「一次情報」は組織を動かす最強の武器
MZ:マーケターにとって「気軽に顧客に会いに行く」というのはハードルが高く感じます。
田岡:私も「どうすればいいですか?」と質問されることが本当に多いです。お客様に会いに行く方法やファクトを得るための具体的な手法が、世の中で体系化されていないからだと思います。
でも、SNSでアプローチする、自分たちの売り場や現場に行く、小さな顧客イベントを開催するなど、実は今すぐにできることばかりなのです。一歩を踏み出す勇気があればいい。商品開発やマーケティングに関わっている人の中で、本当にお客様に会っている人はおそらく1割程度ではないでしょうか。まずはその1割に入ることが重要です。
●編集部註:『顧客思考の仕事術』第5章では、顧客に会う方法や重要なスタンス、本音を聞く技術などが具体的に紹介されています。ぜひ、書籍でご確認ください。
MZ:たとえ顧客に会ったとしても、顧客の声を元に社内で提案したことが上司や経営層を動かせずに終わってしまうことになりませんか?
田岡:顧客の一次情報は、時に何よりも強い武器になります。社内の会議で「私はこう思います」と個人の感想や、仮説を言っても否定されるかもしれません。しかし、「お客様は実際にこういう行動をしていました」というファクトは誰にも否定できません。意見や提案、仮説ではなく、「顧客の行動というファクト」を伝えるのです。ファクトが議論を巻き起こし、自分の意見を通すための最も強い情報になります。
買い場で複雑なストーリーは通用しない
MZ:書籍の中で、マーケターは会議室で議論を交わすが、顧客には届かないという話も書かれています。この点も顧客思考で説明できるのでしょうか。
田岡:会議室ではどうしてもロジックを詰め込み、複雑なストーリーを組み立てがちです。しかし顧客が実際に商品を選ぶ場所、つまり「買い場」に足を運んでみると、彼らはたくさんの情報をわざわざ読んで買っているわけではないことがよくわかります。
買い場の顧客は、深く考えて判断する「システム2(熟考)」ではなく、「システム1(直感)」でなんとなく手を伸ばして商品を選んでいることが多いです。マーケターがどれだけ熱を込めて作ったストーリーも、買い場の顧客は見ていません。複雑な情報を極限まで削ぎ落として、極めてシンプルに伝えなければ、情報はそもそも伝わらないのです。
MZ:シンプルに伝える重要性は『カテゴリー戦略』でも強調されていますね。買い場で選ばれるために、マーケターは顧客の何を捉えればいいのでしょうか。
田岡:そこで重要になるのが、私が特に注目している「When(いつ)」の要素です。マーケティングの世界では「カテゴリーエントリーポイント(CEPs)」とも呼ばれますね。たとえばその課題があるのは「朝なのか夜なのか」「自宅なのか旅行先なのか」といった文脈を整理することです。
「Who(誰に)」を絞り込みすぎなくても、Whenの状況を定義すれば、世の中の一定数に共通する潜在的な課題が見えてきます。1人ひとりの生活は違っても、共通する行動パターンや潜在課題は必ず存在します。行動を細かく観察し、その中にある大きな共通項に着目することが重要です。
