「違和感」を熱源に変える
どこか引っかかる「違和感」は、結果的に熱源となってSNSやWebで語られていきます。2026年上半期で、特に印象に残っているのが3月に展開されていた「あすけん・もちづきさん」の事例です。
AI食事管理アプリ「あすけん」が渋谷で展開した、栄養士キャラクター・未来さんが「この春も、みなさんの健康を見守っています」と語りかける、爽やかな広告。かと思いきや、その視線の先には、白泉社の漫画『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』の広告が、同じ期間・同じ場所に並んで掲出。健康管理の象徴とも言える存在が、“ドカ食い”を横目で見つめる構図です。
掲出直後から「あすけんの圧がすごい」「並びが天才的」とXで拡散し、数万規模のリプライ・リポストに。あすけん公式とドカ食いダイスキ!もちづきさん公式アカウントの掛け合いも話題になるなど、掲出物が“会話が生まれるコンテンツ”へと育っていました。
6月に遭遇したアコーディス(AKKODiS)の広告もまさに違和感を切り口にした展開。
よく見ると「探してください」が「探してくさだい」、「気づいたあなたは」が「気づいたあたなは」と、表面上は「絵や図の違和感を探させる」と思わせつつ、実は文章そのものが間違っているという仕掛けで展開。XやThreadsで関連投稿が複数見られました。
2025年末ごろから各地で展開されていた「キング大山」の広告も話題でした。何の広告かはクリエイティブ内で言及されておらず、看板の背景が黄色い上に、デザインも意味深。URLもQRコードもありません。
これだけ簡単に情報が手に入る世の中で、情報を出さないことで強烈な違和感を生み出し、多くの方に印象を残した事例でした。
6月に渋谷で展開されたペアーズの広告も注目でした。「友達の友達にちょうどいい人がいる確率はたった1/1,960」という数値を大きく描いたこの広告。興味深いのは、確率の算出根拠を記載したことで賛否両陣営の意見がぶつかり合い、それ自体が拡散の燃料になった点です。しかも議論の方向は「数値」の話以外にも「広告表現としての意見」など、異なる論点で広がっていた点も特徴的でした。
各事例で効いているのは強烈な「違和感」。きっちり説明して情報を整えてあげるほど、不思議と引っかからないものです。ノイズ(ツッコミどころ)を残し、そこを受け手やブランド自身が埋めていく。違和感は放置すればただの粗ですが、使い方次第で熱源になり得ます。
“むず痒さ”を残す仕掛け
最近、わざとクリエイティブ内で“完結させない”広告をよく見ます。すべてを語り切らず、「次」があると告知したり、気になって調べたくなる余白(=むず痒さ)を残したりすることで、現地からSNS、Webへと話題が連鎖していきます。
たとえば、テレビ東京が2026年4月期アニメのプロモーションとして、3月下旬に渋谷で展開した「左ききのエレン」「LIAR GAME(ライアーゲーム)」の広告は典型でした。
「定時をめざせ」「策はある」と、作品を知らない人にはわからない“謎”フレーズが街に点在。作品のキービジュアルは使わず、作中のフレーズのみに振り切ることで、内容が気になるというむず痒さが残る展開となっていました。
VTuber「星街すいせい」さんの渋谷ジャックも印象的でした。広告内では、活動8周年と、3/22 20:00のYouTubeでの重大発表の告知に振り切った展開に。詳細は記載されておらず、ネット上では様々な憶測が飛び交い、大きな話題となりました。
同様に特定の日程を示す広告で、モンストの展開も印象に残っています。緊急度が高そうなコピーが並ぶも、あくまで6/11 16:00に誘導する内容で、クリエイティブ内に種明かしは一切無し。都内主要駅の複数面で展開されていました。
この手の展開では、クリエイティブ内にすべての情報を盛り込まないことで「現地で気づく→調べる→行動する」という、広告を見た後にとってほしい“行動”まで設計できるかが肝になります。
季節の文脈をフル活用
OOHの強みは「その場所に、その時期にいる人」へ届くこと。裏を返せば、時期と場所の文脈を読み切れば、小さな面でも深く刺さります。
たとえば3月。日本武道館の最寄り駅である九段下は、普段は官公庁やオフィスが並ぶビジネス街ながら、卒業式の時期になると袴姿の学生やご家族が大勢行き交う“学生向けの穴場”エリアに様変わりします。
3月に九段下駅で展開されていたメルカリの広告では、学生生活の記憶をリアルにくすぐるラインアップを描きつつ、メルカリ活用を静かにプッシュするような内容に。
同様にElithの広告では、AIとのチャットを模したクリエイティブに。「結論から言うね、それ、**正解**」とAIの解答の雰囲気をそのまま表現。学生の卒業式シーズンに合わせたメッセージで、テキストだけの余白たっぷりなデザインも、AIの淡々とした雰囲気が印象的でした。
その他、1月の受験シーズンには、ラムネ粒に超小さいイラストを描き込み、それらを連続して並べることで物語を紡いだ森永ラムネの広告(画像左)、「バレンタインに、めっちゃ売れたい」という、切実すぎる想いを前面に押し出した板チョコアイスの広告(画像中)、卒業や進学といった人生の節目を迎える家族への手紙……のような温かさがあった、はるやまの広告(画像右)など、季節性のある展開はOOHならでは。
同じ広告でも、出す時期によって受け手が感じる“意味”は大きく変わります。いつ・どこに・誰がいるのか解像度高く想像できれば、大型枠に頼らずとも「自分ごと」にしてもらえる。OOHはカレンダーと一緒に検討したいところです。
