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MarkeZine Day 2026 Autumn

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

「優しさ」を「仕組み」に、SmartHRに学ぶ“誰もが使えるサービス”の作り方

「してあげる」の罠、SmartHRが仕組みにこだわる理由

白石:坂巻さんもおっしゃるとおり、DE&Iに関する取り組みでは「当事者視点」が極めて重要です。御社には日本語を母国語としない社員や、障害を持つ社員の方も積極的に採用されていますよね。そうした社内のメンバーをどのように巻き込んで「やさしい日本語」の設計を進めていかれたのでしょうか?

坂巻:社内のメンバーをヒアリング対象ではなく、最初から「一緒に作るメンバー」として巻き込むことを意識しました。たとえば、「外国人」と一口に言っても、漢字圏と英語圏、ポルトガル語圏出身の方とでは、日本語に対する難しさのポイントがまったく異なります。また、子供の頃から日本に住んで高校時代にアルバイト経験があるのか、大学から来日したのかといった「働く上での経験や文化的理解の差」も個人差が非常に大きいです。だからこそ、多様なバックグラウンドを持つメンバーと徹底的に議論しながら実装していく必要があると考えました。

白石:実は今回の取材で一番フォーカスしたいと思っていたのが、御社の指針である「仕組みで解決できることを、優しさで解決しない」という考え方です。「やさしい日本語」も名前こそやさしいと付いていますが、「優しさ」という感情の問題ではなく、仕組みとしてコミュニケーションを設計するものなのだと感じています。

坂巻:この方針は、社内の外国人や障害者のメンバーが日々感じるリアルな課題から生まれています。彼らは「気を遣ってあげなければいけない存在」として扱われることに不快感を抱いていたり、「優しくしてあげているのにどうして断るの?」といった望まない親切の押し付けに悩まされたりしていました。

 たとえば、視覚障害の人に対して「大変だろうからオンライン参加でいいよ」と勝手に対面から排除してしまうこと。あるいは、車椅子のメンバーがいるから「会社に集まるのは大変だし、やめようか」と決めてしまうことは日常の光景です。ある属性に対して「優しくしてあげよう」と考えた時点で、そこには「してあげる側」と「される側」という上下関係が生まれ、その構造が固定化されてしまいます

 日々の人間関係の中で親切にすることは大切ですが、サービスとして「優しくしてあげています」という姿勢は絶対に取りたくない、という強い思いを私たちは持っています。サービス提供者として、当たり前の「責任」として取り組むのです。

 たとえば、最初からオフィスに点字がついている、バリアフリーであるといった「環境や仕組み」さえ整っていれば、そもそも気遣い自体が不要になりますよね。これが「社会モデル」的な考え方です。プロダクトを使う中で生じる難しさを、優しさではなく仕組みで減らしていく。翻訳としての「やさしい日本語」も、そのスタンスで当たり前に使えるように設計しています。

目が見えない男性が自動販売機の点字があることで自分でメニューを選べている様子
たとえば、自動販売機に点字があれば、自分で、その日の気分でメニューを選べるようになる(『職場に必要なのは、あなたのやさしさです?』より)

 また、「やさしい日本語」は仕組みとして、もう1つ期待する機能があります。得意な言語が違う人同士のコミュニケーションの媒介としての機能です。たとえば、外国人従業員の方が日本語ネイティブの社内担当者に質問する際、母語に設定した画面を「ここがわからない」と見せても、日本語ネイティブ側には「何がわからないのか」が伝わりません。しかし、間に「やさしい日本語」の画面を挟むことで、双方が理解しやすくなります。

新卒・高齢者から反響も、ユーザー負荷を下げる効果

白石:給与明細の閲覧や記入など、まさに生活や権利に直結する人事労務の領域だからこそ、構造的に「誰もが困らないライン」を仕組みで保証してあげる意義は非常に大きいですね。実際に導入した後のユーザーの反応はいかがでしたか?

坂巻:当初は、日本語ネイティブな人にとっても難解で手続きが大変な「年末調整」の課題解消を一番のメインとして見据えていました。しかし、実際にリリースした後に良いフィードバックを多くいただいたのは、「入社手続き」の場面でした。

 入社される方はまだ会社との関係性が薄く、担当者に助けを求めづらい心理状況にあります。また、企業側も多くの入社手続きを管理するため、負担が非常に大きいという課題がありました。企業によっては数百、数千人の対応をするので、1人ひとりへの手厚いケアは難しいものです。

 また、外国人だけでなく就労経験が無い新卒入社の方や、普段デスクワークをしておらずデジタルに不慣れな分野の方、高齢のパートの方からも多くの反響がありました。入社手続きでは「なぜ自分の名前や生年月日といった大事な情報をこんなにたくさん入力しなければいけないのか」といった心理的負荷を感じやすいのですが、「やさしい日本語」の画面にすることで、そのストレスや心理的負荷が大幅に軽減されることが見えてきました。

白石:私の母親も70代で現在も仕事をしているのですが、まさにスマホの画面で登録作業をする際に「どうすればいいの」と苦戦している姿を見かけます。そうした層にとって、心理的・物理的ストレスを減らす「やさしい日本語」は効果的に機能していると感じます。

 もう1つ気になるのが、多言語対応や「やさしい日本語」の機能を、御社は無償で提供されていますよね。ビジネス的な観点から、この決断に至った理由をお聞かせいただけますか?

坂巻:ビジネス的な決定として結論を言えば、無料にしてもマイナスにはならない試算があったからというのが理由の1つです。当社のサービスは企業単位での提供で、従業員数や利用機能に応じて料金が変動するビジネスモデルです。多言語の需要があるお客様は企業規模を問わず広がっており、既に他の共通部分でSmartHRをしっかり使ってくださっていました。そのため、「追加料金なしでみんな使えますよ」と、標準的に提供することに価値があると考えました。

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効率の追求だけじゃない、「選択肢を奪わない」視点を

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/07/30 08:00 https://markezine.jp/article/detail/77067

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