代理店依存と大企業ゆえのボトルネック
MZ:「社会課題の解決は大切だ」と理解していても、実際の現場では目先の数値目標に追われ、なかなか実行に移せないマーケターも多いのが現状です。日本企業において、社会課題解決への取り組みを阻むボトルネックは何でしょう。
長田:大きな要因の1つは、CSR(企業の社会的責任)部門がマーケティング部門から独立してしまっている組織構造です。CSRやコーポレート部門には、マーケティングのようなダイナミックな発想や大きな予算が紐付いていないため、小規模な活動にとどまりがちです。
もう1つの問題は、代理店頼みの構造です。代理店は高い専門性がありますが、必ずしも社会課題解決を専門とする組織ではありません。上位概念としての戦略を作るだけでなく、実行フェーズまでマーケターが主体的に回さなければ、「本当に生活者のためになっているのか」「社会課題の解決につながっているのか」という本質までたどり着けないのです。
大企業になればなるほど組織や役割が分断され、当事者意識が薄れやすくなります。逆に、小さな会社やスタートアップの方が、予算も限られていて自分で全体を動かす必要があるため、社会課題に即したアプローチを柔軟に実現できるケースも少なくないですね。
自分たちで直接考え、試し、実行するからこそ意思決定のスピードも早く、施策に透明性と実効性が生まれます。マーケター自身がオーナーシップを持たなければ、本当の意味で社会を動かす取り組みは成功しません。

「企業の仮面」を脱ぎ捨て、生活者の目線に立ち返る
MZ:社内での予算獲得やビジネス成果との両立など、超えるべきハードルは多岐にわたります。オーナーシップを持って社内や関係者を動かしていくために、マーケターにはどのような役割やアプローチが求められるのでしょうか。
長田:マーケターの最大の強みは「横串で刺せること」にあります。社内の部署間だけでなく、社外のマーケターや地域、行政などのステークホルダーをつなぎ、コーディネートする能力に長けた人が多いはずです。売上だけにとらわれず、自身がおもしろいと思える課題解決のアイデアを実行に移すための「手札」を複数持っておくことが重要ですね。
そもそも、売上を立てることだけがマーケティングの最終目的ではありません。企業が掲げる理念やビジョンに立ち返れば、「商品やサービスを通じて社会をどれだけ良くできたか」という問いが存在するはずです。「売上」と「社会的な成果」という両輪の軸を持つことで、社内や上層部を納得させるロジックも構築できるようになります。
渋谷未来デザインが主宰する人材育成プログラム「SHIBUYA CO-CREATION ACADEMY」でも、興味深い気づきがありました。これは、各社の若手・中堅社員が集まり、約9ヵ月かけて社会課題解決のソリューションを企画するプログラムです。
講義の中で、講師であり、渋谷未来デザインの「Future Designer」でもあるクリエイティブディレクターの佐藤夏生さんが、参加者から提出された企画に対して「アイデアが大企業っぽい」と指摘する場面がありました。「自分自身が生活者として感じている日常の違和感」から着想を得ようとしても、参加者は無意識に「企業の仮面」を被ってしまう、つまり「どうやって自社の商品を売るか」という企業側の都合が入ってしまうのです。
しかし、マーケター自身も一人の生活者です。企業の仮面を一度脱ぎ捨てて、「自分自身が街で何に違和感を覚えているか」「生活者としてどうあれば嬉しいか」という原点に立ち返る必要があります。そして、企業の外に出て、異なる価値観を持つ人々や生活者と本気で対話することが、イノベーションには欠かせません。
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