D2C偏重戦略の転換、なぜNIKEはAmazonに「出戻った」のか
2019年にAmazonから撤退し自社D2Cを志向していたはずのNIKEが、方針を転換し、Amazonでの販売を再開すると発表した。前回のWarby ParkerのD2C転換事例に続き、この動きは単なるD2C戦略の転換やリテーラー回帰にとどまらない。テクノロジーが進化し、「ブランド/ユーザー/リテーラー」の3者による共通基盤から新たな事業構造が生まれつつあることを意味している。
2019年当時、NIKEはAmazon上での偽造品・非正規販売業者の蔓延を問題視していた。これを指摘するも解消されず、自社での顧客接点強化とブランド管理を目的に、Amazonからの撤退を決断した。
リテーラーに依存しないNIKEのD2C偏重戦略は、中間業者を介さず、顧客データを直接収集することで、利益率を高められる――巨大ブランドの大きな波と解釈された。
しかし、裏側の見えざる代償として、顧客獲得コスト(CAC)の高騰があった。自社ブランドによるD2Cオンライン特化型(いわゆる囲い込み)の事業モデルは、対象となる顧客層がニッチすぎる(スケールしない)傾向にあり、「より高単価で、効果の低い広告」に依存せざるを得なくなる。さらに、リテンション(継続率)も低く、持続可能なビジネスモデルとは言い難い状況が続く。
結果として、売上も継続的に減少し、NIKEの現在の企業価値はピーク時の約3分の1まで低下。2019年の水準さえも下回ってしまった。
この代償は、P/L上だけの影響にとどまらない。膨大な商品の自社物流コスト、対応フルフィルメント機能の実装といったB/S投資こそが、想定以上に大きな負担であったこともリテーラー(Amazonなど)への回帰を進めた背景にある。