LTV最大化の鍵はライト層にあり。CAC高騰時代を生き抜くデータなき攻略法
続いて登壇したギックスの黒田亮二氏とLINEヤフーの関野聡史氏は、近年のマーケティング環境における最大の逆風として「CACの爆発的な高騰」を挙げる。市場調査データが示す通り、新規顧客の獲得コストは過去8年で220%以上も増加しており、企業が新規獲得の広告投資だけで利益を出し続けることは限界に達している。
このCAC高騰時代を生き抜くための解として、多くの企業が「LTVの最大化」を掲げ、「既存のヘビーユーザーをさらにロイヤル化する」「ミディアムユーザーをヘビーに引き上げる」施策に注力しがちだ。しかし、黒田氏はこのアプローチを「大いなる勘違い」と一蹴する。
PwCの調査によれば、経営幹部の約9割が「自社の顧客ロイヤルティは向上した」と自信を見せるのに対し、消費者の側で「そのブランドへのロイヤルティが高まった」と回答したのはわずか4割に留まり、致命的な認識ギャップが存在している。さらに世界的なトレンドとして、特定のブランドを盲目的に支持する消費者はわずか8%に過ぎず、消費者のライト層化(低ロイヤルティ化)が急速に進んでいるのが実態だという。
黒田氏は「LTV最大化の真の鍵は、実は売上の30〜50%ともいわれている広大なライト層の攻略にある」と断言する。例えば、すでに自社を愛用しているヘビーユーザーの消費量をこれ以上増加させることは容易ではない。
しかし、年に1回しか購入していない膨大なライト層の購入頻度を「年2回」に引き上げることができれば、ビジネスにもたらす売上インパクトは巨大なものとなる。問題は、購買頻度が低いために社内に顧客データが蓄積されず、ライト層の嗜好やインサイトが「全くわからない」という点にある。
行動プロセスから顧客を理解する。AI×ゲーミフィケーションの破壊力
データのないライト層を動かし、顧客を深く理解するための解決策としてギックスが提示するのが、LINEを土台としたゲーミフィケーション(ゲームの要素や仕組みを取り入れてユーザーの行動を促す手法)とAIの掛け合わせだ。
その事例として黒田氏が紹介するのは、海外発の大手語学学習アプリにおけるデータ主導型アプローチだ。語学学習という本来は「重く挫折しやすい」テーマを徹底的にライトな体験へと落とし込み、MAU(月間アクティブユーザー)の約30%が毎日アプリを開くという驚異的な習慣化を実現しているという。その背景には、高度なAIシステムが存在する。
この語学学習アプリでは、ユーザーが問題を間違え続けて意欲を失いかけた瞬間に、AIが自動で適切な難易度の問題を提示する「DDA(動的難易度調整)」や、離脱の予兆を早期検知して最適なタイミングで通知を送る仕組みを実装している。
「ライト層の育成において、最初から完璧な顧客プロファイルデータを取り揃える必要はない。まずは行動してもらい、その行動プロセスから顧客を解釈・理解すればよい」と黒田氏は語る。人力では処理しきれない大量かつ複雑な行動データを、AIという「頭脳」を用いてリアルタイムに解析するアプローチだ。
ギックスが提供するAI×ゲーミフィケーションによる「マイグル(Mygru)」は、ユーザーの心理的ハードルが低いLINEミニアプリの導線上に、何が当たるかわからないドキドキ感で参加の習慣化を促す「ガチャ」や、ユーザーのリアルタイム状況(天気・時間・場所)に応じてミッションを動的に生成する「ダイナミック・ミッション」などの豊富なゲーミフィケーション機能をパッケージで実装している。同社が得意とするデータ分析やAI活用の知見を活かしながら、ユーザーごとに最適な体験設計を行える点も特徴だ。カスタマイズもできるため、さまざまな企業に導入されている。
これらを通じて、ライト層に楽しみながら接触の頻度を高めてもらい、自然な形で深い顧客理解とゼロパーティデータの取得を進めていくことが可能となる。

LINEヤフーの関野氏は「顧客獲得コストが上がってきている今、行動データを取得することの重要性は高まっている」と語った。ゲーミフィケーションを用いながらユーザーの行動を促し、データも取得・活用できるマイグルは、顧客獲得コスト高騰を打破する施策の一つになるかもしれない。

