売却で得た資金は米国本土へ
「スタバは不振か」というイメージの対象は、日本ではなく米国本体だ。モバイルオーダーの過剰流入で店舗オペレーションがパンクし、顧客は「サードプレイス(心地よい第3の場所)」という体験を期待しなくなった。スターバックス本体では離職や労組問題も相次いだ。再建策「Back to Starbucks」の下、2025年秋には約1,500億円規模のリストラを行い、北米で採算の合わない627店を閉め、二度のレイオフを断行。創業以来ほぼ初めて店舗数が純減へ転じた。中国と日本の売却で得た資金は、本国の改装投資と財務の足固めに回せる。
さらに円安が拍車をかける。いま、海外のPEファンドから見れば、日本有数の飲食ブランドの運営権が3割引で並んでいるように映る。米ドル基準では、日本の優良事業はいま「買いやすく、売りやすい」局面にある。スターバックスの日本事業売却は、その資本市場の現実を象徴する事例でもある。
急拡大中の中国発「Luckin Coffee」、くつろぎを売らない店がマンハッタンで倍増
背後には、スターバックスを追い立てている存在もいる。中国発のLuckin Coffee(瑞幸珈琲)だ。2025年7月にマンハッタンへ米国1号店を開くと、本連載2026年1月号の観測時点で9店だったのが、2026年8月時点では21店へ倍以上に増えている。
そのマンハッタンの店舗には、スターバックスが「売り」としてきた要素が最初からない。ソファも電源席も、名前を呼ぶバリスタとの会話も無く、アプリで事前注文し数分後にカウンターで受け取って立ち去る。売っているのはコーヒーと数分の利便性であって、狭いカウンターだけの店舗はくつろぐ場所ではない。
この勢いは、中国で既に証明済みだ。Luckinは2017年創業、2020年に会計不祥事で上場廃止・経営破綻を経験したが、再建後は中国本土でスターバックスを抜き、世界全体で3万3,596店(2026年3月末)に達した。スターバックスが54年かけて築いた約4万1,000店に、創業9年目で迫る勢いである。
資本の動きはさらに速い。Luckinの支配株主である中国系ファンド「センチュリアム・キャピタル(Centurium Capital/大鉦資本)」は、2026年3月、Nestléからスペシャルティコーヒー「Blue Bottle Coffee」の世界店舗事業を約4億ドルで取得合意した。Nestléが2017年に約7億ドルの評価額で取得した際より約4割安い水準だ。低価格帯のLuckinと、上位帯のBlue Bottle。中国系資本が価格帯の上下から挟み撃つうねりが、世界の主要都市で同時並行に進んでいる。
