デザインとは「意匠」ではなく設計・企画である
杉山氏がこの10年テーマにしてきたのが「経営にデザインは必要なのか」という問いである。ただし、デザインという言葉は誤解されやすいと指摘する。

「デザインは日本語で最初に『意匠』と訳されました。そのため『見栄えを良くするものだ』と、今でも狭く捉えられがちです。最近は『デザイン経営』という言葉もよく耳にしますが、経営者からは『美大を出ていなくて大丈夫ですか?』と聞かれます。でもデザインの本来の意味は、設計すること、企画することです。決して色をつけたり線を引いたりすることだけではないのです」(杉山氏)
杉山氏が率いるライトパブリシティは、銀座で76年目を迎える老舗であり、日本の「デザインの聖地」とも言われる最先端のデザインファームだ。コピーもテレビCMもすべてデザインから生まれるという確固たる理念を持ち、社会や企業の問題をデザインの力で解決し続けてきた。同社にはコピーライターの草分けである秋山晶氏が今も在籍しており、杉山氏もまた現役として最前線でクリエイティブを支えている。
杉山氏自身のルーツとして、1964年の東京オリンピックのポスターがある。当時16歳だった杉山氏は、オリンピック史上初めて写真を使ったこのポスターを見て衝撃を受け、クリエイティブの道を志したという。視覚のメディアが持っていた最先端の力に触れたことが、現在の「意味の設計」へとつながる原体験となったのだ。
「意味のデザイン」が導く新たなブランド価値
杉山氏は自身の仕事を「価値の再定義」と「意味のデザイン」と呼ぶ。対象にどんな意味を持たせるかを設計・企画するという、デザイン本来の役割を一歩進めた考え方だ。
その具体例として、直近の仕事が紹介された。一つは、ぴあの企業ステートメント「Life is Pure」だ。情報誌からチケッティングサービスへと変化した同社において改めて原点回帰を図るため、「ぴあがないと、笑えない」「ぴあがないと、泣けない」といった、人間の純粋な感情や行動とブランドの結びつきを言葉でデザインした。
また、2025年12月に行われた「ポーラ ギンザ」の新サロンリニューアルオープンでは空間デザインに携わった。設計デザインは建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した妹島和世氏に依頼。不安定で動いているように見える様が特徴的な「七角形」を有機的な植物を連想させるシンボルとして用い、「新しい自分に出会うフローラの森」というコンセプトをあえて有機的な植物を一切使わずに「森」を作る試みで、銀座の新しいシグネチャーとなる空間をディレクションした。
さらに地方創生の事例として、北海道東川町のふるさと納税の新聞広告がある。2025年12月に掲載されたこの広告では、「写真の町」として独自の文化を育む東川町を、特産品ではなくエゾフクロウの視点から描いた。
「普通、ふるさと納税というと、自慢のお米や野菜を見せるものです。でもこの広告では、アイヌの神様であるフクロウがこの街を見ている。『どうして、この町は、ニンゲンがニンゲンらしいんだろう。』と、フクロウの視点から語りました。これが、私の言葉でいう『意味のデザイン』です」(杉山氏)
何を売るかではなく、どんな意味を持たせるか。杉山氏のデザイン観が成果に表れた例である。
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