高精度のAI予測が現場で使われないのはなぜ?
しかし、高精度の予測モデルが完成しても、すぐに現場で活用されたわけではなかった。
営業やマーケティング部門へ事前説明を行ったところ、現場からは「スコアが高くても確定ではないなら意味があるのか」「スコアが高いならフォローは不要ではないか」「スコアが高い理由がわからないと電話できない」といった反応が出たという。
単純に「このリードは85点」という高いスコアだけを提示しても、背景がブラックボックス化しているため現場は動けないと判断したのだ。現場でスコアリングを機能させるために、「AIによる出力をヒトが変換すること」が非常に重要だと天間氏は語り、実施した3つのアプローチを紹介した。
- 理由の言語化:確率の数値をそのまま渡すのではなく、「先週からヘルプ閲覧が急増しているため、検討が深まっているサインだろう」と、特徴量の意味を人間が理解できる言葉に翻訳して伝える。
- 自律性の担保:スコアを絶対的な架電指示とせず、「優先順位をつけるための武器」として提示する。「スコアを見て自分でどう動くか決める」という余地を残すことで、営業担当者の自己効力感やモチベーションを保つ設計にした。
- 期待値のコントロール:高スコア=必ず購買されるのではなく、「今が最もアプローチが効く確率が高い瞬間である」という共通認識を作った。
これらの工夫により、AIが弾き出したスコアは現場で実際に活用されるものとなった。
ミスミのリアルな実情と現場を巻き込む工夫に対し、安藤氏は「すぐに架電しろと指示するのではなく、営業担当者が考える余地を残した上で展開していく点が素晴らしい」と語る。そして、「高スコアならフォローは要らないのではないか?」という声への対応をたずねた。
スコアが高い顧客は課題を抱えて購入意欲が高い状態。言い換えれば、競合する企業で購入するリスクが非常に高い。だからこそ、「スコアが高い顧客ほど先にアプローチする必要がある」と伝えたと天間氏は振り返る。実際、高スコア顧客に対してメール配信やバナー表示によるフォローを実施した場合と未実施の場合を比べると、CVRに約3〜5倍の差が出るデータも得られているという。
複雑化する購買プロセス、「なぜ今、何を話すか」を可視化せよ
続いてLayerXの北川氏が取り組みを紹介した。LayerXは、稟議、経費精算、法人カード、請求書受取、請求書発行、勤怠管理、給与計算などのバックオフィス業務を横断してAIで自動化するサービス「バクラク」などを展開する企業だ。
北川氏は、現在のBtoBにおける購買プロセスの複雑化を指摘する。「バクラク」のようなバックオフィス向けのサービスでは、現場、経理、情報システム部門、経営層など複数のバイヤーが関与し、それぞれが異なる課題を抱えている。さらに、採用増加や組織変更、決算期の接近など、会社の状況や外部環境によってニーズは常に変化し続けている。
「『ホワイトペーパーをダウンロードしたから確度が高い』といった、単純な行動スコアの方程式はもはや存在しません」(北川氏)
過去のアクションの累積でスコアを加算する従来型のモデルでは、MA上の行動だけを追いかけてしまい、顧客企業で起きている「組織変化」や「検討背景」「過去の課題」を捉えきれない。結果として、営業は「なぜ今、何を話すか」がわからないまま架電することになり、商談につながらず、マーケティング部門への信頼が低下していくという悪循環に陥る。
そこでLayerXが目指したのは、スコアリングを「営業が使える会話の根拠に翻訳する」ことだった。営業に渡す際には、以下の3つの観点を言語化することが必須だと北川氏は言う。
- Why now:採用が動いている、比較サイト経由の訪問があるなど、今顧客の環境に起きている変化。
- Why me:過去商談での課題や、競合との差分、自社が解決できる強み。
- What to say:スコアの高さではなく、月次決算の早期化など、現場の課題解決に向けた具体的な対話の糸口。
