「営業がAIを使いこなすこと」は顧客の価値になるか?
この連載では、これまで一貫して「共創型営業」をテーマにしてきました。
これまでの4回を通じて、「顧客との共創をいかに設計するか」を、商談設計・プロセス・会議運営のそれぞれの角度から見てきました。
第1回~第4回の振り返りはこちらから。今回の最終回から読むのもおすすめです!
そして今、営業の現場には「AI」という大きな変化が訪れています。様々な業務がAIによって効率化されることで、多くの営業が「70点」のラインに立てるようになりました。
しかし、ここでひとつ問いたいと思います。そうやって実現できた「70点」は、顧客にとって本当に価値があるものなのか。「AIを使いこなせる営業組織を目指すこと」=「顧客にとって価値ある営業組織になること」とは限りません。
70点の営業では、顧客の心を動かせない?
あるSaaS企業の営業マネージャーから、こんな相談を受けました。「AIを導入してから、チーム全体の提案の質が上がった。でも、なぜか大型案件が取れなくなってきた」と。
よく話を聞くと、チームの営業が全員、同じような提案資料を出すようになっていました。AIが生成した構成、AIが整えた言葉。たしかに「そつがない」。しかし顧客から見れば、どの営業と話しても同じ体験しか得られない。その企業は、知らぬ間に「均質な70点集団」になっていたのです。70点の提案だけでは、顧客の心を大きく動かすことはできません。

セールスイネーブルメントの役割は営業力の底上げです。「型を整える」「マニュアルを作る」「ナレッジを共有する」。営業担当者ごとのばらつきを減らし、組織として一定の成果を出せるようにする。そしてAIは、この「底上げ」を一気に加速させます。
一方で、ここに落とし穴があるのです。全員が同じように情報を整理し、同じように資料を作り、同じように提案できるようになるほど、顧客から見た営業体験は均質化していくからです。
顧客が本当に求めているのはミスのない営業ではありません。「自分では気づけなかった課題を一緒に見つけ、自分だけでは描けなかった未来を一緒に設計してくれる存在」。「底上げ」を目指すセールスイネーブルメントにおいて、見落とされやすいポイントです。
