事業成長に不可欠な要素を1つ挙げるなら
事業成長に最も重要な要素は何でしょうか?――田岡氏は講演の冒頭、参加者にこう問いかけた。
「あえて1つ挙げるとすれば、WHO(誰に)・WHAT(何の価値を)の勝ち筋を見つけることだと私は考えます。どうしてもHOW(どのように届けるか)から入ってしまいがちですが、誰に・どんな価値を届けるのかが重要です。その中でも“非連続的な事業成長”を達成するために重要なのが、カテゴリーNo.1になることです」(田岡氏)

この主張を裏付けるのは、急成長企業にある共通点だ。GAFAMをはじめとするグローバル最大手から国内スタートアップまで、近年急成長を遂げた企業はほとんどがカテゴリーNo.1になっている。既存のカテゴリーに多数のプレーヤーがいても、自社の独自価値を中心に新しいカテゴリーをつくり、No.1ブランドとなれば、結果として顧客に選ばれる確率は上がる。これがカテゴリー戦略の真髄だ。
「既存のカテゴリーで1番手になれないなら、1番手になれる新しいカテゴリーをつくればいい。成長するカテゴリーでNo.1になれたら、必然的に成長していけます。当たり前のことのように聞こえますが、これがなかなか難しいのです。今日は、カテゴリー戦略の基本と、実践する際のポイントを凝縮してご紹介したいと思います」(田岡氏)
これからますますカテゴリー戦略が重要になっていく?
はじめに、カテゴリー戦略の意義を考えてみたい。たとえば、「掃除機」と言えば、どのブランド(企業)を思い浮かべるだろうか? 日立やダイソンを思い浮かべた方もいるかもしれない。では、「ロボット掃除機」だとどうだろうか? 恐らく、ほとんどの人が「ルンバ」を思い浮かべたはずだ。
同様に、「アルバイトするなら?」という問いには様々なサイトを思い浮かべるだろうが、「スキマバイトするなら?」と聞かれると「タイミー」を思い浮かべる人が多いだろう。このように、カテゴリーが変わるだけで、消費者の脳内での想起は大きく変わってくる。
「ブランドの成長には、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティが重要だと言われています。メンタルアベイラビリティは想起のこと、つまり心の近さのようなものです。フィジカルアベイラビリティは、配架率や顧客接点、つまり物理的に買いに行きやすいこと。カテゴリーでNo.1になることは、結果としてこの両方に効くと考えています」(田岡氏)
人間社会の多様化、テクノロジーの進歩が相まって社会は多方面で変化しており、新しいカテゴリーが生まれては、浸透しやすくなっている。変化の激しい時代だからこそ、カテゴリー戦略の重要性は今後ますます高まっていくだろうと田岡氏は主張する。

「VUCAやAI時代、変化が加速する中で重要なのは、既存カテゴリー内でのシェアの奪い合いではなく、顧客視点で新しいカテゴリーを生み出す、もしくはカテゴリーを拡大することで、No.1ブランドとして成長していくことだと考えます。これは競合同士の争いを避け、事業成長を実現することにも繋がります。そして、この姿勢は、成長が鈍化している大手企業のコア事業にこそ問われていると考えます」(田岡氏)