「買いたい」と「買う」の間には、3つのハードルがある
1つ目は、意識のハードルです。購入意向があっても、その商品が実際の買い物で思い出され、比較候補に入らなければ選ばれません。生活者は「買いたい」と思ったすべての商品を毎回ゼロから検討しているわけではなく、頭の中にある少数の候補群から選びます。この候補群が「考慮集合」です。
2つ目は、物理的なハードルです。店に置かれていない、ECで見つからない、欲しい容量がない、価格が予算に合わない──。意向が行動に変わるには、買える状態が整っていなければなりません。「購入意向が高いのに売れない」とき、商品価値ではなく購入機会の不足が壁になっていることもあります。
3つ目は、選択のハードルです。考慮集合に入り、実際に買える状態にあっても、最後には競合との比較が待っています。その日の気分や用途、価格、慣れ、パッケージの見え方などを踏まえて、候補の中から1つが選ばれます。
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ここで重要なのは、「『買いたい商品』と『買う商品』は違う」ということです。たとえば生活者に「買いたいお茶」を尋ねれば、麦茶、緑茶、ほうじ茶、無糖紅茶など、複数のサブカテゴリーが挙がるでしょう。さらに同じ麦茶の中にも、様々な銘柄があります。しかし、1回の買い物で実際に選ばれるのは、通常そのうちの1つです。
今日は暑いから麦茶、食事に合わせたいから緑茶、少し気分を変えたいから無糖紅茶。同じ人でも、必ずしも選択は固定されていません。購入意向は「候補になり得る」ことを示しても、「いつ、どれくらい選ばれるか」までは示していないのです。
「購入意向」だけでは売上が見通せない理由
仮に、ある新商品を「買いたい」と答えた人が2人いたとします。2人ともそのカテゴリーの商品を月10回買いますが、1人は新商品を「5回」、もう1人は「2回」買うつもりでいます。この2人を「買いたいと思っている」という括りだけで同じように扱うと、実際の売上に生まれる大きな差を見落としてしまいます。
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生活者は、複数の選択肢に気持ちを配分しています。ある商品を評価しながら、長年の習慣で別ブランドを買うこともあります。新しさに惹かれて一度は試しても、日常の定番にはならないこともあります。反対に、強い好意を口にしなくても、「迷ったらこれ」という選ばれやすさを持つブランドもあります。
この考慮集合の中で相対的に選ばれる強さを、「プリファレンス」と呼びます。難しい概念に見えますが、生活者の実感に置き換えると、「10回買うなら、そのうち何回をこの商品にあてるか」ということです。売上を考える上では、「何人が買いたいと答えたか」だけでなく、「1人ひとりの購入機会のうち、どれだけ選択を獲得できるか」が重要になります。
この視点で考えると、冒頭に述べた「購入意向が高い商品が、必ずしもその通りに売れるわけではない」ということの理由が見えてきます。幅広い人から「一度は買いたい」と思われる案と、一部の人の日常に深く入り込み、繰り返し選ばれる案では、売上の作られ方が異なるからです。
次の購入(リピート)を決定づける「購入後の体験」
購買プロセスは、レジを通ったところで終わりではありません。生活者は購入前に、広告やコンセプト、パッケージから「この商品なら、こんな価値が得られそうだ」という期待を作ります。そして使用・喫食した後に、その期待と実際の体験を照らし合わせます。
期待どおり、あるいは期待を上回れば、商品は次回の考慮集合に残りやすくなります。一方、魅力的な訴求で初回購入に至っても、製品体験が期待に届かなければ、次の購入機会では別の商品が選ばれます。「初回購入を生むコミュニケーション」と「継続購入を生む製品体験」は別々のものではなく、同じ価値提案を購入の前と後から支え合う関係にあります。
ここでも重要なのは一貫性です。「広告で描かれた生活の変化」「棚で受け取る印象」「使ったときの実感」がつながっていれば、生活者はその商品を理解しやすくなります。逆に、それぞれが別の価値を語っていると、購入前の期待は高められても、購入後の納得につながりません。
