両者を分けるのは「Authenticity(本物であること)」だった
奥谷氏は、この問いに対するキーワードとして、「Authenticity(本物であること)」を挙げた。
Sephora、The Home Depot、Wayfairに共通していたのは、AIの裏側に「本物の中身」があることだ。一方、Macy'sとスターバックスは利便性を追った結果、体験の「本物さ」が希薄になった。AIは強力な増幅装置だが、増幅する中身が空洞であれば、空洞が増幅されるだけだ。この対比を、もう1つの事例がさらに鮮明にする。
ウォルマートが示す「AI-Readyの実装」
奥谷氏によれば、ウォルマートの店舗は今年(2026年)に入ってからガラッと変わってきている。売り場を従来の「商品カテゴリー」ではなく「生活文脈」で再設計しているのだ。冷凍食品を「Breakfast」「Lunch」で分類し、ベビー用品とおもちゃを一体化してワンストップニーズに対応する。
画像出典:https://corporate.walmart.com/
ベビーレジストリで「いつ生まれたのか」という1st Partyデータを取得し、VIZIO買収によるテレビ視聴データでリテールメディアを拡大する。一見するとお店が整理されただけに見えるが、奥谷氏は「裏にはちゃんとデジタルのインフラが走っている」と指摘する。
ウォルマートは、店舗体験とデジタル基盤の両方を整えることで、AIが顧客の文脈を読み取れる土壌を作っている。つまり、「コンテクストを作る構造」そのものに投資しているのだ。
「チャネルをつなぐ」から「文脈をつなぐ」へ
これらの事例を貫く構造を、奥谷氏は「オムニチャネルの再定義」として語る。従来のオムニチャネルは、オンライン・オフライン・モバイルの各チャネルをシームレスにつなぐことが目的だった。しかしこれからのオムニチャネルは、「顧客がどういうモードで、どういう課題を持って来ているのか」という文脈をつなぐことが本質になる。
ただし、文脈をつかむ仕組みが整っただけでは、顧客は長くつながり続けない。文脈の先に何を顧客に渡せるか? それがAuthenticityの問いであり、Customer Engagementの深さを決める。では、Authenticityを具体的にどう実装すればよいのか。奥谷氏は2つの方向から語った。
