「インサイトに正解はない」の誤解と、マーケターが持つべき思考プロセス
MZ:次に、インサイトの定義やよくある誤解について教えていただけますか。
大松:「人を動かす無自覚な欲求」というインサイトの概念的な定義は浸透してきたと感じています。ただ、まだ誤解されているのは「インサイトには正解がない」という意見ですね。実際は、そのようなことはありません。
インサイトはあくまで手段であり、目的ではありません。インサイトを探す目的は、発見したインサイトを通して新たな価値を提示し、具体的なアイデアに落とし込んで実行し、顧客に価値を提供して対価をいただくことです。ですから、インサイトから具体的なアイデアが得られなければ意味がありません。
アイデアの評価軸としては、「新奇性(これまでにない新しい価値を感じるか)」と「購入意向または使用意向(買ってみたい・使ってみたいと思うか)」の2軸で、右上の象限に位置するアイデアを導き出せるものこそが、真にインサイトと呼べるものです。そうではない、無意味なものをインサイトと呼ぶべきではありません。
大松:正解のインサイトが複数存在するのは事実ですが、「正解はない」というのは間違いです。具体的なアイデアに落とし込み、顧客評価を通じて正しいか否かを判断すべきなのです。インサイトの定義「人を動かす無自覚な欲求」の「動かす」の言葉には、具体的なアイデアがともなってこそ価値があるという意味が込められています。
MZ:発見できたニーズや欲求のすべてがインサイトとは限らないわけですね。
大松:「インサイトワーク」を延々と行い、「インサイトがわかった、勉強になった」と満足しただけで、具体策につながっていないケースは少なくありません。
また、一見抽象化して深掘りする工程を省いたほうが早く答えが出せるように見えますが、顧客に刺さらない商品や施策を何度もやり直すより、最初にしっかり抽象を捉えるほうが、結果的に効率がいいといえます。マーケターは、「具体→抽象→具体」という思考プロセスのトレーニングを行うことが重要です。
BtoB領域でも不可欠なインサイト
MZ:インサイトというと「BtoC向けの話」と思われるかもしれませんが、BtoB企業においても同様に活用できるのでしょうか。
大松:BtoBマーケティングにおいても同じく重要な考え方です。顧客が存在する以上、インサイトを捉える必要があります。ただしBtoBの場合、捉えるべき対象が複数・多面的になる点が特徴です。
たとえば医療用薬品メーカーの場合、営業先は医師や病院ですが、実際に薬を飲むのは患者です。そのため「医師がどのような治療を行いたいか」「患者が治療に対してどんな未充足欲求を抱いているか」という、両面のインサイトを捉える必要があります。
自動車部品メーカーの例で考えても同様です。納入先は完成車メーカーですが、エンドユーザーのインサイトを部品メーカー自身が調査・理解し、完成車メーカーと一緒にエンドユーザーの未充足欲求に応える取り組みが必要となります。つまり、BtoBではステークホルダー全体のインサイト理解が求められます。
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