自分で考えないし自発的な実行もしないが、とりあえず命令されれば動くからだろう。けれども無能で勤勉な軍人はよろしくない。大した考えもなく実行しまくる軍人がいたとしたら、きっととんでもない混乱をもたらすだろう。

 音部氏はゲーテの言葉を引用した。「活動的な馬鹿より恐ろしいものはない」と。

 実はダメな戦略×ダメな実行はリカバリーしやすい。あらぬ方向に向かってしまう戦略でも、実行がともなっていなければそこまで怖くはないのだ。

 しかし、あらぬ方向に向かう戦略を熱心に実行してしまえば……リカバリーはとても難しくなる。そのため、ダメな戦略でもいい実行でなんとかするという考え方は危険である。実行には達成感が生じてしまうので、どんどんよくない方向に進んでいってしまう可能性すらある。間違った医療方針に従って一生懸命に薬を飲んでも、治ることはない。ビジネスも同じだ。

 戦略的な失策は実行で挽回できない――音部氏が肝に銘じてもらいたいと語勢を強めた。

戦略を変えるのはいつか

 最後に、音部氏から戦略を変えるときの注意点が挙げられた。チームメンバーや上司、環境が変わることで戦略を変えなければならない場合があるが、安易に変えることは避けたい。では、いつ変えるのか。

 戦略を改訂すべきタイミングとは、戦略を定義する目的と資源が変化したときである。ただの思いつきやトレンドを取り入れたいからといった理由で戦略を変えれば、資源の無駄遣いにつながり、待っているのは失敗だけだ。

目的のない仕事はやらなくていい仕事

 以上のように、音部氏の戦略論は非常に明快で実践しやすいものだった。もしより深く知りたいという方は、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』を手に取ってみてはいかがだろうか。

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