役職者が飢える「戦略の種」は、現場にしか落ちていない
「役職者を巻き込む」と一言で言われても、そもそも役職者の懐にどう入り込めばいいのか、最初のハードルに感じる方も多いでしょう。
ここで知っておいていただきたいのは、役職者というのは、実は「戦略の種」が慢性的に不足しているという事実です。新任であれば、何をすればよいかわからない。長年在籍していても、マンネリ化して八方ふさがりになる。「なんかネタない?」が役職者の口癖であり、誰もがひそかにこの悩みを抱えています。
一方、現場の皆さんは、日々の実務から「戦略の種」を見つけやすい立場にあります。顧客と接して気づく違和感、他部署と調整して見えてくる構造的な課題、営業やコールセンターに寄せられる生々しい声。これらはいずれも、現場にしか落ちていない一次情報です。役職者は現場から遠ざかっているぶん、この一次情報を喉から手が出るほど欲しています。ここに大きな非対称性があります。なおかつ、この状態につけ込んでいるのが、実は外部のベンダーです。
広告代理店やSaaSベンダーは、自社の商材を売るのに都合のよい「戦略の種」を、困っている役職者に植えつけていきます。役職者は自分で判断する材料を持たないため、それを鵜呑みにして経営会議に上げてしまいます。
これはビジネスモデルの問題なので、ベンダーを責めても仕方がないのですが、結果として現場には「なんでこんな筋の悪い施策をやるんだ」というプロジェクトが降ってきます。全員が心のなかで「これ違うよね」と思いながら、走り続けるハメになるわけです。
だからこそ、現場のマーケターがそのポジションを奪いに行くべきだと私は考えています。ベンダーに不本意な戦略の種を植えられる前に、現場のあなたが本当にまきたい種を届けてしまえばよいのです。それを役職者に、全社が従う正当な旗印である「錦の御旗」として掲げてもらう。
経営会議で合意され、全社共通の方針として宣言されれば、以降の社内調整は劇的にやりやすくなります。旗を掲げるのは偉い人でも、その絵柄を描いているのは現場のあなた、という状態を作るわけです。
「冒険者」と「サポーター」、どちらを目指すか
「戦略の種を持って役職者に届ける」ポジションに立てる人には、大きく2つのタイプがあります。「冒険者」と「サポーター」です。
「冒険者」は、自分の担当領域を超えた「外の現場」に首を突っ込んでいくタイプの人です。自分が評価されない仕事でも、嬉々として「YES」と言ってしまう。表面上は面倒そうにしていても、飛びつかずにはいられない。こうした人ほど、「戦略の種」を集めるのが得意です。
私が知っているある鉄道会社の方のエピソードをご紹介しましょう。その方はマーケ担当なのに、誰にも頼まれていない富裕層向けのインバウンドツアーのアテンドを、自ら手を挙げてやっていました。上司からは「何やってんの?」と呆れられ、本業の売上には直結せず、評価もされない。周りから見れば「あの人、なんで余計な仕事引き受けてるの?」という状態です。
ところが数年後、コロナ禍で鉄道需要が落ち込んだ際に、その方が試みていた「富裕層向け車両」の仕組みが経営戦略に組み込まれることになりました。誰も予測していなかった非常事態のときに、スポットライトが当たったのです。こうした「無駄」に見える仕事にどれだけ手を出せるかが、後の戦略の種の総量を決めるとも言えます。
とはいえ、誰もが冒険者になれるわけではありません。冒険者タイプでない方には、「サポーター」になる道があります。冒険者タイプの人は、仕事を食い散らかしたままになりがちなので、そこを後始末するだけでも戦略に関われる立場になっていきます。業務の10%でもサポートできれば十分です。
「議事録は私がまとめておきます」「関係部署への根回しは巻き取ります」——こういう地味な役割を引き受ける人こそが、実は組織のなかで一番情報が集まる立場になっていきます。冒険者と組んで動いていれば戦略の種も自然に耳に入ってきますし、役職者からの信頼も着実に蓄積されていきます。
冒険者もサポーターも、共通しているのは「自分の評価に直結しない仕事に踏み込む」という姿勢です。自分の担当領域だけを守っている人には、戦略の種は絶対に集まってきません。なぜなら種というのは、業務の隙間、担当と担当のあいだ、あるいは「これ誰の仕事?」という宙に浮いた領域にしか落ちていないからです。
逆に言えば、担当外に首を突っ込む勇気さえあれば、役職者に種を届ける立場に自然と立てます。これは能力の問題ではなく、スタンスの問題です。「自分の仕事はこれ」と線を引かないマインドさえあれば、誰でも冒険者にもサポーターにもなれます。
