AIペルソナは「顧客の再現」ではなく「壁打ち相手」として活用
Seeのステップでもう1つ日ノ澤氏が紹介したのが、AIペルソナの活用だ。従来のペルソナは「作って終わり」になりがちだったが、AIにユーザー属性・UGCコメント・調査データを読み込ませてペルソナを生成すれば、そのペルソナに直接問いかけられるようになる。日ノ澤氏はこれを「顧客の再現」ではなく「企業側の仮説と顧客の現実のズレに気づくための壁打ち相手」として活用しているそうだ。
ケーススタディとして紹介されたのは、シニア向け高価格帯電動アシスト自転車のマーケティング事例。
企業側は「大容量バッテリーで充電の手間を省けば、顧客は安心するはずだ」という仮説を立て、「坂道も楽々、パワフルなモーター」というコピーで訴求しているが、見込み顧客の反応が鈍い。そこでAIペルソナに質問してみることに。すると、返ってきた回答は、企業の仮説とは全く異なるものだった。
AIペルソナへの問い
以下のペルソナになりきって、顧客の本音を回答してください。
【ペルソナ設定】64歳男性、定年後も週2~3日パート勤務・膝に不安、バスや電車の乗り換えがつらくなってきた・妻に勧められているが、重い機器を扱う体力が続くか不安
【質問】電動アシスト自転車を日常的に使うとしたら、どのような不安がありますか。実際の生活場面を想像して答えてください。
※「大容量バッテリーをどう訴求するか」という企業課題を聞くのではなく、「日常で使うときに何が不安か」と顧客の生活場面から聞くことがポイント
AIペルソナの回答
「坂道が楽になるのは確かに魅力ですね…でも、正直に言うと、まず車体が重そうで。押して歩くときや、駐輪場での取り回しはどうなんでしょう。バッテリーが大容量なのはいいんですが、そのぶん重くなるんじゃないですか?充電のとき、バッテリーを外して部屋に持ち込む必要があるって聞いたことがあって。それが毎回できるかどうか…。転んだときのことを考えると怖くて。年齢的に骨折でもしたら大変ですから。安全面はどうなんでしょうね」
企業が提供しようとしていたのは「スペック(大容量バッテリー・パワーモーター)による安心」。しかし顧客が直面していたのは「30kgの車体を毎日出し入れできるか、万が一倒れた時に一人で起こせるか」という加齢に伴う体力的な現実の不安だったというわけだ。戦略を考える中で、無意識のうちに「自社の強みであるバッテリー容量(スペック)」にフォーカスし、顧客のリアルな課題やニーズからズレが生じてしまっていたことがわかる。
「AIを使って、顧客の現実を多面的に観察し、解くべき問いを見定める。これがSeeのステップです」(日ノ澤氏)
Seeのポイントまとめ
- 声を発さない顧客にも目を向ける(アンケートは氷山の一角)
- AIで「無言の文脈」を可視化する(Web上の公開データを自動収集・構造化し、感情推移のトレンドから新インサイトを得る)
- 企業の仮説と顧客の現実のズレに気づく(AIという鏡が、企業と顧客の認識ギャップを客観化する)
Select:「勝てる場面」を絞り込む、押さえておきたいCEPの考え方
Seeで顧客の違和感を観察した後は、Selectで競合や市場の構造を読み解く。AIとの壁打ちで、競合の表面的な施策の裏にある仕組みや制約を分解し、自社が勝てる可能性のある領域を探っていく(Selectについては下の記事を参照)。
そのうえでSelectでは、今回の施策でどの場面に集中するかを絞り込んでいく。ただし、この「絞る」という考え方には、陥りやすいパターンが2つある。
1つ目は「総花戦略」。フィットネスジムの例で言えば、ダイエットにも筋トレにもストレス解消にも美容にも効くと全部伝えようとすると「どんなジムかわからない」という印象の弱さを招く。2つ目は「一点突破思考」だ。強いポジションを1つでも取れば勝てるだろうと貫くと、たしかに強く刺さるが対象が狭くなりすぎる可能性がある。
「重要なのは、広さと深さの両立。広く思い出され、勝てる場面で強く結びつくことが重要です」(日ノ澤氏)
この両立を実現する上でキーとなるのが、CEP(カテゴリーエントリーポイント)の概念だ。CEPとは、顧客が商品カテゴリーやブランドを思い出す「きっかけとなる場面」のこと。フィットネスジムの例では、「夏前に体を絞りたい」「健康診断が気になる」「在宅勤務で体が重い」「ストレスを発散したい」といった生活場面がそれにあたる。
「広告をどこに出すかを考える前に、『どんな時に思い出されたいか』を決めることが重要です。ブランドは思い出されなければ比較の土俵にすら乗れません」(日ノ澤氏)

たとえば健康診断で数字が悪かった人が「健康には運動が必要」と思い、「続けやすいジムを考えてみよう」となったとき、そこで第1・第2想起に入るブランドは選ばれる確率が大きく高まる。つまり、「“何らかの生活場面に紐づいて”想起される」ことが、比較検討に乗るための必須条件となるわけだ。
