キーワードは「ブランドの人格」。課題解消の第一歩は
MZ:再春館製薬所の課題を受け、電通デジタルとしてはどのような戦略が必要と考えましたか。
中村:課題解消のため一番に取り組むべきは、お客様に提供したい顧客体験の全体像、つまり「ブループリント」を描くことでした。ご相談いただいた当時、有働様がおっしゃったようにチャネルや顧客属性ごとに施策が個別最適化されており、LINE上で「再春館製薬所らしさ」をどう体現するかというブランドの“人格”が定義されていませんでした。
中村:皆様とディスカッションしながら課題構造を整理した結果、3つの原因仮説が見えてきました。
1つ目は、先ほどの「顧客体験のビジョン・ゴールイメージが統一されていないこと」です。2つ目は、事業KGIから個別の施策KPIまで一気通貫したマネジメントができておらず、長期的な投資対効果が見えづらくなっていたこと。そして3つ目は、運用ナレッジが属人化し、本来の“考える”業務ではなく“手を動かす”定型業務にリソースが奪われていたことです。
これらを解決するため、まずは当社に配信設定などの定型業務を移管し、再春館製薬所の皆様には戦略や体験設計に集中していただく体制への移行をご提案しました。将来的なインハウス化も見据え、知見が属人化しない「虎の巻」を作りながら伴走するスキームです。
太田:本スキームを実運用へ落とし込むにあたり、単に運用を代行するのではなく、まずは一連の業務プロセスの抜本的な棚卸しと再設計を行いました。
再春館製薬所様が長年大切にされてきたブランドガイドラインやきめ細やかな表現ルールを私たちが正しく理解し、実務で再現できるようになるまでには、一つひとつの認識のすり合わせが必要でした。そうしたプロセスを経て多岐にわたるタスクを整理しながら、公式アカウントの配信設定やレポーティングといった定型業務を当社に移管して標準化・効率化を進めました。
これにより、再春館製薬所様には最終的な意思決定を担っていただき、本来の“考える”業務に専念いただける体制を構築しています。
LINEを活用した施策の改善に取り組み、成約単価が-20%に!
MZ:具体的な取り組み内容についても教えてください。
清﨑:2つの施策をご紹介します。1つはLINEプロモーションスタンプ施策における頻度の見直しです。
これまで「ドモホルンリンクル」LINE公式アカウントの友だち獲得において、コラボスタンプ施策への依存度が高い状態だったため、年間で2回実施していたスタンプ施策を2025年度からは1回に減らしました。結果として、友だち追加数全体は減りましたが、初回購入に至った方の成約単価は前年の約80%まで改善しています。
中村:もう1つの施策は、2名のクリエイターとコラボしたオリジナルスタンプの制作です。従来のスタンプ施策は友だち数を大きく伸ばせる反面、ターゲット外のユーザーも多く流入し、結果として反応率の低下や有効友だち獲得単価の高騰を招いていました。そこで、より親和性の高い層との接点を作るためのPoCとして、2名のクリエイター起用をご提案しました。
清﨑:複数のクリエイターを起用したことで、それぞれのファンの方にダウンロードいただき、新たに友だち追加してくださる層を広げることができました。さらに、友だち追加後のブロック率の低下や、「ドモホルンリンクル」のターゲットである30代以上の女性層へのリーチ拡大にもつながっています。
中村:この新しいスタンプ施策で親和性の高いお客様をお迎えするにあたり、あらかじめ「受け皿」となるコミュニケーションのあり方も大きく見直していました。従来のマスメディア的な一斉配信モデルから脱却し、「One to You」のコミュニケーションへ舵を切る必要がありました。
お客様の行動起点や検討度合いに合わせたセグメント配信に切り替え、「欲しい人に、欲しい情報を、欲しいタイミングで」お届けすることで、本質的なエンゲージメントの強化を図りました。
太田:実際の運用フェーズにおいて重視したことは、「お客様一人ひとりのお悩みや状況の変化に寄り添うこと」です。具体的には、バースデーやポイント期限といった個別のタイミングを捉えた配信や、お悩み・年齢などの属性データに基づき、今その方が本当に求めている情報を最適化して出し分ける仕組みを実装しました。
太田:その根底にあったのは、再春館製薬所様が長年大切にされてきた「応対品質」や「お付き合い価値」を、デジタルの世界でいかに体現するかという問いです。単なる自動化された情報発信ではなく、まるで「お客様プリーザー」と接しているかのような手触り感や誠実さをLINE上でも設計し、日々のサービス体験を通じた深い信頼関係の構築を強く意識しました。

