推進の壁を壊す「他部門の巻き込み」
――部門横断での顧客理解も含め、実際にCXを推進しようとすると部門間の壁にぶつかるケースが多いと思います。どのような組織体制でCX推進に臨むのが理想でしょうか。
白根:顧客の体験は「探す」「試す」「買う」といった個別のジャーニーの積み重ねでできており、複数の部門が関与します。部門間が横断する必要はありますが、新しい組織を作る必要はありません。

組織の壁にぶつかるのは、ある部門が単独でアイデアを起案し、それを他の部門が反対するケースが多いように思います。それを防ぐために、最初から関係部門が集まることを心掛けます。たとえば「買う」というジャーニーに関与する部門に最初から集まってもらうのです。一緒にカスタマージャーニーマップを描き、顧客インサイトを共有し、施策アイデアや共通KPIを考え、期待される顧客価値とビジネス成果を明文化します。
このプロセスを経ることで顧客の見方が揃い、お互いの部門事情への理解も深まって意思決定の壁が下がります。
――一緒にプロセスを共有していくのですね。ただ、多様な部門の人を集めること自体にハードルを感じるケースもありそうです。
白根:おっしゃる通り、そもそも集まること自体に難しさはあります。複数の部門を集めて「早速カスタマージャーニーマップを作りましょう」と言うのはしんどいですよね。しかし、自分たちだけで起案して潰されるよりは、集まるためのハードルを越える方法を探ったほうが成功する可能性は高いのです。
いきなり作業を始めるのが難しい場合は、まず共通認識を作ることに徹するのがおすすめです。その手段の1つとして私たちが活用しているのが、「CX経営サバイバルゲーム」です。企業で起こりがちなリアルな葛藤や「あるある」を疑似体験したり、どう解決するかアイデアを出し合ったりします。ゲームなのでシビアに考えず気持ちよく対話できますし、「自分たちの会社に置き換えるとどうですか?」とさりげなく自社を投映できます。自然なかたちで「ここでつまずくよね」と部門を超えて理解できるのです。
これをスタート地点にして、「じゃあ、ちょっと一緒に作ってみるか」という空気を作っていく。最初から大きく進めるのではなく、例えば3つの部門が集まるなら各部門1名ずつの3名で着手し、成功の見込みが立ちやすい領域から小さな成功体験を積み重ねていくのがいいと思います。
マーケターに期待される「翻訳」役割
――部門横断の取り組みやCX推進において、マーケターに期待される役割は何ですか?
白根:期待される役割は大きく2つあります。1つ目は、部門と部門をつなぎ、それぞれのバイアスを解いていく「ファシリテーター」の役割です。マーケターは普段から人の行動や心理を理解する仕事をしているため、CXと親和性がとても高いのです。
2つ目は、「顧客価値を企業価値へ変換する」役割です。CXの取り組みが止まってしまったり経営層に採用されなかったりするのは、経営層の判断基準に翻訳できていないからです。「顧客満足度が〇ポイント上がります」と言われても、ビジネスにどのような影響を与えるかわかりません。たとえば、顧客満足度の上昇が離脱率をどれだけ押さえるのか(売上低下をどれだけ抑止できるのか)、顧客単価がどれだけ上がるのかといった定量的な企業価値につなげる必要があります。この翻訳こそ、マーケターが大いに期待される役割です。
