AI時代に600時間かけた「手仕事」
――博報堂Gravityは提示されたRFPから、ブランドの決意を示す「青いまま進む。」という力強いコピーと、職人の手仕事による刺繍を用いたクリエイティブを提案されています。この提案に至った詳しい経緯を教えてください。
宝蔵寺:シップスという「船」を表す社名と、深い海の青がブランドカラーの1つにあること。そして「SHIPSは関わる全ての人と共に航海を続けます」という理念をお聞きし、強くて太いコピーを据えたいと考えました。
宝蔵寺:慎重に考えたのは、ブランドが歴史を重ねれば重ねるほど、コアターゲットとユーザーの年齢が離れていってしまうのではないかという点です。今回はコアターゲットである30~40代に届けるため、「老舗」や「伝統」というニュアンスはあえてコピーに込めない判断をしました。50年間積み上げてきた事実そのものがすでに役割を担保していますから。それよりも「洋服が好きでたまらない」という初心や、大海原に漕ぎ出していくというアグレッシブな姿勢にすべての体重をかけて言葉を放ったほうが、結果的にSHIPSのお客様である「ファッションが好きな人たち」に深く共感してもらえると考えたのです。
――生成AIが台頭し、効率的にクリエイティブが制作できる現代において、あえて時間のかかる手刺繍によるアナログ表現に挑戦した理由はなんでしょうか?
宝蔵寺:確かに、提案をした2024年当時はAIによるクリエイティブ表現が模索されている時期でした。AIを使えば、完成された美しいものがすぐに出来上がりもします。しかし、「洋服が好きでたまらない」という始まりの気持ちや熱を冷まさずに伝えるには、AIの効率と対極にある方法をとるべきだと考えました。
宝蔵寺:船の帆布にも使われるキャンバス生地や、原点を感じさせる青い糸を使い、時間と労力のかかる手縫いの刺繍という荒削りな表現を選択しました。縫製時間は600時間におよび、499枚のコマ撮り作業を要しました。この、人間の手による計算できない糸の震えや揺らぎが、見た人の感情を動かす「青いまま進む。」という言葉に負けない熱量になると考えたのです。
山口:このクリエイティブをご提案いただいたときに、率直に「SHIPSっぽい」と感じました。手がかかり、めんどうくさいものであり、それが魅力だと思っています。「洋服の本質」と「私たちは洋服屋だよね」という想いを見事に表現していただけましたね。
普段は表に出ない社員にスポットライトを
――スタッフのビジュアル起用や、インタビュー掲載もされています。誰を起用するかはどのように決めたのでしょうか?
中西:アパレルはバイヤーやPRが取り上げられることが多いのですが、今回はシップスを支える他の社員にもスポットライトを当てたいと考えました。商品管理やEC担当者、コンテンツ制作担当、そして最前線にいる店舗スタッフなどを織り交ぜて起用しました。商品企画が生まれてから、実際にアイテムが作られて物流を通り、そして店舗と、多くのスタッフの手を渡ってお客様に届けられるという一連のストーリーを大切にしながら、どのようなアウトプットにするか、博報堂Gravity様と議論を進めました。
