コトラーが目指した「統合型組織」は既に日本にあった?
こうした関係性の違いは、組織のつくり方にも表れているという。高広氏は、慶應義塾大学名誉教授の石田英夫氏が1985年に著した『日本企業の国際人事管理』を引き、日本型組織を「スキマ組織」、欧米型組織を「レンガ組織」と表現した。スキマ組織とは、誰の担当か明確でない領域、いわば隙間がその場の誰かによって自発的に埋められていく構造だ。
だからこそ日本の営業担当者は、新規開拓からクロージングまで、機能の境界を飛び越えて対応する。一方のレンガ組織は、1人ひとりの役割がレンガのようにきっちりとはめ込まれ、境界を越えて動くこと自体が設計上想定されていない。欧米の「The Model」のような分業型のプロセスが成立するのは、この組織原理があってこそだと高広氏は指摘する。
その隙間を埋めているのが、日本企業に存在する「営業企画」「営業推進」という部署だ。これはアメリカにはほとんど存在しないという。高広氏によれば、営業企画・営業推進をテーマにした書籍は、日本でこれまで1冊しか出版されていない(2005年)。それほど重要な機能でありながら、書籍化すらされてこなかったというのだ。

2006年、フィリップ・コトラーは「Ending the War Between Sales and Marketing」という論文で、マーケティングとセールスの統合を提案した。高広氏は「日本のBtoB企業では、営業企画・営業推進という形で、その統合がとうの昔に実現されていた」と述べ、「遅れているどころか、コトラーが目指したモデルに、日本はすでに到達していた」との見方を示した。
ただし、欧米のマーケティング部門が備えるフルスコープな機能(プロダクトマーケティングなど細分化された役割)をすべて備えているわけではないため、「遅れている」のではなく「足りない部分がある」というのが正確な表現だと補足した。
なぜSFAを使いこなせないのか? パイプラインマネジメントという壁
組織としては先を行っているにもかかわらず、SalesforceをはじめとするSFAをうまく使いこなせない企業が多いのはなぜか。高広氏は、その理由を「営業管理の作法がそもそも違うから」と説明する。
SFAを使うには、案件の各段階を可視化し、成約までの進捗を客観的な基準で追跡する「パイプラインマネジメント」が前提になる。しかし、パイプラインマネジメントを実践している日本企業は、ほとんどないという。
パイプライン文化では、ミーティングの実施など、誰が見ても判断できる客観的な事実によってステージが進む。一方、日本の営業でよく使われる「確度A・B・C」のような「ヨミの文化」は、担当者個人の主観的な手応えに基づくものだ。
ルールを決めても、結局は主観に頼らざるを得ない。だからこそ、海外のSFAを導入しても、自分たちのやり方に合わせて使い方を変えてしまう、いわゆる「魔改造」が頻繁に起きる、と高広氏は指摘した。
