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【ニッセイ基礎研究所 解説】「共創」視点で再定義する「サステナブル・マーケティング」

「Too Good To Go」が創る新たな購買体験 フードロス削減と新規獲得を両立するブランド設計

9割「お得・エンタメ」、1割「サステナ」――「おいしい体験」が大前提

 この取り組みで注目したいのは、消費者への入口の設計である。大尾嘉代表は、消費者向けには「半額」「エンタメ性」「サプライズバッグ」という価値を前面に出していると話す。

 「Too Good To Goとしては、社会の持続可能性、つまりサステナビリティを念頭に、フードロスを減らすことを目標としています。ただし、消費者向けには、半額、つまりお得であることや、エンタメ性、サプライズバッグという価値を前面に出しています。その比率を感覚的に言えば、9割が『お得・エンタメ』、1割が『サステナ』というところです」(大尾氏)

 一般的に、自然環境保全や脱炭素、省資源といった社会志向のマーケティングは、ともすると「弊社は社会的に良いことをしている」と、理念としての正しさを前面に出しがちである。ただ、その見せ方が強くなるほど、消費者による参加の入口が限られてしまうこともある。特に日本では、サステナビリティを強く打ち出すことで、消費者から「意識の高い行動」として受け止められ、時には距離を置かれる場合もあるだろう。

 「社会のサステナビリティを考えていくことは大切です。ただ、それを消費者の目的にしてはいけないと思います。そうした瞬間、対象となる消費者が限られてしまう。それでは、たとえ良い製品やサービスであっても、社会に広がりません。まず、使い手である消費者にとって何が楽しいか、おいしい選択なのかを考える。そして、それを強く意識せずに生活に取り入れてもらえるようにすることで、結果としてフードロスへの意識が社会に広がっていく。そういう構図が理想的です」(大尾氏)

Too Good To Go Japan株式会社 大尾嘉宏人 代表
Too Good To Go Japan株式会社 大尾嘉宏人 代表

「社会にいいこと」への絶妙な距離感

 Too Good To Goのサービスを生活者の視点から見ていくと、食品ロス削減という社会課題が、日々の買い物の中で試しやすい体験へと置き換えられていることがわかる。

 たとえば、アプリを使って商品を購入した後に画面に表示されるメッセージ表現についても、細かな配慮がある。購入した商品を受け取ると、画面にはフードロスへの削減やCO2e削減に対する貢献数値と、「素敵です」というメッセージが小さく表示される。

購入した商品を受け取ると、アプリ画面にはフードロスや環境への貢献数値が小さく表示される
購入した商品を受け取ると、アプリ画面にはフードロスや環境への貢献数値が小さく表示される

 「気軽に使い続けていただけなのに、実は社会にとってもいいことをしている、とほんの少しだけ誇らしい気分になってもらうことをイメージしました。そういう点を重視して設計しようとチームで議論し、出てきたメッセージが『素敵です』でした」(大尾氏)

 気軽に使っているうちに、ほんの少しだけ良いことをしていると感じられる仕組み。Too Good To Goは、その距離感を丁寧に設計しながら、サービスへのエンゲージメントを高めている。

図1:Too Good To Goによる社会課題のCX(体験価値)への翻訳(Too Good To Go JAPAN社の公開情報とインタビュー内容に基づいてニッセイ基礎研究所で整理)
【図1】Too Good To Goによる社会課題のCX(体験価値)への翻訳(Too Good To Go JAPAN社の公開情報とインタビュー内容に基づいてニッセイ基礎研究所で整理)

売れ残りの販売ではない。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの導入例

 Too Good To Goの仕組みを、日本のブランド体験としていち早く取り入れた企業の一社が、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(以下、KKDJ)だ。

 KKDJは、2026年1月末から新宿・渋谷を中心に10店舗でToo Good To Goをテスト導入。2026年3月から、導入店舗を都内全店へ順次拡大してきた。その日の販売状況に応じて6個のドーナツを詰め合わせた「サプライズボックス」を、通常価格の約半額で販売している。

 注目したいのは、KKDJがToo Good To Goで扱う商品を単なる売れ残り販売として扱わず、ブランド体験として位置づけた点である。KKDJの広報担当者である佐々木氏はこう語る。

 「売れ残りを売るというより、Too Good To Goという別チャネルで販売しているという感覚です。売られている商品そのものも、通常の商品と変わりません」(佐々木氏)

 通常販売しているものと同じドーナツを扱っているが、顧客は中身を選べない。販売時間帯やセット数にも制約がある。その代わりに、何が入っているかわからないワクワク感を感じてもらう設計にしているという。

 同社は、自社のブランド理念(スピリット)として「Little Joy(小さな喜び)」を大切にしている。ドーナツを通じて、消費者の日常にちょっとしたご褒美や元気、うれしさを届けるという意味が込められているのだ。箱を開けるまで中身がわからないサプライズボックスは、単なるフードロス削減にとどまらず、ブランドらしい楽しさを伴う顧客接点にもなっていることがわかる。

 その一方で、飲食店や小売にとって値引きをすることは、売れ残ったことを顧客に伝えることにもつながりやすい。価格を下げて売ることで、ブランド毀損への懸念を持つ企業も少なくない。佐々木氏は、導入前の不安について、次のように語る。

 「これまでは、お客様が選んだものを買ってもらうのが基本でしたので、こちらが選んだ商品を入れてサプライズという形で販売するのは、どうなるのかな、と感じていた時もありました。

 しかし、結果として、開けてみてワクワクできる体験は顧客からは受け止められました。当社としても、箱を開けたときの思わず『わぁ!』と声をあげて喜んでいただけるような、わくわくする体験は重要です。シンプルなフードロスだけでなく、ポジティブなイメージが付与できる点が魅力で、ブランドとのマッチも感じられました」

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廃棄コスト削減だけでなく、売上増加&新規顧客の獲得も

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この記事の著者

小口 裕(オグチ ユタカ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 主任研究員

多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。持...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/06/05 08:30 https://markezine.jp/article/detail/50790

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