仮想空間でAI同士が議論する「CX AI STUDIO」のアプローチ
このように意思決定構造を踏まえた新しい顧客理解が必要であるものの、従来のアプローチには限界があった。既存顧客へのアンケートやトップセールスへのヒアリング、業界専門家への定性調査などからファクトを集めても、各々の情報はどうしても分断される。そのため、顧客理解はマーケターの仮説の域を出ないことが多いのが実情だ。
この属人的なアプローチから脱却すべく、博報堂が開発・提供しているソリューションが「CX AI STUDIO」である。これは、同社が長年培ってきた「人を理解しAIで再現する技術」を、BtoB領域へと応用・拡張させた仕組みだ。
博報堂は、「何を買ったのか」という行動データや購買データだけでなく、「なぜそうするのか」という生活者の価値観や環境意識、消費意識に関する意識深耕データを、数十年にわたり蓄積してきた。この豊富なデータと独自のプロンプト技術を組み合わせることで、単なる一般的な情報にとどまらない、心理的な迷いや葛藤、本音を持ったリアリティのある人間像をAI上に再現することができる。
「CX AI STUDIO」は、こうしたノウハウを活用し、多様なステークホルダーを独自データからAIで再現。これまでアクセスが難しかったステークホルダーまで解き明かし、仮想空間での議論を通じて深い顧客理解と一貫性のある顧客体験の創造までを支援するアプローチである。
「CX AI STUDIO」のワークフローでは、まずターゲット企業の決裁ルートの構造(誰が起案し、どこが壁となり、誰が最終決裁するのか)を特定し、最適な「バーチャルチーム」を仮想空間上に組成する。「バーチャル未顧客ユーザー」「バーチャル未顧客選定者」「バーチャル未顧客決裁者」といった顧客側のステークホルダーに加え、自社側の「バーチャルトップセールス」や「バーチャル業界専門家」を仮想空間に呼び出し、AI同士に自律的な議論を行わせるのが最大の特徴だ。
この仮想の議論空間で「バーチャルマーケター」が議論をファシリテート・分析することで、通常のインタビューでは引き出しにくい本音やインサイトを抽出し、顧客分析結果やマーケティング戦略、個別具体的な施策内容までを一貫したレポートとして出力することが可能となる。
汎用LLMと一線を画す「5つの独自データ基盤」
AIを活用した業務効率化が叫ばれる中、汎用的な大規模言語モデル(LLM)を利用するマーケターも増えている。しかし、入江氏は、「CX AI STUDIO」がこれらの汎用LLMとは異なるアプローチをとっている点を説明する。
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リアルさ(専門家の暗黙知)
汎用LLMが主にWeb上の公開情報を学習データとしているのに対し、「CX AI STUDIO」は各業界・業種への専門家調査がベースとなっており、膨大な「専門家の暗黙知」を取得・学習している。 -
奥深さ(異なる視点での議論)
単一のAIとのやり取りに留まらず、異なる視点を持つバーチャル顧客や社員同士が対話・議論する中で、課題の深掘りや新たな発見の導出を可能にしている。 -
手軽さ(ワンストップ出力)
汎用LLMで実務に活用できるレポートを出すには高度なプロンプト設計技術が求められるが、「CX AI STUDIO」は情報収集から仮説構築、見立てまでワンストップで完結し、体系的で高品質なレポートを出力できる。
「CX AI STUDIO」は、その裏側に特定の業務や意思決定に特化した独自データを内包している。基盤となるのが、以下の5つの独自データ群だ。
- プロフェッショナルの暗黙知データ:約1,000人の業界・業種専門家の思考プロセスを学習。
- 思考ツール:800以上の実務的・学術的なフレームワークを学習。
- 生活者データ:数十年継続した数千人対象の意識・行動データ。
- クライアント様の保有データ:購買情報をはじめとする自社独自の多様なデータ。
- マーケットデータ:インターネット上で確認可能な各種市場データ。
「異なる視点を持つバーチャル顧客やバーチャル社員同士が対話・議論を行うことで、課題の本当の原因や新たな発見を導き出す仕組みを取り入れています」(入江氏)
各業界の専門家への調査ベースでつくられた暗黙知を活用し、情報収集から仮説構築、レポート作成までをワンストップで完結する。そのため、個人のプロンプトスキルに依存せずとも、体系的で実務に即した再現性の高いアウトプットを生み出せる点が、「CX AI STUDIO」の特徴と言えるだろう。

