シェアの奪い合いを脱し、次世代カテゴリーの創造を
──マーケターが向き合う現在の市場環境を、田岡さんはどのようにとらえていますか。
今、私たちは大きな時代の転換点にいると感じています。
AIの急速な進化は、デジタルテクノロジーが普及した時代以上に、社会のあらゆる側面に変化を及ぼしています。市場環境が激変するときというのは、見方を変えれば、新しい市場を開拓できるチャンスが広がっているときでもあるのです。
新たな市場の創造は、企業だけでなく、生活者の側からも求められています。これまでのマーケティングは、他社との差別化により既存市場のシェアを奪い合う傾向がありました。しかし現在は市場が飽和しており、生活者が限られた時間の中でブランドを細かく比較検討すること自体が難しくなっています。そのため、「ビール」と言えば代表的な数社が思い浮かぶように、特定のカテゴリーで想起されるブランドが固定化しているのです。
しかし、「クラフトビール」「ローアルコールビール」といったカテゴリーでは、また別のブランドが浮かぶのではないでしょうか。ブランドの独自性を比較して選択することが難しい今、生活者の変化をとらえて新しい市場を創造できるブランドこそが、次の時代のリーダーシップを発揮していくはずです。

「爆発寸前」の潜在課題を察知し、市場開拓の再現性を高める
──生活者の変化をとらえた市場開拓のアプローチとして、具体的にどのような視点が必要でしょうか。
カテゴリー総研の調査を一例に挙げましょう。調査によると、現代の生活者は時間に対する価値観が変化し、授業の合間や通勤中といったわずかな「隙間時間」を活かしたいという心理が強まっています。この変化からスキマバイトやショート動画が出現するなど、新たな需要が生じています。
ここで重要なのは、社会や技術が変化する際、生活者の環境に「歪み」が生じるという点です。たとえば「授業の合間にバイトしたいが、できるはずがない」といった潜在的な課題に対し、生活者は個人の力では解決策を見出せません。そこで企業が技術力とコンセプトの言語化により「スキマバイト」という新たなカテゴリーを提示することで、生活者の中に「スキマバイトをしたい」という明確な需要が生まれます。
1つのカテゴリーが成功すれば、ビジネスやエンターテインメントでも隙間時間を活かすサービスが生まれるなど他領域にも影響が及び、新しいライフスタイルが作られていく。潜在需要が爆発的な勢いで顕在化し、市場が一気に拡大するのです。
これは「イノベーションの再定義」とも言えます。これまで「イノベーション」とは、再現性の低い企業主導の事象と考えられていました。しかし、生活者の視点に立てば、「爆発準備」が整った生活者の潜在的な需要をいち早く察知し、カテゴリーを生み出すことで、再現性の高い市場創造が実現します。こうしたアプローチが、これからのマーケターに求められていくでしょう。
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