潮流1.「万人ウケしない」をあえて選ぶ、強烈な個性
まずご紹介したいのが、「ありのまま」の流れとは真逆に振れる動きです。2025年も個性を出すトレンドはありましたが、周囲とアクセント程度の差をつけるものが多かったと感じています。それに対して2026年は、思い切った方向性が明確に出てきました。
お歯黒、眉消し──あえて世間ウケしない容姿を選ぶ
その代表例が「固定観念打破おしゃれ」です。これまでの超個性派・パンク系のイメージが、普通の女子大生や女子高生の間にまで広がりました。
たとえば、歯を黒く塗って投稿する「お歯黒(#blackteeth)」、眉をブリーチで金や白に染めたり全剃りする「眉消し女子」、毛先を尖らせた短髪メンズスタイルを女性が取り入れる「スパイキーショート女子」、上唇裏と歯茎をつなぐヒダに装着する口内ピアス「スクランパー女子」、鼻中隔にリング状のピアスを着ける「セプタム女子」など。
お歯黒については、2026年の成人式でお歯黒姿がバズったインフルエンサーが複数出現しています。文化的背景は持たず、あくまでファッションとして選ばれている点が特徴です。
トレンドの背景には、段階的な変化があります。
まず前提として、SNSで「男子/女子受けする服装・髪型」などの投稿を目にする機会が増え、容姿や異性受けを過剰に気にしてしまう若者が増えています。 そうした状況のなかで課題意識が芽生え、「XG」や「HANA」のように既存の美の固定観念を打ち破る女性たちへの反発と憧れから、「自分らしさを表現したい」というニーズが高まりました。
これらを解決するアプローチとして生まれたのが、「あえて万人ウケしないおしゃれを選ぶ」という表現です。世間的に可愛くないとされるアイテムでもあえて選択し、「それを着こなせる自分」を提示することで、自分らしさとセンスの良さを同時にアピールできる構造になっています。
二郎系の代わりを探した「飲める背徳感」
食の領域では「女子向け 飲める背徳感」という事例が出てきました。2025年は、細身の女性が二郎系ラーメンを豪快に食べることで注目を集める、ギャップ動画が人気を集めました。しかし、従来の背徳飯は見た目が映えづらく、量も多くて食べきれない不安や心理的なハードルもあります。
そこで受け皿になったのが、「飲めるタコス」「飲めるチキン」などの「飲める○○」と表現される商品群です。実態としては液体を飲むのではなく、とろみのあるものにディップしてかぶりつくスタイルを指しています。咀嚼が少なくても食べられ、豪快な見た目のまま挑戦しやすい「二郎系」に代わる背徳飯として広がりました。
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潮流2.冷笑が怖いから、「免罪符」を用意する
37事例のうち最も多くを占めたのが、周囲の目を気にしながら、それでもやりたいことをやるための「言い訳」を用意する動きでした。振り返ってみると、免罪符をいくつも作りたいという構造の事例が非常に多かったと感じています。
その背景の鍵が、「冷笑系」です。他人の努力や熱量を笑う空気がSNS上で強まり、Z世代はそれを極端に恐れています。たとえばランニングをしたという投稿1つでも、「意識高い系じゃん」と揶揄されるのが怖い。健康のために体を動かしているだけなのに、そう受け取られてしまう。この恐れが、多くのトレンドの起点になっています。
「バターを作るために走った」なら冷笑されない
そこから生まれたのが「一度きり達成アピ」です。
前提として、日常的に運動を行う人の発信に注目が集まり、その生き方に憧れるZ世代が増えています。しかし、運動を継続するハードルは高い。加えて、先述の冷笑されるリスクもあります。継続と冷笑という二重の壁があるわけです。
これを突破したのが、一度でやり切れて、しかも遊び心のある挑戦でした。1つは「バターラン」。容器に生クリームと塩を入れてランニングバッグに詰め、約10km走ると振動でバターを作るというアメリカ・オレゴン州発のトレンドで、2026年2月にTikTokで話題になり、日本でも挑戦者が急増しました。走り終え、完成したバターをパンに塗り食べるところまでが一連の流れです。
もう1つは「山手線一周歩きチャレンジ」。山手線沿線を1日で歩き切るもので、駅に着くたびに写真や動画で過程を記録します。
重要なのは、「健康のために走った」ではなく「バターを作るために走った」「山手線を一周するため」と言えることです。遊び心のある挑戦を免罪符にすることで、冷笑される心配なく達成を発信し、称賛を集められるようになります。
炎上も闇バイトも、フィクションなら体験できる
同じ「言い訳」の構造は、より踏み込んだ領域にも及んでいます。「不謹慎行為安全体験」は、犯罪になりかねない不謹慎な行為を、イベントで疑似体験する事例群です。
具体的には、「バズりたいけど燃えたくない」という現代的な葛藤をテーマにした日本初の体験型展示イベント「炎上展」、制作団体「狂宴-KYOEN-」による、危険なアルバイトに参加して街で起こる恐怖の出来事を調査する体験型ホラーイベント「闇シゴト体験」、実在する施設を舞台にどこまでが現実か虚構か曖昧になる周遊型イマーシブサスペンス「盗薬次楽(とうやくじらく)」が挙げられます。
いずれもフィクションとして設計されているため、炎上や検挙のリスクを負わずに不謹慎な状況を体験できます。
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「カフェに行く」を装ってイケメンに会いに行く
「イケメン遊び免罪符」も同じ型です。ホストクラブやマッスルバーのように、イケメンからサービスを受けられる場所への関心はZ世代女性の間にもあります。しかし足を運びにくい面があります。
