データを見る前に「自分なりの答え」を持つ
論点が整理できたら、次は仮説を立てます。
「データを見てから考えればいい」と思う方もいるかもしれません。しかし、仮説なしにデータを眺めていると、人は目についた特徴にとらわれ、本来確認すべき問いから離れていきます。これが、よく言われる「データの海で溺れる」状態です。
仮説はその時点では証明できなくて構いません。「おそらくこうではないか」という見立てを持つことで、確認すべき指標と比較軸が自然と決まってきます。引き続き、優良顧客の離脱を例に考えましょう。
まずは実態の確認
実態確認の問いに対しては、まずこんな仮説を置きます。
「優良顧客の来店頻度は低下しているが、客単価は維持されているのではないか」
頻度と客単価を切り分けて仮説を立てることで、「全体的に離れているのか、それとも来店回数は減っても一度の購買は変わっていないのか」という視点が生まれます。これだけでも、確認すべき指標が格段に絞られます。
実態から原因究明へ
データを確認したところ、この仮説が支持されたとしましょう。来店頻度は落ちているが、来店したときの客単価は変わっていない。つまり、「来たときにはこれまで通り買っている」ということは、来店した際の購入量は特に変わらず、「来店機会そのものが失われている」と考えるのが自然です。
では、来店機会はどこへ消えたのか。ここで考えられるのは、たとえば下記の2つです。
- 需要自体が減った:ライフステージや生活様式の変化により、そもそも買う必要が減った
- 需要はあるが、他店で満たされている:買う必要はあるが、その買い物が自社ではない店で行われている(=競合へのスイッチ)
需要自体が減ったのであれば、そもそも取り戻す市場が存在しないため打ち手は限られます。一方、競合スイッチが起きていた場合、需要は依然として存在しており、取り返せる可能性があります。打ち手につながるかどうかという観点から、まずは後者を検証したいと考えます。
そこで「競合にスイッチしているのではないか」という仮説を立てるのですが、これだけではまだデータで確認できません。「もし競合にスイッチしているなら、購買データ上に何が現れるか」を考え、データで観測可能な形に翻訳する必要があります。
- 来店の間隔:他店に流れているなら、その分だけ自社への来店間隔が空くはずです。ただし優良顧客のペースは一様ではなく、週1回の人もいれば2週に1回の人もいます。そのため「現在2週間以上空いている顧客」を一律に抜き出すのではなく、その顧客の来店間隔が以前より延びているかという変化を見ます
- 買われなくなったカテゴリ:すべてのカテゴリが一様に流出するのではなく、競合が強いカテゴリから抜けていくはずです。今回の例では競合A社が健康・美容カテゴリに注力し店舗数を増やしている状況だとすると、まず健康・美容カテゴリでの購入減少が現れると考えられます
こうして期間やカテゴリを具体化したのが、次の仮説です。
「来店間隔が以前の2倍以上に延びた優良顧客ほど、健康・美容カテゴリの購入が減っており、競合チェーンへスイッチしているのではないか」
ここまで来ると、「何のデータを」「どう集計すれば」確認できるかが具体的に見えてきます。
AIを活用した論点・仮説の整理
基本的な論点・仮説の立て方を説明してきました。では、AIを活用しながら論点・仮説を組み立てるにはどうすればいいでしょうか?ここからは、そのコツをお伝えします。
AIに投げるために、ここまで説明したような論点と仮説を事前に完璧に整理しておく必要はありません。「優良顧客の来店頻度が落ちている気がする。どんな論点で分析すべきか」という程度の状況説明から始めて構いません。AIを壁打ち相手にしながら、頭の中を整理し、論点と仮説をAIと一緒に育てていくイメージです。
たとえば、ビジネス状況を簡単に説明した上で「考えられる論点と仮説を整理し、ビジネスインパクトと検証可能性の2軸で優先度を評価してほしい」とAIに投げると、次のような形で出力してくれます。
| 論点 | 仮説 | ビジネスインパクト | 検証可能性 | 優先度 |
|---|---|---|---|---|
| 優良顧客の人数はどう変化しているか | 離脱しているのは特定セグメント(年代・エリア等)に限られているのではないか | 高 | 高 | 高 |
| 全体的に優良顧客数が減少しているのではないか | 高 | 高 | 高 | |
| 来店頻度はどう変化しているか | 全体的に来店頻度が低下しているのではないか | 高 | 高 | 高 |
| 頻度低下は特定の時期から始まっているのではないか | 中 | 高 | 中 | |
| 客単価はどう変化しているか | 頻度は落ちていても客単価は維持されているのではないか | 中 | 高 | 中 |
| 客単価も頻度と連動して低下しているのではないか | 高 | 高 | 高 |
なお、ここでいう2軸はそれぞれ次の意味で使っています。
- ビジネスインパクト:その仮説の検証結果によって、打ち手や次の分析の方向性がどれだけ変わるか。「正しいと分かっても、間違っていると分かっても、やることが変わらない」仮説は、インパクトが低いとする
- 検証可能性:手元のデータで、その仮説をどこまで確認できるか
たとえば「離脱しているのは特定セグメントに限られているのではないか」という仮説は、実態を確認するだけの問いに見えますが、ビジネスインパクトは高くなります。全体的な離脱なのか一部セグメントの離脱なのかによって、この後に掘るべき論点も、最終的な打ち手の規模もまったく変わってくるからです。
実態確認の論点・仮説が固まったら、次は原因究明です。ただし、原因究明の論点は実態確認の結果によって変わります。先ほどの例のように「来店頻度は落ちているが、客単価は維持されている」という事実が確認できたのであれば、その事実をAIに伝えた上で、改めて論点を出してもらいます。
| 論点 | 仮説 | ビジネスインパクト | 検証可能性 | 優先度 |
|---|---|---|---|---|
| 購買カテゴリはどう変化しているか | 健康・美容カテゴリの購入が減っているのではないか | 高 | 高 | 高 |
| 定期購入していたカテゴリの購入が途絶えているのではないか | 高 | 高 | 高 | |
| 購入カテゴリ数自体が減り、買い回り行動が縮小しているのではないか | 中 | 高 | 中 | |
| 競合チェーンへの流出はあるか | 来店間隔が以前より延びた顧客ほど競合チェーンへスイッチしているのではないか | 高 | 中 | 中 |
| 近隣への競合出店タイミングと離脱タイミングが一致しているのではないか | 高 | 中 | 中 | |
| 競合のポイントプログラム改定後に離脱が加速しているのではないか | 中 | 低 | 低 |
これらの出力を叩き台に、「自社では競合出店の情報が手元にないから検証可能性は低い」「このカテゴリは戦略的に縮小中なので優先度を下げる」といった背景事情をプロンプトで追加しながら整理していきます。AIが発散的に提示してくれた選択肢を人間がブラッシュアップし、それを往復しながら今本当に必要なものへ絞り込んでいく。この繰り返しこそが、壁打ちの本質です。
とはいえ、この壁打ちがうまく機能するかどうかは、AIへの情報の渡し方に大きく左右されます。
