BtoB企業では「社員=専門家の顔」をマーケティングチャネルに
Employee Creatorというと、StarbucksやGapのような消費者ブランドを想像しやすい。しかし、BtoBでも「企業」より「そこで働く人」を前面に出す動きが目立っている。ただし、その目的はBtoCとは少し異なる。
日本のマーケターにも馴染みのあるHubSpotは、そのイメージをつかみやすい例だろう。同社CMOのKipp Bodnar氏はLinkedInで約3万3,000人のフォロワーを持ち、マーケティングやAIについて継続的に発信している。2026年6月にも「Loop: Marketing in the post AI world」と題した記事を公開したほか、HubSpotの公式ブログでも「The future of marketing isn’t humans vs. AI──it’s humans with AI」など、自身の視点からAI時代のマーケティングについて発信している。
これはStarbucksやGapのように制度化されたEmployee Creatorプログラムとは区別する必要がある。しかし、企業公式アカウントだけではなく、「そこで働く専門家」自身がブランドの思想や専門性への入口になっているという意味では、Employee Creatorの潮流と重なる。
この考え方を、より組織的なGTM(Go-to-Market)施策にまで発展させている企業が、デンマーク発のBtoBマーケティングプラットフォームDreamdataである。
LinkedInが公開しているDreamdataのケーススタディによると、同社は社員本人が自分の言葉で語る動画を中心としたEmployee Advocacyを、単発のキャンペーンではなくGTM戦略の恒常的な一部としている。
成果も興味深い。Employee Advocacyによって1四半期で30万インプレッション超を獲得。社員が登場する広告のエンゲージメント率はブランド主導型広告の3〜4倍に上り、LinkedInのThought Leader Adsは同社の成約案件の83%に影響していたという。
DreamdataはLinkedInのケーススタディの中で、現在の信用はブランドではなく「人」から生まれ、オーディエンスは顔のないロゴより実在する人物をフォローしたがると説明している。
ここで社員が売っているのは、商品そのものというより専門性と信用である。

Employee Creatorの発信を支える社内インフラを設計
さらに、Employee Creatorを個人任せにせず、組織として支える仕組みを構築しているBtoB企業もある。
SNS管理サービスを提供するHootsuiteは、自社でEmployee Advocacyプログラムを運営している。
Hootsuiteが2026年5月に公開した事例によると、社内では部門横断の「Amplify Content Council」が社員向けコンテンツを継続的に整備し、研修やオンボーディング、通知に加え、参加社員を評価するRecognition Programも設けている。
つまり、「社員のみなさん、会社の投稿をシェアしてください」という施策ではない。社員が継続的に発信できる社内インフラを作っているのである。
同社によると、Employee Advocacy経由で生み出された売上は前年比250%増。社員投稿によるオーガニックインプレッションは第1四半期だけで410万回超に達し、オーガニックなEmployer Brand関連インプレッションの94%を社員によるシェアが占めた。
HubSpot、Dreamdata、Hootsuiteを並べると、BtoBにおける「社員をメディア化する」方法にも段階があることが分かる。専門家個人が発信力を持つだけでなく、その発信を広告で増幅したり、多くの社員が参加できる仕組みを企業側が整えたりする方向へ進んでいるのである。
