重要顧客に狙いを定め、戦略的にアプローチする「Account Based Marketing(ABM)」。大手企業を相手にするエンタープライズ営業において、ABMは極めて重要な手法となりつつあります。一方で、初任者がその全体像を掴むのは容易ではありません。本稿では、この春からエンタープライズ営業に携わる方が自信を持って最初の一歩を踏み出すための「ABMの教科書」を紹介します。
2000年代初頭に米国で発祥した概念
今回紹介する書籍は『重要顧客に集中し事業をスケールさせる ABM 基本と実践』。著者は才流の代表を務める栗原康太氏と、同社でシニアコンサルタントを務める政次貴弘氏、今西佑太氏です。
栗原康太、政次貴弘、今西佑太(著)日本実業出版社
3名の著者が所属する才流は、BtoBマーケティング支援や法人営業支援など、ビジネスコンサルティング事業を展開する企業です。栗原氏は2016年に同社を設立。政次氏はCRMベンダーのセールスフォース・ジャパンで営業部長を経験したのち、今西氏はクラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRでマーケティング部長を経験したのち、それぞれ才流にジョインしました。
本書のテーマは「Account Based Marketing(ABM)」です。2000年代初頭に米国で発祥したABMは、次のような活動を指します。
取引したい企業を選び、その企業に対して営業・マーケティングをはじめとする複数部門が連携して動くアプローチです。「この企業と取引したい」と最初に決め、その企業にリソースを集中させます。(p.22)
本書は「基礎知識編」にあたる第一部と「実践編」にあたる第二部で構成され、両者の割合は1:3。ABMを実行するための手の動かし方が、たっぷり6章分も掲載されています。
取引したい企業にアプローチをする──非常にシンプルな目標ですが、これを達成するためには取引したい企業を戦略的に特定し、営業・マーケティングは強固に連携する必要があります。あえてハードルの高そうなABMにチャレンジする意義は、どこにあるのでしょうか?
量のLBMと質のABM
ABMにチャレンジする意義を理解するため、ABMと対になるアプローチ「Lead Based Marketing(LBM)」について理解を深めてみましょう。本書ではLBMが次のように定義されています。
大量のリード(見込み顧客)を獲得し、そのなかから条件を満たすものを案件化します。セミナーや広告、ホワイトペーパーなどで幅広くリードを集め、スコアリングや選別を経て営業に引き渡すイメージです。(p.24)
たくさん集めて対象を絞り込むLBMと、最初から対象を絞り込むABM。前者の場合は数が物を言うため、アプローチの仕方がどうしても汎用的になってしまいがちです。たとえば大型の展示会に出展し、自社のブースに立ち寄った数百名へメルマガを一斉に配信しても、そのメールは競合他社の売り込みメールに埋もれてしまうでしょう。
一方で、ABMは取引したい企業をバイネームで特定することから始まります。これにより、その企業を深く理解した上でアプローチの仕方を設計できるのです。たとえば「国内シェアTOP3の自動車メーカー」と最初から狙いを定め、3社の役員が興味を持ちそうな業界動向レポートを個別に作成したり、手紙を通じてピンポイントでキーパーソンにコンタクトを取ったり。ときには技術に詳しいエンジニアやなども巻き込みながら総力戦で臨む構えです。
「受注までが長い」「目標未達の不安」ABMの課題
これだけ聞けば「量より質のABM一択では?」と思うかもしれませんが、ABMを機能させるためにはいくつかの前提条件や超えなければならない壁が存在します。本書ではABMのつまずきポイントとして次のような具体例が紹介されていました。
- 営業担当者は、リストに沿って電話やメールを送っているが、そもそもアポイントが取れない。ようやく初回の面談にこぎつけても、2回目につながらない。受注まで1年以上かかることもあり、進捗が見えないまま目標未達への不安を抱え続けている。
- マーケティング担当者は、大手企業との接点をつくる最適な施策がわからない。営業からは「新規リードがほしい」「事例集がほしい」「業界別の調査レポートをつくってほしい」と要望が来るが、優先順位がつけられずリソースが足りない。短期的な成果を求められ、長期的な施策に手が回らない。
(p.28、29)
本書では、このような状況に陥る要因をABMのステップ別に紐解いた上で、具体的な解決策を提示しています。この春からBtoBビジネスへ携わることになった方や、ABMを新たに取り入れることが決まった組織のセールス・マーケティングご担当者は、ゴールデンウィーク中に本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと休暇明けのスタートダッシュを助ける一冊となるはずです。
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- この記事の著者
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SalesZine編集部 渡辺佳奈(セールスジン編集部 ワタナベカナ)
1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2013年に卒業後、翔泳社に新卒として入社。約5年間、Webメディアの広告営業に従事したのち退職。故郷である神戸に戻り、コーヒーショップで働く傍らライターとして活動。2021年に翔泳社へ再入社し、SalesZine編集部に所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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