実践!GTM DMIモデル
─ CMO不在でも総力戦はできる。“戦略の共通言語化”で組織間分断を解消する「GTM DMIモデル」とは
─ 進出する市場=勝てる土俵をどう見極める? GTM戦略における「順番」と「つながり」の重要性
─ 売れないのは「知られていないから」ではない。大企業が新市場開拓で陥る罠と「顧客理解」の重要性(本記事)
顧客のことを知っているか? また顧客は自社を知っているか?
DMIのGTMモデルでは、顧客企業自体の解像度と顧客企業とのストーリーの精度を上げるためのBuyer & Valueレイヤーを、(1)Unique Selling Proposition:顧客が自社を選ぶ理由、(2)Buyer Pain and offering:顧客課題と自社の提案、(3)Decision Making Process & Buying center:購買意思決定プロセスと購買関与者という3つの要素によって構成しています。

それぞれの構成要素は、右から以下となります。
(1)Decision Making Process & Buying center:購買意思決定プロセスと購買関与者
自社商品・サービスを、ターゲットとなるアカウント(企業、部門)が購買する際に、誰が起案し、どのような関係者の承認を経て決裁されるのか、購買関与者と購買意思決定プロセスを明確化する。
(2)Buyer Pain and offering:顧客課題と自社の提案
顧客の経営課題やビジネスペインと、自社の強みを結びつける。「バリュープロポジションキャンバス(VPC)」などのフレームワークを用いて整理・言語化する。「顧客にとって重要な経営課題は何なのか?」と「自社の強みは何なのか?」をつなぎ、「なぜ顧客の経営課題を解決するパートナーが自社であるべきなのか?」というストーリーを言語化することが重要と言える。特に、自社のソリューションが既存(競合)のソリューションよりも技術的に弱い場合は、競合とは異なり、かつ説得力のあるストーリーを作る。
(3)Unique Selling Proposition:顧客が自社を選ぶ理由
自社商品・サービスがなぜユニーク(独自性、差別化ポイントがある)なのか、どんな要素がユニークにしているのか、そのユニークさは顧客にどのような便益を提供することにつながるのかを明確にし、この3つをつなげて、ストーリーとして伝えられるよう言語化する。
売れないのは「知られていないから」ではない
それぞれの構成要素に共通するのが、「顧客企業自体の解像度と顧客企業とのストーリーの精度」です。この一見当たり前のことが非常に重要なのですが、実務の現場ではなかなか整合性を持って整理されないのです。
GTMとはGo to Marketの略称であり、「新製品導入」や「新規市場の開拓」の際に使われるものです。つまり、【自社が顧客企業をあまり知らない】か【顧客企業が自社を知らない】か、もしくは【その両方】だという前提に立って考える必要があります。これはどんな大企業であっても、大きなシェアを保持している業種、製品以外で新規のビジネスを行う場合には同様です。
特に、本業の領域で誰もが知る自社の事業を確立している大企業においては、無意識に「自社および自社の製品は必要とされている」「自社は信頼に足る企業」だという自己評価が根付いており、GTMを必要とする領域への進出においても「落とし穴」として存在することが多いという意識する必要があります。
15年以上におけるマーケティングコンサルタントとしての経験の中でも、大企業の新規事業を支援する際に、「弊社の製品は優れており、顧客企業や市場に『知られていない』ことが理由で売れない」という認識を少なからず耳にしました。しかし、残念ながらほとんどの場合、顧客企業は「知っていても買わない」というのが実情です。「皆さんの会社は知っているブランドのものは全部購買していますか?」という質問をされれば想像に難くないでしょう。
そのため、次に述べるような、新しい業界、顧客企業の解像度をあげていくこと、その実情に合った製品、ビジネスを開発していくというステップが非常に重要になります。