現場を止めているのは“根性不足”ではない。「管理の設計不全」という構造
なぜ多くの組織で、CRMは単なる「追客ツール」に終わってしまうのか。和田氏は現場の実態に目を向ける。
同社の実務者調査では、「効率化のためのツールが逆に作業を増やしている」という構造が浮き彫りになった。顧客理解や施策立案のためにCRMを導入したはずが、項目整備や配信設定、エラー対応といったノンコア業務に追われ、実務者の約4割が「週の半分以上」の時間を費やす本末転倒な状況を生んでいる。
しかも、工数だけの問題では終わらない。ノンコア業務が7割を超える高負荷層では、実に約8割が離職意向を示しており、周囲に相談できる相手がいない孤立した担当者ほど心理的負荷は跳ね上がる。
作業と判断をひとりに集中させれば担当者は疲弊し、仕組みそのものが定着しない。CRM活用の成否を分けるのは、ツールを導入したかどうかではなく、「運用し続けられる設計になっているかどうか」なのだ。
しかし多くの企業では、「もっと現場が頑張れ」という根性論に陥りがちだ。
だが根性論とは、管理の設計不備を現場の自己責任にすり替える言葉に過ぎない。和田氏は、獲得したリストをそのまま営業へ渡す運用を「誰に、いつ、なぜ動くべきかの判断を現場に丸投げしている状態」だと指摘する。
優先順位のわからないリードを渡された営業と、「渡しても動かない」と嘆くマーケティング。この不毛な停滞を生む原因は現場の努力不足ではなく、管理職や業務設計(Ops)部門の「設計責任」にあると和田氏は強調した。
VoCが「ノイズ」になる理由 顧客情報と切り離された声は使えない
では、営業がリードを受け取った際に「今、動くべきだ」と判断するための材料はどう作るのか。その鍵になるのが、顧客自身が語った生の声、すなわちVoC(Voice of Customer)である。
ただし、VoCを集めるだけでは活用できない。同じ顧客アンケートであっても、部署によって求める文脈(見たい情報)が異なるためである。
同社の調査でも、営業が重視するのは「目の前の商談に直結する個客の文脈(個別提案への活用)」であるのに対し、マーケティングが求めるのは「市場全体の傾向(新商品・新機能の企画への活用)」と、両者の解像度に明らかな違いが見られた。求める文脈が違う以上、VoCは部署や役割に応じた翻訳を要する。
また、「データ統合の有無」も勝敗を分ける。顧客データを統合し資産化できている企業のAI活用成功率は68.9%、未着手の企業はわずか3.6%──実に19.2倍の開きだ。勝敗を分けるのはAIのアルゴリズムではなく、「データの質と統合の有無」だと和田氏は言い切る。燃料となるデータが分断されていれば、AIも顧客の全体像を理解できないからだ。
このデータの分断は、VoCにおいてこそより深刻な問題となる。たとえば、同じ資料をダウンロードした2人がいたとき、一方は「今すぐ検討したい顧客」、もう一方は「半年後の参考にしたい顧客」かもしれない。行動データは同じでも、その背景にある「意味(文脈)」は全く異なるのだ。
ところが、アンケート回答を既存の顧客情報と常に紐づけて管理・分析している企業は28.8%にとどまる。実に約7割の企業で、顧客の声が背景(属性や行動履歴)と切り離されてしまっているのが現状である。
「誰が言ったかわからない声は現場では使いにくく、単なるノイズになってしまいます。『A社の田中さんが今この課題を感じている』とわかって初めて、営業が動く理由になります」(和田氏)
顧客の声は、ただ集めた瞬間ではなく「顧客データと結びついた瞬間」に初めて資産へと変わる。問題は「データがないこと」ではなく、「データを活用できる設計」がないことだ。