そこで支持されているのが、日常の文脈を装える場所です。大阪・鶴橋にある、イケメン店員しか在籍しないウィッシュコアカフェ「メルトモア」や、中国・上海の遊園地「上海ハッピーバレー」のイケメンパレード(※SNSで拡散された呼び名)です。後者は、プロのイケメンキャストがファンサービスを提供する様子が、TikTokを通じて日本でもバズりました。
店やイベントを理由に、「ぶりっ子」な自分を解放する
同じ発想は、メイド喫茶やコスプレの領域にも及んでいます。「カワラボ体現免罪符」です。
近年は、レースやリボンを取り入れたガーリーファッションが流行しました。ただ、そのさりげなさに物足りなさを感じる層もいます。また、FRUITS ZIPPERやCUTIE STREETなどのKawaii Lab.所属アイドルが爆発的に人気になり、憧れは強まっています。しかしアイドルと同じような服を着てSNSに載せると「ぶりっ子」「痛い」と思われかねません。
そこで、店のコンセプトやイベントを理由にする方法が選ばれています。
たとえば秋葉原のメイド喫茶「あっとほぉーむカフェ」ではメイド服や小物を着用した撮影やお給仕体験ができるイベントが開催されました。他にも、プリクラ用コスプレとして人気のブランド「MalyMoon」を着られる、Z世代向けアミューズメント施設「ME TOKYO」や「原宿WEGO 1.3.5...原宿店」なども人気です。
友情も、可視化しないと確かめられない
免罪符が必要とされているのは、外見や行動だけではありません。友人関係で角を立てたくない、傷つきたくないという心理も、同じ根から出ていると私は考えています。
SNSの普及で交友関係が過度に広がった結果、信頼関係や仲の良さを目に見える形で確認しづらくなりました。加えて「フレネミー(友達のふりをした敵)」という概念が話題になったことで、自分たちの関係は本物なのかを確かめたいという欲求が高まっています。
その表れが「友情証明ペアアクセ」です。ペアリングやアクセサリー作りは恋人向けという「重い」イメージがあるからこそ、「相手を深く信頼していなければ提案できない行為」として成立します。また、お揃いのアイテムによって、自分たちの友情を周囲にアピールできるわけです。
具体例は、PANDORAの「Friendship rings」、繋げると「best friends」の文字が現れるMARC JACOBSのネックレスなどの約1〜2万円のアイテム、新大久保のシルバーリング作り体験工房「The asoboard(約8,000円〜/1人)」。いずれも、学生には少し背伸びが必要な価格帯です。安価なもので済ませないこと自体が、友情の深さの証明として機能している。ここに費用をかける価値が上がっているのは、この半期の特徴だと感じています。
潮流3.生成AIが可能にした、新しい「盛り」と「代弁」
3つ目の潮流は、生成AIによって初めて可能になった遊びです。これまでの加工トレンドの延長ではなく、AIがあるからこそ生まれた発想が並んでいます。
行っていない旅先の「盛れ写真」を作る
「AI旅先盛れ」は、旅先で理想の写真を撮ることの難しさを起点にしています。Z世代は旅先で、盛れている1枚のために何十枚も撮影します。しかし旅先の気温や湿度でメイクは落ち、髪やまつ毛の巻きも取れる。記録とSNS映えを同時に追求するには、旅先はむしろ不利な環境なのです。そこで、旅先での「盛れた写真」自体をAIで生成する動きが出てきました。
1つは「Nano Banana Pro 観光疑似体験」。Googleの画像生成AI「Nano Banana Pro」にGoogle マップで取得した緯度・経度の座標と人物画像を読み込ませることで、その場所で撮影したかのような画像が生成されます。
もう1つは「AI雪加工」。Meitu、BeautyCam、CapCutなどのAI画像編集ツールが、写真に雪の粒や降雪表現、冬らしい色調を自動生成して加えるもので、「#AI雪加工」として日本・韓国を中心に拡散しています。
AIが、言えなかったことを代弁してくれる
もう1つ、新しいのが「スカッとAI辛辣指摘」です。炎上や人間関係のトラブルを避ける傾向が強いZ世代は、友人のわがままな発言や態度に対しても指摘できず、小さなモヤモヤを溜め込みがちです。本音を言うのが苦手なため、未消化の感情が蓄積していきます。
そこで人気になっているのが、AIが人に対して辛辣なことを言っている様子を見るコンテンツです。AIチャット&友達作りができる対話型AIアプリ「synclub」の恋人設定キャラクターが、ユーザーに現実的で辛辣な返答をしてくる様子、ChatGPTに相談したら正論で反論されて口論になる動画などが話題になりました。
自分では言えなかったことをAIが言語化してくれる。しかも人間関係を壊す心配がない。ここでもAIが「自分では言えないこと」の代弁者になっているわけです。
16タイプでは足りず、64タイプへ
自己分析の領域では「細分化診断」が伸びました。MBTIやラブタイプなどの性格診断はZ世代に浸透し、自己紹介の際に診断結果を個性として使うほど生活に根づいています。
ただ、普及が進んだことで診断結果に「忠犬ハチ公=メンヘラ」「ISTP=ノンデリ(デリカシーがない)」といった特定のステレオタイプが定着してしまいました。その結果、同じタイプの人々が一括りにされ、自分ならではの「個性」を表現することが難しくなるという課題が生じたのです。
そこで支持されているのが、64タイプ以上に細分化した診断です。「超精密MBTI診断」、「ラブキャラ64診断」「Koiキャラメーカー」などが挙げられます。結果が人と被らないほど豊富に用意されていれば、ひとまとめにされにくく、SNSに載せたときに自分の特徴をより深く・細かく知ってもらえます。
