事例:経営と事業部で自社の認識が異なっている?
当社でご支援したあるプロジェクトをご紹介しましょう。守秘義務の関係でたぶんにマスキング、改編している点はご容赦ください。経営企画の方から、新たな中期経営計画策定のタイミングで、これまであまり着手してこなかったブランド戦略についてお声がけをいただきました。
このクライアントの社内には、現場で培われてきた約束に相当する「ことば」が複数個、点在していました。経営理念やパーパス、スローガンのようなものから、現場で先輩から代々語り継がれてきた社内用語のようなものまで、自社の提供価値や約束を様々な視点で表現した「ことば」が数多く確認できました。
マーケターを含む各事業部の様々な職階の方に個別にインタビュー取材を行ったところ、その中にあったひとつの「ことば」に対して、実に多岐にわたる反応が返ってきました。ここでは仮にそのことばを、「わたしたちはアクティブです」としておきましょう。経営層は、「創業以来アクティブであり続けている自社」を語り、A事業部は「わたしたちはアクティブである必要はない」と語り、B事業部は「わたしたちはまったくアクティブではない」と語りました(図5)。
クライアントの社史や沿革を検証すると、大げさではなく誰もが知るような、数々の社会的な変革を同社が支えてきたという、文字通り「アクティブ」な実績が多く見えてきました。反面、競合をリサーチすると、A社ほど企業としての実績が厚くない競合X社が、大きな費用と長い年数をかけて「アクティブさ」を訴求するようなブランドコミュニケーションを行っていることがわかりました。
大きな物議を呼んだ「謙遜は美徳ではない」という提案
そこで当社では、他のことばの候補も並列に検討したうえで、この「アクティブ」というコンセプトを根幹に据えた新しいコーポレートブランドのステートメントを仮説ベースで構築し、マーケティングを含むA社の各部門の事業責任者の皆さまにワークショップでご提案しました。
創業からかなりの年数が経過し、企業規模が大きくなるにつれて、これまで手掛けてきた実績の伝承に滞りが見られるのかもしれない。御社ほどの実績がない競合X社が大きく発信している。ブランドコミュニケーションにおいて謙遜は必ずしも美徳ではない。さあ、改めて「アクティブ」という原点に回帰しましょう、という提案でした。
この提案は大きな物議を呼びました。要約すると、
- 「アクティブ」であること自体が目的ではない、お客様の課題にあわせて「アクティブ」にも、「パッシブ」にもなれることのほうが重要である
- 大きな社会変革を起こすために業務を提供してきたわけではない。お客様のご要望に真摯に対応してきた結果、お客様の事業がたまたま大きな変革をもたらしただけである
- どんな場合でもお客様が第一であり、自分たちがどうありたいかは二の次、三の次なのである
そういったご意見をたくさんいただいたのです。
ここまでプロジェクトを進めてきた経営企画のご担当者様とわたしたちは、参加者の皆さまからの活発な意見に圧倒されるとともに、ある種の感銘を受けました。
冒頭に申し上げた、”マーケターにとってブランドは、モノやサービスであふれる市場において、競合と差別化を図り、お客様に自社商材を選んでいただく「競争価値源泉」”という現場感のあるリアルな「約束」が、熱量をもって総意として言語化された瞬間だったからです。
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菅原 賢一(スガワラ ケンイチ)
デロイト トーマツ パブリックグッド株式会社 会長/ファウンダー
1975年岩手県生まれ。プラップジャパン、インテグレートを経て、2013年にソーシャルマーケティングを手掛ける株式会社パブリックグッド設立。日本PR協会主催PRアワードグランプリ「ソーシャルグッド部門」にて2020年ブロンズ、2021年シルバー受賞。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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