AIを活用した分析設計
ここからは実際に分析設計を行う工程でAIをどう使うか、実践的な使いどころを3つ紹介します。
使いどころ1:設計書のドラフトを生成させる
まず、仮説と利用可能なデータ項目をAIに渡し、設計書のたたき台を作らせます。このときに有効なのが、手元にある・収集の目処が立っているデータの実態を具体的に渡すことです。「購買データがあります」だけではなく、テーブル名・カラム名・データ粒度・保有期間まで渡してあげます。
◯設計書ドラフト生成のプロンプト
以下の仮説を検証するための分析設計書のドラフトを作成してください。
【仮説】来店間隔が以前の2倍以上に延びた優良顧客ほど、健康・美容カテゴリーの購入が減っており、競合チェーンへスイッチしているのではないか
【利用可能なデータ】(テーブル構成・カラム・粒度・保有期間を具体的に記載)
【出力してほしい項目】検証する指標とその定義/比較軸/分析手法/分析対象と期間/想定される結果パターンと解釈
定義が一意に定まらない箇所は、選択肢と各案の長所・短所を併記してください。
最後の一文がポイントです。AIは指示すれば必ず何かを埋めてきますが、埋まった定義が唯一の正解とは限りません。判断が必要な箇所を「判断が必要な箇所」として明示させることで、人間が確認すべき論点が可視化されます。
使いどころ2:分析手法の比較検討
手法の選定はAIとの相性が良い領域です。第1回で触れたとおり、既知の手法を幅広く提案することはAIが得意とするところです。
◯分析手法の比較検討のプロンプト
上記の仮説を検証する分析手法の候補を3つ挙げ、それぞれについて「前提条件」「必要なデータ」「実装難易度」「解釈性」「仮説検証に対する必要十分性」を比較してください。
なお、分析結果の報告先はマーケティング部門の非分析職です。
評価項目のうち、特に指定しておきたいのが「解釈性」と「仮説検証に対する必要十分性」です。AIは手法そのものの性能を基準に候補を挙げてくる傾向があり、放っておくと精度や網羅性で優れた手法が推奨されます。しかし先に述べたとおり、高度な手法が価値の高い分析を意味するわけではありません。
この2項目を評価軸として与えることで、「今回の仮説を検証するには過剰ではないか」「この結果を意思決定者に説明できるか」という観点が推奨理由に含まれるようになります。報告先を伝えているのも同じ狙いです。
使いどころ3:設計書のレビュー
AIとの壁打ちを経て人間が決定した設計書をAIにレビューさせます。個人的に、この工程でAIが最も価値を発揮すると感じています。自分で組んだ設計は、自身の暗黙の前提ありきで書いていることが多く、その前提の妥当性は自分では検証しにくいためです。
◯設計書レビューのプロンプト
以下の分析設計書を、この分析結果を受け取る立場でレビューしてください。
「この結果だけでは判断できない」と感じる点、および結果を別の要因で説明できてしまう可能性を指摘してください。
なかでも有効なのが、同じ結果を説明できてしまう別の可能性の洗い出しです。今回は来店間隔が延伸した群と維持している群を比べる設計なので、両群に同じように効く要因であれば、比較の中で相殺されます。
一方で、そうならない場合もあります。たとえば、基準期間に自社で健康・美容カテゴリーの大型プロモーションを打っていたとしましょう。このとき多く買いだめした顧客は、直近期にしばらく買う必要がなくなり、来店間隔が延びます。つまり、買いだめした顧客ほど間隔延伸群に入りやすくなります。しかも基準期の購入額が膨らんでいる分、直近期との落差も大きく出ます。維持群にはこの偏りがありません。
結果として、「間隔延伸群のほうが、カテゴリー減少が大きい」という数字が出ます。しかし、それはプロモーションの反動が群の分かれ方と連動しているためで、競合スイッチの証拠とは言えません。
ただし、AIの指摘がすべて妥当とは限りません。対応するか否かを決めるのは、あくまで人間の役割です。
分析設計は、成果物が集計表でもグラフでもないため進捗が見えにくく、飛ばしたくなる工程です。しかし、ここで定義と比較軸を固めておくほど、後工程の実分析はスムーズに進みます。設計に時間をかけるほど、分析は速くなるのです。
次回は、設計した図面をもとに実際のデータを揃えるデータ収集フェーズです。「Garbage In, Garbage Out」と言われるとおり、分析の質はデータの質で決まります。データソースごとの構造の違い、そして生存者バイアスやサンプルの代表性といった、収集段階で潜む落とし穴を、AIの活用方法とあわせて解説します。
