「アワード挑戦」の裏にあった戦略
MZ:橘さんが取り組まれた一連の改革は、MarkeZine編集部主催のマーケティングアワード「BEST OF MARKETING AWARD 2026」で「BtoB部門賞」を受賞されました。どのような経緯で応募されたのですか?
橘:私自身、実は露出が得意なほうではなく、むしろ徹底的にメディアに出ないようにしていました。自分自身は粛々とマーケティングの独自研究をする“オタク気質”で、どうやったら数字にレバレッジを効かせられるかを24時間365日考えているタイプなので、発信活動は「正直、面倒くさい」と思っていたのです。
背中を押したのは、当時の上司からの勧めでした。「マーケティングへの投資を正しく捉えるためには、外部の評価が有用だ」と説得してくれましたね。最初は「社内でさえ予算が取れていないのに、外部露出なんてやっている暇はない」と盾突いていたのですが、「外部評価があったほうが社内の説得も早い」という言葉が腹に落ちて、応募を決めました。
MZ:社内を説得するために、あえて社外の評価を取りに行ったというわけですね。
橘:はい。自社のマーケティング文化がないということは、マーケティング投資に対する「尺度」がないということです。尺度がないと正しい投資判断ができません。
ですから、ボトムアップで稟議を通していく責任者として、まずは経営層に対してその尺度を用意する必要がありました。営業のように「いくら売れたら評価される」という明確なゴールがない中、自社のマーケターがいくら驚くレベルの成果を出しても、社内ではそれがすごいことなのか判断できません。
それをひっくり返すのは部門長である私の職責であり、理解されないのは私の説明責任が果たせていないからだと解釈しました。副次的な目的として、自分たちの独自理論に基づいた施策に対する専門的な目線での反応をもらいたい思いもありました。

MZ:アワードに応募いただいたタイミングで既に目覚ましい成果を出されていましたが、その段階でも社内の立ち位置としてはまだ足りないと感じられていたのでしょうか。
橘:理想にはまだ及ばない形です。売上貢献は認められ、事業も拡大基調ではありましたが、今後10年間でAI接点へと移行していく中で、デジタルやAIへの投資決裁を広げる余地はまだまだあります。この危機感をBtoBマーケター自身が経営層に訴求し、未来のための礎を築いておかなければ手遅れになる──ことの重要性を本当に理解してもらう必要があると感じていました。
MZ:応募にあたって、他部署との調整や情報開示のハードルはありましたか?
橘:応募内容は自部門の活動に限定したため、ハードルになりませんでしたね。他部署との連携による成果でしたが、「成功したね」というポジティブな雰囲気で進められていたのでその支障もありませんでした。
また、アワードの応募時点では社外に公開されず、編集部と審査員の中でしか情報が共有されない点も、スムーズに応募できた要因です。「BtoB部門賞」に選ばれ、メディアに出るとなったタイミングで正式な承認を取りに行きましたが、そのときには既に社内も盛り上がっていたので非常に進めやすかったですね。
ちなみに、応募フォームの記入の際は、私は勢いのままに15分で書ききってしまいました。普段から社内を必死で説得していたので、自分たちの部門のセールストークはいつでも出せる状態でした。取引先を巻き込む「Co-Marketing」で社外からの評判を連鎖させる
MZ:受賞後、社外評価を社内に浸透させるために、具体的にどのようなアクションを行ったのでしょうか。
橘:アワード受賞自体を1つの「マーケティングキャンペーン」として捉え、PR価値のある実績をいかに宣伝に使うかを考え抜きました。実は、社内に展開するまでの仕込み期間のほうが長かったのです。賞を取ったという事実を社外の評判として膨らませ、連鎖反応を起こした上で、社内への展開に移行しました。
具体的には、まずすべての取引先に「当社との取り組みを事例にしませんか」と打診しました。その際、MarkeZineさんの記事を添付して「このように全体像が取り上げられているのですが、御社と一緒に取り組んでいる施策はその重要なパーツになっています。そこを深掘りしませんか」と提案したのです。
MZ:受賞した取り組みの枠の中の1つとして、各社との事例を見せていったのですね。
橘:そうです。MarkeZineさんの記事を「メインコンテンツ」とし、他パートナーとの部分事例を「サテライトコンテンツ」として展開しました。また接触頻度を意識し、月に1〜2本は必ずマクロミルの記事が世に出るように仕込みました。2026年1月のアワード受賞に始まり、毎月のように露出を続け、マーケティングのプロフェッショナルたちの目に何かしらの形で留まるようにしました。
そして第2波として、取引をしていない企業にも問い合わせフォームから事例記事化の売り込みをかけました。オウンドメディアを運営している企業は多いので、「貴社に関連するマーケティング領域で、世に出ていない独自の手法について話せますので取材しませんか? MarkeZineさんが主催したアワードでこういう賞を貰っていて……」と提案すると、ほとんど断られません。
このように、自社の事例をメディアに取り上げてもらう価値を提供しつつ、ブランドコラボレーションとして意味のある企業に絞って営業をかけました。結果として、打診したうちの7割ほどからOKをもらい、Co-Marketing(共創マーケティング)としてパートナー関係を築くことができました。
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吉永 翠(編集部)(ヨシナガ ミドリ)
大学院卒業後、新卒で翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。学生時代はスポーツマーケティングの研究をしていました。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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